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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■命ゴイ編
22/81

最長の最短(19)

 間違えたらおしまいのクイズ道を、レッドが先頭で歩く。気持ち足早なのは、後方でグチグチとぼやきながらついてくるナビに選択を任せられないからだ。


「あのバカが。あいつが蛮女の信奉者な以上、俺がやらねえと……」

 妙な使命感も湧いているが、間違った判断ではない。


 二人が選んだ道は、真っ当に正解ルートであったようで。

 紫ガラスの通路がそのまま続いており、しばらくすると。

 またもや、先ほどと同じような大広間に到着した。


『――汝ら、汝ら、汝ら。己が信に反しても歩み征く、冷厳なる覚悟を問うか』

「……あと何体いんだよ、メイズシュヴァリエ」


 先ほどと同様、古き皇騎士鎧を全身に装着した三本角の迷宮騎士が、部屋中央で大仰に立ちながら、ボロボロの皇騎士刀を地面に突き刺している。


「ま、待ちなさいレッド、けほっ」

 追いついてきたナビはお疲れ中。


『――汝ら、汝ら、汝ら。己が信に反しても歩み征く、冷厳なる覚悟を問うか』

「ああ、やるって! さっさと言え、古き盟友よ!」

 存在は知らなかったが、同じ皇国に仕える皇騎士。

 レッドはかすかな親近感を抱いている。


『汝が信、さすれば聞き届けよ』

 返事をしたメイズシュヴァリエの目元スリットが強く発光。

 続く、軽々しい声は、期待どおりに落胆させてくれる。


――ジャジャンッ! 命ゴイ公式設定問題ッ! 第二問ッ! 

――「俺さマゾの一皇ディアルス、彼の思い人は?」

――A:美しき皇城建造の女神、神殿神グッディフル!

――B:亡き前皇妃の一人娘、弟に殺された許嫁、花詠みの皇女!

――C:みんなに優しいが、自分にはとくに優しい九皇ウェイン!


「これは分かります! 答えはCです! 令嬢の皆さまはそう言ってましたっ!」

「黙れ魔女がッ! 答えはBだ、メイズシュヴァリエ!」

『汝の信念、さすれば見届けよ』

 声量で負けたのか、迷宮の主はレッドの返答を採択した。


「レ、レッドっ!? なにを血迷っているのですっ!? こんな常識問題にっ!」

「血迷ってんのはテメェだ。ディアルスはずっと亡き皇女のことを想って……」

「ちーがーいーまーすぅぅ! 一皇と九皇は”きゅう×いち”だと皆さまがーっ!」

「うっせえ黙れ! これ以上俺たちに蛮女の歪んだ懸想をぶつんなッ!」

「懸想ではありません! この世の真理ですっ!」

「んなもの碧い波に食わせてろッ!」


 マジの怒りで食らいついてくるヘルプヤクの魔女を前に、皇騎士十三皇は疲れた面持ちで赤髪をかきむしった。「このポンコツ女がよ……」。

 普段は悪ぶりと強気さがウリのレッドだが、切れ長のゴールドアイは疲れと嫌気でヘナっとなっており、爽やかさと男前度が気持ち下がっている。


 紫ガラスの広間の奥、三叉路のうち、またもやメイズシュヴァリエの真後ろの通路のモヤが晴れた。その途端、レッドはナビをおいてけぼりにするために小走りで駆け込むと、「ま、待ちなさい!」世の真実を伝える義務感に駆られた魔女が、美しい銀の一本髪と黒絹のローブを乱して、イマイチな速度で追いかけた。

 レッドは走る間、ときおり後ろを振り向いて、また走った。


 二体目のメイズシュヴァリエの問いも正解だったか。二人はどこかへと飛ばされることもなく、廃棄迷宮をひたすらに進んでいく。

 その先にはおなじみ、またまた大広間が。


「……まだあんのかよ」

「ま、待ち、けほっ。ゼェゼェ、こほっ!」


 そしておなじみ、またまたまた同じように。

 三体目の迷宮騎士が、荘厳な姿で、しょうもないクイズを提示する。


――ジャジャンッ! 命ゴイ公式設定問題ッ! 最終問ッ! 

――「皇騎士十三皇レッドと、外騎士二皇フィカの関係は?」

――A:互いを信じ合える、離れ離れの運命の幼なじみ!

――B:皇国を信じる処刑人と、皇国を裏切った謀反人!

