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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■命ゴイ編
18/81

最長の最短(15)

 ナビが意地汚く生き永らえようと倒れ込んだ地面に、偶然、緑草の下に隠れていて視認できていなかった、サビサビの二枚の鉄扉があった。

 鋼鉄製の表面には皇国旗と同じく、十三本の剣と太陽の光があしらわれており、物体の真偽は不明でも、期待が高まるものがある。


「むんっ……っっっしょ! ふぁあぁ、ダメです。レッド開けてください」

「ケッ。下がってろザコ」

 一人別れようとしていたレッドも踵を返して助力。

 口は悪いが彼はもう、魔女にアゴでこき使われる自分に疑問がない。


 ナビのひ弱さではビクともしなかった鉄扉は、二枚開きの構造。追放棄路の門壁のように風雨にさらされた赤錆びた表面に、主張の薄い取っ手がついている。


 場所を変わったレッドは、両手で両扉の取っ手をがしりとつかみ、全身で引き上げる。和風な袴姿の下に隠された、しなやかな背筋が発揮するとてつもないパワーは鉄扉の封印を強引に打ち破り、地面直下に隠されていた、さらに地下へと続くのであろう、真っ暗で先が見えない石造りの階段をさらけ出す。


「むむむ、まさに隠し通路といった雰囲気。これは当たりでしょう」

「おい待て、魔女。ここにたどり着いたのは俺が引っぱってきたからで――」

「それがなにか? まさか皇騎士ともあろうお方が、魔女に褒められたいと?」

「…………」

「しかも殺そうとした相手にお礼をねだるとは。皇騎士とはかくもご立派ですね」「……クソがよ」完敗だった。


 しおれた赤毛の大型犬を背中につけ、ナビが果敢に地下の闇に降りる。

 どうせここにいれば、もうまもなく碧い波に飲まれるだけだ。

 そして波の内部が“ああだった”以上、飲まれたあとに未来はない。

 不確定な願望が完全に消滅しただけ、魔女の逃げる意思は硬くなった。


 二人が地下階段を下りはじめると背後で、ガシャン。天井の鉄扉が勝手に閉じてしまい、身の回りから光源がなくなった。ただ暗黒なのに視界がある。

 これもまた命ゴイがユーザビリティを考慮したゲームである証だ。


 コツコツ、コツコツ。シーンと静けさが漂う、暗黒の階段を降りていくと、しばらくして地面。地下通路が真っすぐな道のりへと変わっていく。


「高低差を考えると、ここは川の下をもぐり、対岸へ向かっているのでしょうか」

「……こんな場所があったのか。ディアルスも知ってたんならタダじゃおかねえ」


 ここサッドライク皇城の道は「隠し通路という名の正規クエストのルート」であり、万命の令嬢たちの多くは勝手知ったる道の一つであった。


 また二人は感覚的に察していないが、「ここって直進で降りてるから、正面の崖を突き出て、川に落ちますよね?」というマップデザインへの揚げ足取りが盛り上がり、ファアキュウの万命書では一部指摘がブロックワードとなっている。


「もし、ここが件の隠し通路であるならば、追放棄路にたどり着けるはずです」

「おい、だとすりゃ、廃棄迷宮だとかいう迷路があんじゃねえのか?」

「そういえば……廃棄迷宮の開放には条件あり、との記述もありましたね」


 ファアキュウの万命書が示した情報は、こうだ。


――FAQ:サッドライク皇城の隠し通路

――サッドライク皇城からは四季彩の大草原、十三神界、追放棄路に移動可能

――抜け道とは:場内の「廃棄迷宮」より追放棄路に侵入可能

――廃棄迷宮の開放には条件あり


 この通路の真相は、大型アップデート前の命ゴイのラスボスたる一皇ディアルスが、十三神界にいる十三神ケルイス=ヴァリアンシーのもとにつながるとされる皇国秘匿の地下通路へと逃げ込み、「万命の令嬢は皇国を乱す、悪い美女だ!」と直訴しにいき、あわや令嬢たちがこの世から消されてしまう――!?!?

 といった瞬間を切り取った、最終戦に突入するための特殊マップだった。


 ただし、当のディアルスは悲しいくらい配慮された性能、かつ壊れきったゲームバランスにより、誰でもお手軽にボコボコにできるイベントバトルと化しており、皇国の王を軽薄な言葉でボコした令嬢は、そのあとの勝利テキストで。


『ねえ、そんなこと言わないで皇騎士さま。これから先、ずーっと、一生、

 私にはあなたが必要で、あなたにも私が必要なんだから……そうよね?

