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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■命ゴイ編
16/81

最長の最短(13)

 命ゴイにおける万命術スキルツリーは、全部で五種類。

 ツリーの切り替えは、システム画面でいつでも変更可能。


 「大声」:純粋な声質勝負で、基礎ダメージ補正も高め。

 「歌唱」:リズミカルに歌うことで、大ダメージを稼ぐ。

 「詰問」:疑問符で終わるごとに、ダメージ倍率が上昇。

 「高圧」:強めた語気で追加ダメージと状態異常を付与。

 「囁き」:ささくような甘い声で誘惑するロールプレイ。


 評価的には、「歌唱」専攻の者は好きな歌でもなんでも一曲フルで歌いきれば、ほとんどの皇騎士をワンパンで撃破可能だが、一戦ごとに時間がかかりすぎることとパーティでのカラオケ状態が毛嫌いされ、当面はソロ専用と化した。


 そのうえで、長期戦を短縮しやすい「詰問」がトップメタ。

 次いで、ストレス発散に最適な「高圧」がシェアを二分。

 それからデフォルト「大声」に続き、「囁き」が少々。


 とはいえ、これらは人それぞれの声質やボキャブラリーも相まり、気軽に変更できるスキルツリーのため、その人が命ゴイをどう遊ぶかのポリシーに近い。


 当の理系中学生女子「うぇ先生」は当初、面倒くさがりでパーティを組むこともせず、どれだけ苦戦しても言葉を喋らず、それでいて高圧を専攻した。

 舌打ちの語気を荒げれば、ツリー内のパッシブスキル「上から目線」で追加固定ダメージを与え、「毒言」の精神毒状態付与で火力を底上げできたためだ。


 ただ、それでも同レベル帯の皇騎士はおろか、草騎士ですら苦戦した。

 舌打ちは言葉ではなく、ただの破裂音。ベースダメージが弱かった。


 うぇ先生の周りでは、詰問令嬢が「なにその水で薄めたソースみたいな顔は?」と十一皇を追い詰め、歌唱令嬢が「いつだって泣いていいよ~。君の泣き顔は~、私に笑顔をくれるの~」とイイ声で最低なことを歌い、八皇を蹴散らした。

 それらを目にしても彼女は、誰かに声をかけることもせず、舌を打ち続けた。


 うぇ先生はあまりに命ゴイに向いていなかった。ちゃんと万命術を使えば、突き詰めて設計した芋い群青色のジャージ上下が攻撃力を高め、同レベルの攻略水準に容易に達したのだが、面倒だった。彼女はゲームでも喋るのがダルかった。

 極論、人と一緒に遊ぶのが苦手で、不向きな子だった。


 あるとき、さすがにここまで苦戦してゲームを続けても人生の足しにならないと引退を考えた。そこで最後に、ほかの万命術スキルツリーを試した。

 大声は無理。歌唱はゴミ。詰問は「疑問形の舌打ち」が困難すぎて不可。


 だから最後に、ロールプレイとは無縁だが、囁きを試した。

 その瞬間、命ゴイを制するテッペンの令嬢となった。


 囁きは厳密には、ささやくような喋り方、いわゆるウィスパーボイスのような声質由来の発声を参照するのではなく、「小声でも短文でも普通に戦えます」という開発側が用意した一部プレイヤーへの配慮であった。

 なのに、ゲーム内外ではナビの解説でも「あなたの甘いささやきで、イケメンはすぐにメロメロです!」といったトンチキな説明しかなく、サディスティック令嬢をより深掘りして演じるロールプレイ用のツリーと考えられていた。


 実際、ゲーマーばかりが集まっていたわけではない万命の令嬢たちでも、サービス三か月も経てば数名は詳しく検証するものなので、性能は割れていた。

 けれど、イケナイお姉さんになりきって甘くささやいて誘惑したところで、詰問や高圧のようなダメージは期待できず、そういうプレイをしたいなら勝利後の万令術のときでいい。攻略ならほかでいいとなり、産廃扱いであった。