――C:「キミの花を裂いてやる。僕のティア・フロトゥピスで」


「答えはシぃ――むがっ!」

「テメェはもう黙ってろ」

 ナビの口元が、レッドの黒塗りの手甲で塞がれた。

 身体が直接的に触れあえない世界でも、挙動の結果は反映される。


「メイズシュヴァリエ、答えはBだ」

『汝の信念、さすれば見届けよ』

 ナビの口元を抑えつつ、レッドが即答。迷宮騎士も素直に答える。


「クックク……皇騎士の俺がよもや処刑人か。悪かねぇ肩書じゃねえか」

 自嘲気味に笑うその顔に、一瞬だけ、鋭利な野性味が浮かんだ。


 ナビは抑えられていた口元の手を振りほどき、クイズの答えに対して真っ赤な顔で遺憾を表明しながらも、紫のモヤが晴れていく次の進路を横目で見る。


「外騎士二皇。あなたとは因縁浅からぬ相手でしたね」

「ケッ」

「彼ら外騎士もまだ、追放棄路のどこかで生存しているのでしょうか」

「知るか。どうでもいいし、むしろ死んどけ……ぁん? おい、なんだありゃ」


 一瞬の光。レッドはメイズシュヴァリエの彫像の足元に、なにかが生成されたのを目撃した。彼はその事象を確かめるべく、迷宮騎士の目の前まで向かい。

 手を伸ばす。二本の指でつかんだものは、古びた鉄鍵だった。


「鍵……ですか。どこかで使うのでしょうか」

「知らねえが、置いていくって選択はねえよな」


 そう言った彼は、古い鉄鍵を手元で眺めたあと、おもむろにナビに差し出した。彼女も鍵をすぐに受け取り、黒絹のローブの内側ポケットにしまい込む。

 その間、レッドはついでとばかりに、眼前に突き刺されていた皇騎士刀を力ずくで取り外し、握りの感触を確かめながら、目の前で何回か素振りをする。


 刀の柄は和風なイ草色だが、鍔には半壊した洋風のナックルガード。和洋折衷なアンバランスさ。ところどころ茶色く錆びていて、刃こぼれも激しい。

 それでも「まあ……」握りに納得したか。袴のオシャレベルトにむき身で差す。


「メイズシュヴァリエの刀、持っていくのですか」

「無手よりはマシだ」

「あなたの染め紅も、碧い波のなかにあるのでしょうか」

「気落ちすること言うんじゃねえよ、クソがよ……」


 愛刀の所在に思いをはせ、肩を落としたレッドが歩き出す。

 ナビは悪いことを言った意識もなく、後ろをついていく。


 廃棄迷宮は結局のところ、選択肢のBのみが正解という共通仕様であった。

 これはナビによるクソみたいなチュートリアルのリスペクトの意だ。


 大広間を出た先は、これまでのような異空間じみた紫ガラス張りの道ではなく、無機質な石レンガを積み上げただけのトンネル道になっていた。

 壁や天井は随所で崩れており、激しい戦いでもあったかのような状態。ゲーム的に崩落することはないが、特定の地点を通ると、天井から「ザザザー」と砂埃が落ちてくる演出はよくできている。命ゴイは細部は凝っている。細部は。


 二人は道なりにまっすぐ歩いていった。サッドライク皇城の裏手からずっと地下を歩き続けてきたが、数十分ほどしたころ。人工的な光源ではない、天然の日差しが差し込む道をようやく目にする。それは外の光。出口の照明。


