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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■命ゴイ編
20/81

最長の最短(17)

「ななな、なぜ急に扉が開いたのですかっ!?」

「知るかッ! それより早く立って走りやがれ、この貧弱女がよッ!」


 碧い波が二人を飲み込まんとする直前、気ままに開かれた鉄扉の少し先で背中から転んでいたナビを、レッドが力任せの片手で起き上がらせる。

 転んだ拍子に、銀色のポニーテールと黒絹のローブは土で汚れてしまった。


「クソがッ、碧い波がもうこっちまできやがる、走るぞナビッ!」

「わ、分かりましたっ!」


 隠し通路から広間までは暗い色合いの石造りであったが、鉄扉の先は地面も壁面も天井も土肌が露出しており、雰囲気がガラリと変わっていた。

 相変わらず光源はないが、視界は明瞭に確保されている。


 鉄扉を境界線に、碧い波がまたも足並みを止めるなか、レッドが先頭に立って土肌の直進路をひた走る。後ろを追うナビは、ボテボテと頼りない速度で徐々に引き離されていくが、皇騎士に魔女を置いてきぼりにする意図はない。

 彼は彼の信条に従って、道の先に危険がないかを身をもって確認していた。


 皇城からの隠し通路と同様、若干曲線になった一歩道を走り抜けていくレッドが、あたりに罠の類いもないと判断し、足を止めて後ろを振り返る。

 体力不足でヨタヨタしているナビが追いついたのは、一分ほどあとのこと。


「ハァ、ハァ、ま、まだ先があるのですか……」

「本当に体力がねえな、ナビ」

「ハァハァ、うるさい、です……」


 汗が吹き出る機能はないが、黒絹のローブの袖でおでこを拭う魔女。レッドも急かすつもりはなく、背後に碧い波が迫っていると知りながらも冷静を保つ。


「俺がテメェに花を渡したから、なのか」

「? なにがです」

「扉が開いた理由だよ。それ以外のことはなんもしてねえだろうが」

「でも、贈り物が条件ならロイヤルチョコレイトタルトと同じくダメなはずでは」

「……そいつは知らねえが、そうとしか言いようがねえ」

 赤髪をガシガシかいて、無理やりにでも推論する。


 レッドの言い分は正解だった。クエスト「棄て花の隠されごと」の達成条件は、隠し通路の先にしか存在しない黒い花「ブラックスターチス」を、恥ずかし魔女の隠れ家にいるナビに手渡すこと。これは贈り物ではない。彼女にアイテムを見せる「調べる」でないといけない。クエストアイテムを調べてもらって、意味深な興味と見解を示すナビが、廃棄迷宮までの道筋を話すとアンロックだ。


 これにより、贈り物システムを享受できない二人でも意図せず達成できた。


 とても都合のいい話であるが、サービス中はどちらかというと不都合でしかない仕様であり、「花贈ったのに進行しないクソゲー」「バグですか? 詫びてください」「設計がおかしい。死ね」などと。調べるではなく、贈り物で渡してしまったプレイヤーはクエスト進行バグと断じ、運営に罵詈雑言を浴びせた。


 一応、ブラックスターチスは無制限に生成されるため、再試行は容易だ。

 ただし、本クエスト自体が隠し要素の塊のようなものであり。

 できるだけ有償パスの購入を促したかった運営陣もヒントを提示しなかった。


 結果、本クエストは「ナビの好きなものは花とチョコ」というプロフィールを、彼女とのコミュニケーションを通して知っていない人には謎空間の謎イベントのままで、クエストリストを汚すように未達成の表記で圧迫する、網羅主義者には耐えがたいものとなった。また、ファアキュウの万命書にある一文だが。


――この質問内容は、多数のユーザー要望によりステータス【秘匿】です。

――意見抜粋:愛のない令嬢には見つけられん。一生迷ってろザコ女が。


 クエストの第一発見者にして、第一達成者となった万命の令嬢ハナリナにせよ、新規エリアで見つけた珍しい黒い花を、いつもの習慣としてさっそくナビに贈ったのだが、魔女の喜びの反応はいつもどおりの演出であった。