 なのに、どうしたことか。うぇ先生のお行儀が悪く、育ちが知れる舌打ちはほかのスキルツリーでは計測されない「小声で短文」を正確に拾いあげた。

 型にはめた計算式で、ベースダメージを大幅にブーストしてしまった。


 また全スキルツリーで取得可能な人気共通スキル「一言悩殺」が、印象的で短いワードほど威力を増すというもので、これまたダメージは早くも累乗形式。


 開発の想定バランスでは、最終強化段階の一撃で7000ダメージ程度。

 実際の万命の令嬢たちが発した一撃は、気軽に4万から9万ダメージ。

 うぇ先生の「チッ」の一発が認識されると、固定値で、72万6315ダメージ。


 気付けば、うぇ先生は舌打ち一つで皇騎士を地面に這いつくばらせた。


 さらに、彼女と囁きの組み合わせによる本当に恐ろしいところは。

 誰よりも美しく汚い舌打ちのほかに、その「連射性」にあった。


 万命術は原則「うるさい、ボケ、死ね」と間を置いて発音しても、まとめて一回の発声=一撃として扱われ、連撃にはならない。それどころか間延びした一発言としてダメージが減算されてしまう。これは命ゴイの戦闘システムが、一打一打をかわし合うターン制バトルの枠組みで設計されているためだ。


 仮に、連撃目的で呼吸の間を取りすぎると、途中でぶつ切り判定となった微妙な攻撃が出力されてしまう。コンマ数秒もない音声認識判定の猶予時間、そのギリギリの隙間を狙うでもなければ通常、二連撃ですら成立しない。

 それらの成功はだいたい、たまたまのクリティカルヒット扱いであった。


 けれども舌打ちは違う。囁きならではの音声認識基準により、「チッ」の破裂音の区切りが一発声=一撃と正確に判定され、出力された。

 しかも制限がない。一秒間に三連打も可能。さらに一撃一撃が必殺技に相当するほどのダメージとあり、うぇ先生は命ゴイ最強のガトリングと化した。


 その威力の前には、最強ボスに近かったレッドとて赤子も同然。

 皇束解除の発動前、一秒で二回くらい舌打ちされただけで片膝をついた。


 こうして新生した彼女は、もともとイケメンやサディズムなどには興味がなく、たまたま目にしたショボいインターネット広告をきっかけに命ゴイをはじめただけとあって、スタイリッシュな演出で現れた皇騎士に出会いざまの舌打ちをくれてやり、秒にも満たない一瞬で片膝をつかせるだけで、そのあとはとくにイケメンいびりもせずに消え去る謎の令嬢として、徐々にウワサになっていく。


 彼女の動向は次第に、強くはないが万命の令嬢の中心的人物「ハナリナ」、お騎士見を仕切るセクシー番頭「カリカリうめえ」、うぇ先生の出現以前は最強令嬢として名をはせていた「セプティナ@煌めきSP」などなど。

 蛮女界のトップランナーたちにも注目されはじめ、やがて――。


「十三皇騎士ノ命ゴイ」運営チームが、最も批判される問題となった対応。

 七皇リオスへの「チ刑」という、命ゴイ最悪のブームをもたらした。



 皇騎士七皇「リオス=フォン=プリンシュヴァリエ」。若手の十五歳。

 亜麻色の短髪。端正な顔立ち。田舎育ちの少年は村の名産品「亜麻糸の春織物」を抱えて、サッドライク皇城の城下街にお登りしたところ、その身に隠した素質を十一皇シズマに見出され、異例のスカウトにより皇騎士の座を射止めた。


『いえっ、そんなっ、俺が皇騎士だなんてっ……ぜんぜんですよ。憧れのシズマさんのたくましさに比べたら、俺なんてまだまだですから……へへっ』


 性格は謙虚。偉大な皇騎士の列席に座りながらも、教養に欠ける田舎者な自分に悩み、ほかの皇騎士たちを敬い、少しでも”らしく”なろうと健気にがんばる。

 またレッドと同様に正義感にあつく、仲間や民草の危機には皇騎士として、悪意を寄せ付けぬ男らしさを発揮する。そういう、少年枠のイケメンだった。


 彼に降りかかった悲劇は、そういった田舎少年設定のせいだ。


 七皇リオスは「まだ家族が恋しい少年」というデザインで母性をくすぐるべく、皇城内においては唯一、自室の部屋が万鍵なしで開放されていた。

 それは仲間の皇騎士が立ち寄り、イケメン同士の談笑姿を見せてくれることや、夜中に城にやってくると皇騎士に出会えるアクティビティが存在すること、ほかの皇騎士の部屋に侵入するには万鍵が必要であることを知らせる役目もあった。