 メイズシュヴァリエの問いかけは簡単ではあったが、内心、間違えれば命に直結しかねないと気を張っていたレッドも、ここで緊張感を緩める。

 そして斜め後ろを歩く黒い魔女。ナビに一声かける。


「ようやく外だ。ほら行くぞ、ナビ」

 緊張が途切れたことで、肩肘張ってきた皇騎士にも隙が生まれたか。

 レッドは普通の好青年のように、爽やかな笑みを浮かべる。


「ええ」

 ナビも可憐に、ちいさくほほ笑んで返す、が。

 それは状況への安堵であり、イケメンビームは効いていない。


 トンネルのように、先の光景がまばゆくて目視できない出口へと近寄る。

 これまで死に目の連続であったぶん、二人とも張った気を弛緩させていた。

 出口まで、あと一歩。レッドが踏みきり、次いでナビが出ると。


 そこには……赤い空。荒れた地面。散在する何者かの武具の残骸。

 周辺には、ひしゃげた木々が林立していた。


「ここが追放棄路……美しくはないですが、新鮮な光景です」

「赤い空ときたか。クックク、皇国に反する者の逃げ場にはふさわしいな」


 それぞれ直感的な感想を口にするも、やがて両肩に力を入れた。

 出迎えてくれた大地が、見慣れた景色より、少々おぞましかったために。


 命ゴイは二〇六一年十月のサービス開始後、約半年後となる二〇六二年四月に、大型アップデート「闇の六皇:外騎士の反旗」を実装した。

 これによりサッドライク大陸の最奥地は、それまでのサッドライク皇城からここ追放棄路へと変わり、全フィールド面積も約1.5倍に広がった。


 追放棄路の特徴は、皇国の罪人が集う荒れ地として、空が赤く見えること。

 皇城側では青い空が続いているようにしか見えないが、追放棄路側にいると赤い空しか見えなくなる。フィールドデザインがそうなっているためだ。


 それが、命ゴイの大原則のルールであったはずだが。

 赤い空しか見られないはずの追放棄路からでも、遠くに青空。

 いや、碧い波が、世界を赤と青の二色に分けていた。


「サッドライク皇城も、すべて飲まれましたか」

 目測では、追放棄路の門壁もすでに波のなか。

「世界の終焉ってやつを実感するな。クックク、皇国ももう終わりってか……」

 悪ぶって強がるレッドの顔には、怒りも感じる。


 もし、最初に門壁があっさりと開いていたら、とっくに来ていたはずの場所。

 とてつもない大回りでやってきたがために、碧い波にはずいぶんと迫られた。

 けれども、二人がここに来るには、それしかなかった。

 ナビとレッドは最悪な状況下で、たった一つの正解をなぞってきた。


 そして大陸の反対側。ここより進むべき道の先には以前よりも。

 ナビの目的地である、黒と白の二本の天塔がより近くにそびえ立っている。


 幸い、二人が出たのは追放棄路の門壁よりも奥に位置している、岩壁の切れ目のような場所だった。さらに幸運なことに、碧い波の動きも鈍くなっている。

 なにか、フィールドの切れ目でまごついているようにも見える。

 もし万命の令嬢なら「クソ長ローディングやめてー」と愚痴るだろう。


「んで、ナビ。ここからどうするつもりだ」

「天塔を目指します。ずいぶん遠回りしましたが、最初から目的はあそこです」

 目を向けたのは北西。黒い天塔のほう。


「黒い天塔の場所は、予想どおり永久鋼土のようですね。白い天塔のほうは」

 次いで北東。白い天塔に目を移す。

「あのあたりは……おそらくですが、外騎士の崩れ拠点でしょうか」

「クヴァルス兄貴……いいや、皇国に仇なすクズども、外騎士一皇の隠れ家だ」


 大型アップデートの最大の追加要素は「闇の六皇」の存在にある。

 過去、ディアルスやレッドたちとともに皇国の皇騎士になるべくしのぎを削っていた男仲間たちのうち、ディアルスの実弟「クヴァルス」が、急に一皇にして兄の許嫁を殺害したと()()、袂を分かって追放棄路に逃げ延び、今まさに命ゴイ最大の反旗を企てている――といったシチュエーションだ。


 皇騎士の道から外れた「外騎士」は、シリアス色の強くなった追加ストーリーでメイン敵を張る、いわば"ボロボロに傷ついたダーティな闇落ち系イケメン"の属性で、万命の令嬢たちの新たなサディスティック魂を喚起しようと狙った。


 ついでにラスボスはおろか、隠しボスのレッドですらクソザコ扱いされていたやりがいのないエンドコンテンツも深掘りされ、ランダムなMOBがランダム生成の布類や宝玉をドロップする最難関ダンジョン「永久鋼土」も登場。

 魅力あふれるこれらで、万命の令嬢たちの心をつなぎ止める戦略であったが。


『外騎士よっわwwww カッコつけのメンタル絹豆腐とかコントかよ。眠いわ』

『てゆうか六人中、四人が色違いのコンパチとかなめてんの? 無料でも金返せ』

『キザでナルいイキリ屋をいたぶれるってところだけは、まあ評価してあげる』

『この短期間でこの量の新要素って、明らかに未完成商法ありきの展開っしょ』


 などと、運営の起死回生にはほど遠く、三か月後には過去最高のアクティブユーザー数減により、サービス終了が告知され、二〇六二年十二月。提供終了。雲隠れした開発会社から派遣人材を呼び戻したパブリッシングのイヴゲームスには。


『あんたたちさあ、株主にちゃんと命ゴイしたら?』

 といった応援のメッセージがたくさん届けられた。


「ナビ、どっちの天塔に行く」

「黒の天塔です」

 迷いなき一択の速さで答える。


「ぁん? わざわざ禍々しいほうに行くってか」

「女なら黒一択だと、元気なときのハナリナさまが」

「……テメェ、もはや魔女どころか、蛮女の侍女じゃねえか」

「そのとおりですが? 勘違いしていたのは最初からあなたですよ、レッド」

「ケッ」

「それに」

「それに?」

「……いえ、べつに。なんでもなかったです」


 それに、万命の令嬢たちはみな。

 「ナビは黒が似合うね!」と言ってくれたものだ。


 真っ赤な血液のような天の下。ナビは気を入れ直して、恐怖をあおり立ててくるひしゃげた木々と、武具の残骸のようなものが至るところに転がっているデコボコな大地を見定めて、追放棄路への一歩を踏み出した。それと同時に。


「――まさか、こんなところでお目にかかるとは。キミがヘルプヤクの魔女か」


 後ろから。頭上から。尖った甘い声色で。

 何者かが、ナビに飛びかかってきた。


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