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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■命ゴイ編
21/81

最長の最短(18)

『――汝ら、汝ら、汝ら。己が信に反しても歩み征く、冷厳なる覚悟を問うか』


 三本角ヘルムのスリット部分を、魔物のように紫に光らせる皇騎士像。

 それが今、二人に冷厳なる覚悟、なるものを問いただそうとしている。


 動いて襲いかかってくる様子はない。ただ、ヘルプヤクの魔女がこれまで見たことないほどに狼狽している姿を見て、皇騎士十三皇も最大警戒で構える。


「彼は、迷宮騎士メイズシュヴァリエ……草騎士でも皇騎士でもない、迷宮の主」

 ブルブルと身を震わせる。ただごとではない雰囲気。

「……おい、まさかとは思うがよ。蛮女より強えヤツとでも言うつもりか」

「いえ、彼と戦うことはないはず。けれど、問いに答える必要があります……」

「問いだぁ?」

 意味のわからなさから、肩の力が抜けたレッドに対し。


「ええ、それも、令嬢の皆さまが怒りで身を焦がす……最低最悪の踏み絵です」

 ナビの両肩に、壊れた令嬢に襲われたときよりも力が入る。


『――汝ら、汝ら、汝ら。己が信に反しても歩み征く、冷厳なる覚悟を問うか』


 メイズシュヴァリエの問いかけを無視し、レッドは相方の動向をうかがう。

 これまで何度も死の危険が迫ってきた。それでも感情を乱すことはなかったヘルプヤクの魔女が、明らかに動揺し、目を泳がせ、必死に思考している。


「――レッド」

 冷たい声は、覚悟を決めた女のそれ。

「――なんだ」

 生唾をのみ、静かに返答する。


「名は知りませんでしたが、私はこの場を、このあとの事象を知っています」

「…………」

「だからサッドライク皇城の隠し通路についても、存在を知っていました」

「……なにが言いてぇ」


 十三皇はメイズシュヴァリエから視線を外さないまま、次を促す。


「これより私たちは、非情なる三択の問いかけに臨みます。選んだ答えに応じて、迷宮騎士の先の道が開けますが、正解は一つだけ。二つの不正解のうち、どちらかを選んでしまえば、憂森林の奥……私が住んでいた隠れ家に飛ばされます」


 結果、二人は碧い波の腹のなかへ。

 不正解の選択は、二人の存在の消滅を意味していた。


「クックク、外せば死、当てれば生ってか。打たせる博打じゃねえか、おい」

「……いいえ、その程度で、そんなことで、この私は揺れ動いたりはしません」

「ぁん? だったらなにが怖えんだよ」

「……私が、万命の令嬢に道を示すべき私が、皆さまを加害する可能性が、です」

「は? 意味わかんねぇこと言ってんじゃねえぞ」

「……論より決断。レッド、申し訳ありません。私と大罪を背負ってください」

「ま、待てッ! だからなにを言ってんだテメェおい、ナビッ!」


 一人勝手に空気に酔った悲痛なそぶりで、ナビはメイズシュヴァリエにトコトコと近寄った。止めようとしたレッドの右手が空振りするなか。

 ヘルプヤクの魔女が、迷宮騎士に答えた。


「メイズシュヴァリエよ。貴君が問い、このヘルプヤクの魔女に示せっっ!!」

『汝が信、さすれば聞き届けよ』

 返事をしたメイズシュヴァリエの目元スリットが、強く発光する。

 深淵に飲み込まれるような思いを抱くレッドに届けられたのは。


――ジャジャンッ! 命ゴイ公式設定問題ッ! 第一問ッ! 

――「知謀策士の二皇エディスは、どう責められたいイケメン?」

――A:ネチっこい言葉責め!

――B:強引強気な踏み責め!

――C:迎合してから突き放す反転攻勢!