 夜中の自室というシチュエーションでも、相手が少年なだけに、闇にまみれて生きる現代女性の劣情を過度に煽らないだろう、との判断もあっての抜擢。

 当然、それを専攻する専門家たちは例外と言うほかなかったが。


『ば、万命の令嬢さま!? こんな夜分になにを……いえ俺なら構いませんが、ほかの皇騎士さまの部屋には万鍵がないと入れませんから、あまり粗相のないようにしてください……って、すみません、年下のくせにナマイキ言って。へへっ』


 リオスの開けっぱなしの自室は、以前は「リオスきゅんカワイイ!」と、悪質ながらも善性な寝顔鑑賞会が主立った利用法であった。

 夜中に推しの皇騎士への強盗をしにきた蛮女たちでさえも、田舎の家族からもらったお守りが大事そうに飾られているリオス部屋での犯行は狂気に映った。


 とはいえ、七皇リオスはこれで少年漫画の主人公のような天性を備えるため、単純な強さで言えばレッドに次ぎ、十三皇を除けば皇騎士最強に位置する。

 それに、ほかの皇騎士たちの自室と比べるとあまり広くはない彼の部屋で戦闘をはじめると、いかにバランス崩壊に優れた万命の令嬢と言えど、密接距離での戦いになりすぎて秒間火力戦闘で押し負けてしまう。


『……万命の令嬢さま。夜中においたするのはメッですよ? ほかの皇騎士さまも皇務でお疲れですから……せめて俺だけにしといてくださいね。へへっ』


 ストーリー進行のボス戦でリオスをボコすのは容易だが、こういった地理的状況を踏まえると、「夜中の皇城リオス戦」は作中最難関のバトル。

 そのため、負けてもべつに面白くないとお遊びで手出しする者は減っており、そういうのが本当に好きな令嬢以外はほぼいなくなっていた時期。


 囁きの力に磨きをかけたうぇ先生が、歩くイケメン挽肉マシンと化して、とりあえず苦戦していたストーリーを淡々と消化し、それからもイケメンたちを弄んで楽しむといったサディスティックに目覚めるでもなく、単純にやることがなくなっていたころ。あらためての引退を前に、皇城をブラブラしていた。


 そこでたまたまやってきたのが、七皇リオスの部屋。彼女は入室直後、同年代のイケメン少年の寝姿を堪能するでもなく、おもむろに秒間三回の舌打ち。

 七皇リオスは攻撃された瞬間に反応し、ベッドから上半身を起き上がらせ、反撃に打って出ようとしたが……すでに遅し。そのままベッド上で片膝を折った。


『くっ……令嬢のお姉さんが、こんなにも美しく強いだなんて……!』


 通常の挙動なら、攻撃意図の言葉を発した時点で万命術の発動トリガーが引かれ、リオスは即座に起床し、万全の態勢で令嬢の一撃を受けてから開戦……という流れになるのだが。舌打ちの女王は、状態異常中(睡眠)の防御力貫通補正を生かしつつ、大きすぎるダメージのありえない連打により、七皇を瞬殺した。


 そしてベッド上で片膝を折った七皇リオスは報酬として、故郷の田舎村に残した母と姉への誕生日プレゼントにするはずだったもの、というせつない説明文が書かれた最上級のドレス素材「七皇の手織りリネン」をドロップする。

 これは本来、ストーリー進行中のボスバトルでしか手に入らないとされていたもので、誰も夜中の皇城リオス戦を制したことがなかったから発見されなかったもので――彼女は閃いた。ドレス作りが好きな理系の少女は閃いてしまった。


 うぇ先生は、くずおれたリオスに追い打ちをかけるでもなく、一歩だけ。ほんの一歩だけ部屋から出て、開け放たれた室内をジッと眺めた。すると三分後。リオスは部屋の境界の一歩外にいる令嬢の存在に気付きながらも、夜中の自室にいるときに定められたルーチンに従い、またベッドに入り、動けぬ就寝を再開する。


 そして一秒後。またも部屋に踏み込まれる。

 ついでに一瞬で三回の破裂音が聞こえると。


『くっ……令嬢のお姉さんが、こんなにも美しく強いだなんて……!』

 無情な舌打ちに襲撃され、一瞬で没し、また報酬を差し出した。


 通常、ボス相当の皇騎士は、一皇ディアルスのように「プレイヤーもしくはパーティごとに存在するクローズ環境での戦闘」、十三皇レッドのように「フィールド上に存在しているオープン環境での戦闘」のいずれかとなり、前者も後者も討伐後はゲーム内時間で約半日のクールタイムが経過するまで再戦できず、非エネミーのオブジェクト……つまり、手出しできない皇国民のような存在となる。