 そして一週間後。拡張エリアに進むためのレベル上げは、レベルキャップ開放以降の必要経験値が爆増していて嫌気が差した。有償パスは絶対に買いたくない無課金民の筆頭。特急券のロイヤルチョコレイトタルトは、アップデート前にお祝い気分でナビにプレゼントしたのがあだとなり、フラグが未解除のまま。


 パスもそうお高いものではないが、信条に反する課金誘導へのストレスがたまっていたころ。ハナリナは手がかりを求めてまた地下通路へと行き、収穫が黒い花しかなかったので、今日の贈り物として仕方なくナビにあげようとした。

 するとなぜか「調べる」コマンドがアクティブになっていることに気付いた。

 とりあえず見てもらうと、急にクエストが達成され、扉が開いた。


 運営の不幸は、この日のハナリナが"意地汚いほう"が動かしていたことであり、彼女はクエストの答えをみんなにひけらかしつつ、アイテム取り扱いの意味不明さに強火なお気持ちを表明。サポートフォームより運営にがなり散らした。

 それには真相を知ったご令嬢たちも相乗りし、受信メールを呪詛で埋めた。


 万命の令嬢たちは当初、情報を秘匿したわけではない。むしろ仲間内で気軽に教えあっていた。しかし、そこは情報の伝達ゲームの古来よりの欠損で。

 「ナビに渡せばOK」とだけ聞いた者が贈り物をして、なにも起きない。間違った贈り方でも喜ぶナビを前に「???」と微妙な顔はすれど、怒りはしない。

 けれど、答えをあらためて知って、試して、扉が開くと、お怒りに着火。


『贈り物と調べるとで、なんでコマンド分けたの? 急に頭の病気なの?』

『普通に強制イベントみたいなの発生させればいいじゃん。小指潰してよ』

『あんたたちゲーム作ったことあんの? あ、ないよね。産業汚物しか』

 彼女らの怒りは、それはもう運営をグチグチ、ネチネチと責めた。


 意味深な洞窟で取れる花をナビに贈る。たったそれだけのことだが、ヒントのない正解が祟った。また後続の令嬢たちが「扉開かないんだけど!」などとゲーム内外でがなり散らす光景に、わざわざ教えても「ウソ教えたでしょ!」などとイチャモンをつけられるケースも増えてきて、面倒になった先発者たちは結局。


『クッソしょうもないイケメンばかり追って、ナビを慈しんでないやつらにやすやすと教えるかよ。愛のない令嬢には見つけられん。一生迷ってろザコ女が』


 という、なんともまあ、そういう感情で達成条件は秘匿されはじめた。


 大型アップデート自体、多くの新規者や復帰者が入ってきたわけでもない。

 どちらかというと空気のまま失敗し、プレイ人口の先細りが加速した施策。


 顔見知りが減り、顔なじみが増えていく環境下。そうして万命の令嬢たちの嗜好の違いによる相容れぬ選民思想や、手の届く範囲だけの同胞意識が強まっていたことも、クエスト達成条件が秘匿される方向に進んだ原因となった。


「そういえば……ハナリナさま以降、この花をくださる令嬢が多かったです」

「ほらな。ロイヤルチョコレイトタルトと同じ、なんかのカギだったんだろうよ」

 レッドも分かっているようで分かっていないが、世界への疑問は少ない。


「なるほど。となると……そうですか。あれは好意ではなく必要なことで……」

「ぁん?」

「いえ、私、ちょっと勘違いしていたかもしれません……ふふっ、恥ずかしい」


 ハナリナに関しては、ナビに対する完全な好意だった。

 ナビにチョコレイトアイテムを贈る人もたくさんいた。

 ただし、花々を贈る人は少ない、というよりいなくなった。


 サッドライク大陸にはそこら中に花が咲いている。それを紡ぎ、ナビに渡すと、好感度が上昇する。しかしそれらは「どこでも拾える雑草みたいなもの」と定義されていたのか、ゆえにパラメータ稼ぎに悪用されないようにか、好感度は一定上限になると値が加算されず、また贈り物で得するキーアイテムもすべてチョコレイト関連に偏っていたがために、花はゲーム的に有効活用されなかった。