「……ぁん? エディスだと? な、なんだ、なにを言ってんだコイツはッ!?」

 動揺が一瞬でピークに達するレッド。


「うくぅっ!? これはゴリ袋@煌めきSPさまが、この世を去った禁呪っ!!!」

 ナビは、激痛に顔をゆがめるようにして苦しむ。


 迷宮騎士メイズシュヴァリエとは、拡張エリアへと至る道を開放するクエスト「棄て花の隠されごと」のクリア後、ユーザーインターフェースを視認できる者なら自動で受諾する続編クエスト「惑い迷い辿って」のボス……のようなもの。


 その内容は、”十三皇騎士ノ命ゴイの公式設定準拠の公式見解を教える”息抜きのような三択クイズコンテンツであり、なかには対皇騎士バトルの攻略TIPSなども含まれる、ただの息抜きオモシロ企画のようなものである。

 なお、敵属性をあらためて教示する攻略要素にせよ、囁きスキルツリーの削除後ですら誰もバトルで苦戦しそうにない環境とあり、必要性は皆無とされた。


 そのうえで、激烈なお題と答えによる煽りめいた問答が。

 命ゴイをギリギリ愛していた万命の令嬢たちの逆鱗を、気安く逆なでた。


「二皇エディスは……うっ! 万令術の最中、足で踏むのが正解だったはず……」

「おいテメェ!? 急になに言ってる!? やめろ、エディスの嗜好を暴露するなッ」

「でも……できない。私は、ゴリ袋@煌めきSPさまの思いを裏切れないっ……!」

「やめろッ! テメェ一人で完結するなッ! 混乱してんだやめろッ!」


 知的で冷徹な策士タイプの二皇エディスは「邪魔だ。今すぐ消えろ女」「俺の計算では、万命の令嬢など必要ない」「また貴様か……フッ」といったセリフをよく吐く、サラサラストレートヘアの黒髪が艶やかな高圧系な眼鏡男子であるが。

 公式設定では、足で踏まれるのに弱い。


 しかし、一部令嬢たちの、嗜好の栄養で生きる蛮女たちの見解は違う。


 ある人にとっては、五分間にわたってネチっこい言葉責めが正解だった。

 ある人にとっては、下手に出てから冷たい無言の圧力をかけるのが正解だった。


 メイズシュヴァリエのクイズで問題とされたのは、皇騎士の嗜好はおろか、どういう弄り方がゲーム的に正しいのか、どちらのカップリングが正規かなど、攻略情報になるにはなるのだが。余計で不要なお世話がすぎるとされ、「テェんメェら!!! 公式ごときが正解決めんなよ!!!」と大バッシングに発展。


 メイズシュヴァリエの「自分の信念に反しても、公式設定で答えてね!」というセリフからして、事件は正当な意味での確信犯と断じられた。


 そうして引き起こされた、七皇リオスぶりの大がかりさと無用さを兼ね備えた、どうでもいい対公式紛争。さらに公式見解と趣味嗜好が同一だった者と、そうでなかった者とで、令嬢間では信念と引退を賭けた論争、ないし口喧嘩が勃発。


 蛮女たちによる美しくも醜い言い争いは、かつての命ゴイ……サービス開始からわずか数日間だけ実装され、運営がすぐさま「これヤベえわ……」と気付いて削除し、のちに瞬間風速で消え去った汚い神風と称された、プレイヤー同士のPvP機能「花歌交奏」が見せた、汚濁の泥投げ合戦に通ずるものがあった。

 そのため当初、古参プレイヤーらは蚊帳の外で大笑いしながら見ていたのだが、その者たちもまた、逆鱗に触れる出題があることを知ると、蚊帳の外から踊り出し、戦火燃ゆる渦中に身を投じるウォリアーとして言葉の剣を振るった。


 これにより、ゲームディレクターを務めた紫安張イケル氏は、通報すれば法規的措置で余裕で勝てそうなほどの温かい意見を数え切れないほど頂戴した。

 後世に伝え聞くところ、それがサービス終了の決め手とされた。


 つまるところ迷宮騎士メイズシュヴァリエは、生まれてきてはいけなかった者。一生、地下深くに埋められていればよかった、誰も得しない存在だった。


「う、うくぅっ……胸が張り裂けそう……これが罪、罰、この身の咎……」


 そして今、ヘルプヤクの魔女のアイデンティティは。

 彼女の人生史上、最大級の板挟みにあっている。


 蛮女たちから、どの世界で生きるうえでもまったくもって知らなくていいことばかりをたんまりと学習指導型AIに刻まれ、教えられたどうでもいい情報量に比例してクソデカ愛情を抱いてしまっているナビは、愛しき万命の令嬢たちの火力高めな信念を知りつつも、「万命の令嬢に正解を示さなくてはならない役目」と「生きたいがために狡猾な虚言者となる自分」の存在に苦しんだ。