 ただし、これはプレイヤーごとにフラグが存在するため、オープン環境のワールドボスなレッドは例外としても、クローズドなボスは令嬢Aが倒したところで、令嬢Bも自分用のボスを倒せる。あくまで一定時間の権利剥奪だ。


 他方、夜中の皇城は特殊な設計であり、「万鍵で入る皇騎士の部屋はクローズ」でいて「七皇リオスの部屋はオープン」というステータス。

 かつ、リオスの部屋は人に集まってもらいやすいパブリックスポットとしての狙いで設計されたこと、そのときに誰かが手出ししても密室で言葉を紡いで勝つのは難しいだろうということ、そうして気軽に事を起こしてしまった人がいたあとでも需要が乱れないようにと、三分後には元どおりの姿で就寝すること。


 そのついでに、プログラム的には「リポップ」すること。


『くっ……令嬢のお姉さんが、こんなにも美しく強いだなんて……!』


 うぇ先生が、部屋から一歩だけ出て、開いた扉の外から室内をジッと眺める。

 リオスはそれに気付いていて、弱ったような健気な視線を向けている。


 けれど彼はシステムに促され、三分経つと再度、強制就寝。

 一秒後。三発の舌打ちに襲撃され、一瞬で没し、報酬を献上。

 そして、うぇ先生はまた、無言の無表情で部屋の外で待機。


 本来なら、確実にそういう使われ方をさせるはずではなかった場所で行われる、機械的で慈悲のない、ゲーム攻略においては限りなく正解の稼ぎプレイ。

 皇城はオープン環境ゆえに、リオスの寝顔を見にきたほかの令嬢も、ほかの皇騎士の部屋に忍びこもうとしていた令嬢も、芋い群青ジャージ姿の令嬢の奇行を目にする。そして凄惨な稼ぎ場と化した七皇の部屋を見て、心を躍らせる。


 なにあれ。超強いじゃん。超希少なリオリネ(七皇の手織りリネン)すっげえ稼いでるし。めっちゃ楽しそうだし。普通に笑っちゃうんだけど。

 そのうち、一人の令嬢が好奇心のままに近づいていき、声をかけた。


――ねえ、あなた。今のどうやったのぉ?


 事前に「うぇ先生の舌打ちマジツエー」というウワサが広がっていたのもそう。ここで興味を持って、無口な彼女に話しかけた令嬢たちもそう。スキルツリーがその場でサッと、制限なしで切り替えられる仕組みなのもそう。舌打ちの精度が低くても、けっこうな大ダメージの連打が可能だった囁きツリーもそう。市場で急激に供給量が激増したリオリネを訝しみ、犯行の現場にたどり着いた者もそう。


『くっ……令嬢のお姉さんが、こんなにも美しく強いだなんて……!』


 以降、万命の令嬢たちは夜な夜な、七皇リオスの部屋に集まり、パーティ全員に報酬が均等に入ることを利用し、効率化のためにその場の初見同士で四人パーティを組んで整列する風潮を形成した。そして室内侵入と同時に、リオスを舌打ちで襲撃。その報酬に、彼の家族への思いが込もったリオリネを没収する。

 少年がベッドから起き上がる前に倒すと、上半身を上げてから、すぐに敗北ポーズで片膝を折る動きに移るため、まるでダンゴムシが丸まる姿に見えた。


 襲撃終了後は部屋の外で並び直し。次のパーティは開け放たれた部屋の前で三分間、「リオスくーん、早く寝てー」「なんかこう、クるねこれ」ネチっこい視線と野次を浴びせるが、少年は抵抗なき再就寝に入り、一秒後。またダンゴムシ。

 いつの間にか夜中のリオスの部屋は、静かな皇城でやたら鳴り響く下品な舌打ちと、和気あいあいとその場の出会いを楽しむ初見同士と、一瞬でダンゴムシになり続けるリオスとで、三分間隔でリオリネを稼ぐ生産工場と化した。