 ねえねえ、神さまだって、そう思うでしょ? ウフフ――』


 などと、蠱惑的なセリフを上からの態度で言い切り。

 くぅっ……っと、存在意義を諦めてうなだれる一皇をバックに。


『――サディスティックはまだ終わらない。』

『――十三皇騎士ヨ、命ゴイセヨ。』


 という、皇騎士目線では悪女に言い負かされボコされて世界を変えられなかったバッドエンド。万命の令嬢目線では、イケメンたちをこれからも逃がさず弄ぶぞというブラックジョーク的なコミカルエンドのなか、スタッフロールが流れる。


 世界設定上は悪徳ではないが、皇騎士にとっては終始、悪い女。

 そういうギャップで魅せようとしたのが、この命ゴイである。


 なお、追放棄路のルートが開放されたのは大型アップデート後の話。それ以前、この地下通路はラスボス戦に向かうためだけの道であり、二人もすでに気にせず通りすぎてしまった箇所の紋章からラストバトルに転送するだけの場所だった。

 そこが拡張エリア、追放棄路に向かう道としてリサイクルされた。


「む? 扉があります」

「おい、閉まってるぞ」


 長らく直進してきた真っ暗闇の一本道の先。ちょうど皇城裏手から対岸の山嶺にたどり着くかどうかといった位置に、開けた空間があった。

 そこには、皇騎士を破壊するという意思か。皇国旗の意匠が象られた表面がガタガタのギザギザに傷つけられた大きな二枚開きの鉄扉。扉の左右には温かなオレンジ色のランプと、黒い花びらを蓄えた生花が壁がけで飾られている。


 「レッド」「ああ」

 主語のない阿吽の呼吸で、魔女が皇騎士に扉を開かせようとした。

 だが固い。開かない。レッドの力でもどうしようもないほどに。


「んだと……こりゃ無理だな。なんかの呪いでもかかってんだろうよ」

「むー。つまり、この先が追放棄路につながる廃棄迷宮だとすれば」


 開放には条件あり。


「なにかないのですか。なにかこう、皇騎士にだけ伝わる、古代の呪文とかは」

「アホが。それを言うならテメェのファアキュウの万命書に聞けや」

「ふむ、一理あります」


 ナビが指先に生んだファアキュウの万命書で、皇城の隠し通路を調べる。

 だが、検索結果は先ほどと同じもの。新たな収穫はなかった。

 そこで「サッドライク皇城の隠し通路の鉄扉」と調べると。


――FAQ:サッドライク皇城の隠し通路の鉄扉

――※クエスト「棄て花の隠されごと」の欄を参照

――この質問内容は、多数のユーザー要望によりステータス【秘匿】です。

――意見抜粋:愛のない令嬢には見つけられん。一生迷ってろザコ女が。


「っっ、これは……参りましたね」

「……どうしたよ」

「どうやらこの道は、解読できなかった追放棄路への四つ目の選択肢のようです」

「ッ、んだとテメェ!?」


 サッドライク皇城には隠し通路があった。それはラスボスに向かうためのルートであり、ゲーム内の正規ルートとして正しく存在していた。

 けれど、この隠し通路はのちに、拡張エリアへの正規ルートにもなった。


 ナビはこの二つの情報を切り分けて見ていたことで、見誤った。


 追放棄路の門壁を通らなくても拡張エリアに向かえる地下通路を利用したのは、レベルキャップが60から100に引き上げられた、大型アップデート直後にログインした人たち。クソ運営の課金パスなんざ絶対に買ってやらんと意思が強かった人たちで、ハクスラでレアな贈り物を拾えなくて憤慨した人たちだ。

 つまりは「低レベルで無課金でマラソンもしないヤツが通るには、それ相応のがんばりを見せろ」といった趣旨の道であり、そのための条件が存在した。


「『愛のない令嬢には見つけられん。一生迷ってろザコ女が。』……ですか」

 レッドにも伝えるべく、ファアキュウの万命書の一文を口に出して読む。


「ぁん? 愛のある令嬢なら通れる? ボケが。んな二律背反の蛮女がいるかよ」

 プレイヤー的には背反していないが、被害者たちの心的外傷は根深い。


 レッドはしばらく、潤沢な体力に任せ、鉄扉を力押しで開こうと試み続けた。

 その間、ナビは周囲を眺めたり、万命書を開いたりで打開策を思案。

 けれどもゲーム内で数時間が経っても、開放条件は見つからず。


「……レッド、来ました」

「……ケッ。無粋だな、碧い波がよ」


 開けた空間の背後。来た道である真っ暗な一本道の先が、最初は薄く、徐々に濃く、不気味な碧色を浮かび上がらせている。

 さっき逃げてきたはずの碧い波はもう、サッドライク皇城のすべてを飲み込み、二人が迷っている最中にエクリタス運河も食い散らかし。


 ここ、サッドライク皇城の隠し通路にまで迫っていた。


「碧い波には、この世を真っ青に清掃する意思でも宿っているのでしょうか」

「洒落てんな。あんなおぞましい存在、死人攫いとでも言っとけ」

「死人攫い……メチャデカかわいくないです」

「おい、カワイイって言葉は金輪際その口で言うな……胸の古傷が痛む」

「まったく。軟弱な」


 ちいさく怒るナビが、開かない鉄扉に背中を預け、ズルズルと地面に座った。

 そこからだと、少しずつ迫る、遅くはない速さの、碧い波の姿を見られた。


 扉を開くことを諦めたレッドも、黙ってナビの隣に座り込む。

 銀髪の黒魔女と赤髪の侍騎士の対比は絵になるが。

 それを目にしてはしゃぐ存在はもう、この世界には誰もいない。


「おい、あとどれくらいだ」

 レッドの眼からは、生きあがくための険が取れていて。


「遺言を考えるくらいの時間、でしょうね」

 ナビの眼からは、がんばった自分を誇る、穏やかさが広がった。


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