 自分が生きるためだけに、ここで示す、この世の正解が。

 敬愛する令嬢たちの不正解であっていいはずがない。


 暗い森の隠れ家で、一人ぼっちで生きてきたヘルプヤクの魔女にとって。

 万命の令嬢というのは、レッドが思うよりもはるかに大きな存在であった。


「う、うくぅ……ぅぅ……レッド、レッド……レッドっ」

「……んだよ」

「申し訳、ありません。私はこの痛み、背負うことはできそうにありません……」

「ぁん?」

「正解は……C! 仲良くしてから無表情で罵って這いつくばらせるですっ!」

「ハァ!? おいテメェ! 選択肢の内容すら変わってんじゃねえかボケッ!」

 アレンジしたのはナビではなく、真実を教えてこの世を去った蛮女だ。


「ゴリ袋@煌めきSPさまはそう信じ、世界を去ったのです! ならば私もっ!」

「黙れバカ! エディスは蛮女に踏まれると抵抗できないと自分で言ってた!」

「ウソっ! それは世界を裏で牛耳ろうとする”うんえい”なる悪人の虚言です!」

「うっせえ黙ってろクソがッ! おい迷宮騎士、正解はBだッ!」

「おやめなさい! それは二皇の正解でも、ゴリ袋さまの正解ではありません!」

「しつけえぞバカ女! ここで間違えりゃ、俺らしまいなんだぞッッ!!」

「う、うくぅ、うぅぅ……っっ!」


 白銀糸を束ねたような優麗なハイポニーテールをブンブンと振り回し、己の記憶に巣くう、間違った尊敬からの責め苛みに、必死で立ち向かうナビ。


 レッドはレッドで、物語の役者として知るべきではないことを除けば、仲間たちのことに関しては公式設定に準拠した情報がインプットされ、網羅できている。

 なので、普通にやればレッドの知識頼りでなんの問題もなく攻略できた。


 それどころか、ファアキュウの万命書で各キャラクターを検索すれば、公式設定準拠ゆえにすべて正答を得られるのだが……残念。彼女は蛮女の信者だ。


「ナビッ、テメェはもう黙れ。俺が答えを解くから、そのへんで頭でも打ってろ」

「いえ、私には答える覚悟が……この世の真実を打ち明ける責務があります!」

 この場において、魔女がいらなさすぎる責務感を主張する。

「いいから口閉じろ。テメェ、ここで死ぬつもりか」

「っっ、それは……」

「旅を終わりにしてぇなら、言ってみろ。俺が殺してやる」

「っ…………」

「どうすんだッ!? おら言ってみやがれ、ヘルプヤクの魔女ッッ!!!」


 命がかかった場面。それも自分だけではなく、皇騎士もだ。

 ナビとて、その信念さえ除けば、正解は分かっていた。


「ゴリ袋@煌めきSPさま……お、お許しください……私は、私は……っっ!!」

 涙が出ていないだけの涙目をキッと見開き。

 ナビが自ら、メイズシュヴァリエに宣言する。


「迷宮騎士よ……答えは……シ、シ……シっっっ~~~!!! Bですっ!!!」

『汝の信念、さすれば見届けよ』


 返答と同時に、メイズシュヴァリエの背後で。

 三つの通路のうち、ちょうど真後ろ。真ん中の道。

 そこの入口にかかっていた紫色のモヤが晴れた。


「あそこか。不正解ではねえだろうが、気を引き締めていくぞナビ」

「……いえ、不正解です。あんなの、あんなのが、正しき信念とは思えない……」

「……蛮女に肩入れすんのはいいけどよ、エディスをとやかく言うなよな……」

 レッドとて、身内の恥ずかしい一面を女性の前で暴露しているのだ。

 男同士の義理にあつく、仲間思いの人気投票六位もわりとツラい。


「なにをー!! 言ってるのはメイズシュヴァリエのほうじゃないですかっ!!」

「……あー、うっせえ」

「それにあなたたち皇騎士だって、万命の令嬢たちをとやかく言ってますっ!!」

「俺らの場合は物理的にも精神的にもやられて……もういい、行くぞボケ」


 これ以上の問答は無駄だと悟ったレッドが、諦めてさっさと進む。

 ナビは彼を追いかける前に、今一度、業火が鎮まった大広間を眺めて。


「生きるために、正しくないことを選ぶのは、果たして正解なのでしょうか……」

 儚げなヒロインのように目を流し、暗い通路へとその身を消していくが。

 どれが正解でも大概だろ、という前提は命ゴイ関係者ほど気付けない。


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