 ゲーム攻略も大半の者が終わってしまっていた時期。楽して最高級ドレスを作れそうな稼ぎを求めていた万命の令嬢たちには、まさにうってつけの狩り場。

 さらにウワサがウワサを呼び、現地に人が集まりすぎたがゆえに生まれた、まるでコミックマーケットのような現場ならではの自治ルール。


 青白い月明かりに照らされた、深夜の雰囲気が漂う皇城内。

 不思議な共同作業を、みんなと一緒にヤってるイケナイ感。

 最初は稼ぎのためだったのに、その場の即席パーティに入り。

 気付けば盛り上がっていく会話、増えていく友だちの輪。


「ねえねえ、うぇちゃんって誰推し? 誰推しなのぉー?」

「うっわ、うぇ先生のドレス、ダッセエのに超強そう!」

「えへへ。なんかごめんね、うちの面子がうるさくて」


 引退しようかと、自分一人でおもしろ半分にやりはじめたことが。

 気付けば人を呼び、人を集め、人を寄せる、深夜のお茶会となっていて。

 自分だけ一人でやるわけにもいかないので、初めてパーティを組んでみて。

 うぇ先生が、命ゴイの世界にきて、初めて自主的に返した言葉は。


「私は構いませんが」

 無愛想だが、ALR機器は見逃してはくれなかった、少しだけの照れ。


 こうして、友だちなど面倒くさいと思っていた一人の女子中学生は。

 なにがなんやら、命ゴイの世界で友だちがたくさん増えていった。


 最上級の高級素材を機械生産のように稼げるルール無用の残虐ファイト「チ刑」が発覚したことで、リオリネのマーケット価格は大暴落した。過半数のプレイヤーはティッシュを消費する感覚で最高級ドレスの制作に挑み、それらの装備品流通が大半を占めるようになり、プレイヤーも全体的に単純強化されていった。


 また囁きの音声認識と、舌打ちの有用性が露見したことで、サッドライク大陸ではうぇ先生を筆頭に、そこかしこで美しく着飾ったこの世の者とは思えぬ女神たちによるきったならしい舌打ちが横行。レッド相手のお騎士見にも変化が生じ、イベントの終わり間際、みんなで舌打ちして十三皇を即殺し、お土産を持って帰る新スタイルに移行。開発の意図せぬところでまたゲームバランスは崩壊した。


 こういった環境に対し、運営のイヴゲームスが出した結論は。


『七皇リオスの挙動、ならびに一部スキルツリーの重大な不具合が発覚したため、一時的な措置ではございますが、該当要素を一部削除させていただきます』


 声明後、命ゴイの世界から七皇リオスの姿がなくなり、彼の自室だけがポツンと残された。夜中の皇城リオス戦は本来想定されていなかったおまけ要素。リオリネだけ削除するにも“通常のボスバトルともひも付いている設計”だっただけに、弄るとメインストーリーの確定報酬にも影響が出てくることから、気軽に手をつけられなかった。そして、彼が復活する前にサービスが終了した。


 リオスから大量に奪われたリオリネもまた、手をつけられないプレイヤー財産として大量にストックされたが、運営はのちに、それをゴミ素材に相当する性能に調整。結果、マグマに原油。激怒した万命の令嬢たちを前に、本当に命乞いしかねないほどの全面土下座の謝罪文を掲載したが、再修正はしなかった。


 また七皇への処置と同時に「囁き」も消去された。舌打ちの音声認識は残されたがダメージ算出は皆無。うぇ先生はまともに戦えないころの自分に戻ってしまい、命ゴイ最強令嬢の冠もまた、この世で唯一無二の打撃女子の手に渡った。


 けれど、そうなっても理系な中学生女子は、多くのお姉さんたちに囲まれ。


「ねえねえ、うぇちゃんも一緒に外騎士んとこきてよー!」

「うっわ、先生の新ドレス、ダッセエのに鬼強そう!」

「うぇちゃん、明日は夜からログインだったっけ?」


 すでに、この世界で大事なこと。リアルの世界で大切なこと。


「ええ。明日は中学のお友だちとカフェにいくので、そのあとで」

 そういうものを命ゴイの世界で、ちゃんとお勉強したのだ。



 ――――などというイイ話は、あくまで万命の令嬢たちの目線であり。

 

「リオスへの非道な仕打ち、今こそテメェで償え……ヘルプヤクの魔女がよッ!」

 むごいサバトで健気な後輩を失ったレッドからすれば、知ったことじゃない。


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