 そこに、急に、ブラックスターチスを。

 めったに渡されなかった花を贈ってくれる、万命の令嬢が増えた。


 それをナビは今の今まで、彼女たちの好意と思っていたが。

 ただ単に、扉を開くクエスト達成のための手段だったのなら。


 彼女は自分の勘違いに気付いて、恥じた。

 ナビの心はそれを恥の感情と捉えたが、正しくは悲しさ。けれど。


「おい、違えだろ。頭悪りぃな、森の引きこもりはよ」

「どうしてです」

「テメェが言ったんだろ。その花は、愛のない令嬢には見つけられねぇって」

「それは、そうかもですが……でも」

「俺はテメェに花をあげたくなった。なら、もっと身近な蛮女の答えもそうだ」

「…………」

「つまらねえことはよ、自分にメチャデカ都合よく考えるのがコツだそうだ」

「……まったく。皇騎士のくせに」


 そう言ったナビは、赤ら顔を見られないよう、レッドを一歩追い抜いて進みはじめた。十三皇はそれに気付きながらもイケメン顔で笑い、あとを追った。


 土肌の地下通路を早歩きで進む。ときおりナビが後ろを振り返ると、その意図に気付いたレッドも同じく振り返り、地下通路の後方を気にする。

 目に見える範囲に、まだ碧い波はない。だがこれまでのように、あの波は二人が想像するよりも早く迫ってくる。猶予はあるが、余裕は持つべきではない。


「すごい。このあたりの壁は……深紫宝玉の原石でしょうか」

 黒絹のローブの首元で、鮮やかな深紅宝玉のブローチをいじりながら見る。


 しばらく進んでいると、通路の土肌が途切れ、壁面も地面も天井も、全面に紫色のガラスを張り巡らせたような奇妙で美麗な空間に変化した。

 相変わらず光源は存在しないが、ナビの視界いっぱいにキラリと妖艶に煌めく通路の見かけは、まるで小惑星や異空間にありそうな鉱床だ。


「すごい。とてもキレイです」

「どこがだよ。不気味でしかねえぞ」

「むっ、情緒のない人」

「ケッ、蛮女に言われたかねえ」


 道なりに急いでいるとまもなく、天井の高い大広間へとたどり着いた。


 広間も道中と同じく、地面から天井まで壁全面がガラス張りのような深紫宝玉の原石で形成されていたが……部屋の中央に、皇騎士のような甲冑の古い像。


 皇騎士像は、頭部に三本角が生えたフルフェイスの兜がかぶされており、両腕を前に突き出して、刃こぼれの激しい刀を両手で地面に突き刺している。

 中身が人間であるとは思えないが、不気味な生気を感じさせる。


 さらに像が立っている奥側に、三叉路。先が見えない三つの通路があった。

 いずれも紫色のモヤがかかっており、進むに進めそうにない雰囲気。


「おいおい。なんで皇騎士の鎧と剣が……しかも古くせえ型だ。骨董品か?」

 レッドは一目で、それらの物品を判別する。

 像が着込んでいるのは、由緒正しきサッドライク皇国に伝わるもののようだ。


 といった楽観的な皇騎士に反し、魔女は勝手におののき、恐れはじめる。


「まさか、こ、ここは……っっ! なんてこと、ここがまさかそんなっ……!?」

 ナビの異常な反応に、レッドが眉をしかめて近づいた。

 ワナワナと震える彼女の肩に、手をかけようとした瞬間。


『――汝ら、汝ら、汝ら。己が信に反しても歩み征く、冷厳なる覚悟を問うか』

 皇騎士像のフルフェイスヘルムの両眼部分。

 細いスリットが、紫色に光り出す。


「ッ、なんだコイツぁ!? テメェもどうしたナビッ!」

「ここは、ここが、廃棄迷宮……彼はおそらく、迷宮騎士メイズシュヴァリエ」

「メ、メイズシュヴァリエだぁ!? 聞いたことねえぞクソがッ!」

 彼の問いかけには答えず、彼女が焦った表情で続ける。


「ここは非情なる三択の道。万命の令嬢が業火に焼き狂う……この世の死地です」


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