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 魔王城の地下へ続く階段を降りていく。


 窓などの光を取り入れるものがないので、とても薄暗く足元もおぼつかない。


 鳥目の私にとってはなおさらだ。


 巣のように入りくねる道を、ランプの灯りを頼りに進む。


 「――お静かにお願いいたしますね。 申し訳ありませんが、ここで暫しお待ちくださいませ」


 目的の扉に着くと、鍵穴に鍵を差し込んで施錠を外す。


 そして軽くノックを3回。



 「――失礼いたします」



 ゆっくりとノブを引いていき、頭を下げる。


 「――ッ!!」


 エルは部屋の隅で身構えており、今にも噛みついてきそうな形相をしていた。


 「一体どういうつもりでしょうか? ……ここはどこなのです!? 何の目的で私をこのような場所に監禁するのですかっ!?」

 「突然の無礼をお許しくださいませ。 私、魔王アウル様の執事を務めております、レブンスと申します」

 「――自己紹介など必要ありません! 私の質問に答えてくださいっ!!」


 聞く耳など持たない、そう顔に書いてあるようだった。


 「これは誘拐ですよっ!? 私たち人間とあなた方魔族との関係に亀裂を入れることになります! それがわかっているのですか?」

 「――ええ、承知しております。 このことが公になれば……ですが」

「……私は聖女という立場にあります、私の失踪はすぐに誰かが気がつくことになるでしょう……! 問題に発展する前に、私を解放してください!!」

 

 物凄い剣幕。


 気を抜けば腕の一本でも捥がれてしまいそうな気迫だ。


 こんな表情の彼女を見るのは初めてだった。



 「残念ですが、それはなりません」

 「――ッ!? 申し訳ありません、言ってもわからないようであれば……無理やりにでも脱出させていただきます! これはお互いの未来のためなのです!!」



 エルは、両手を私に向けてくる。


 「……何をするおつもりでしょうか」


 私はそれとなく背後へ視線を送る。


 やはり、保険を用意しておいて正解だったようだ。


 「安心してください……殺しはいたしません」


 突き出された両手に魔力が集中し、眩い光を発し始める。



 「――ライトニング・レイ!!」


 

 閃光が放たれ、真っ直ぐこちら目がけて飛んでくる。


 しかし、私の背後から伸びてきた青白い触手が、何重もの障壁となった。


 私に魔法は届かない。


 「――なんですッ!?」


 不可解な現象に、エルは目を丸くする。


 エルのところまで聞こえるように、大きく溜息を吐いて見せる。


 「乱暴なことはお止め下さい。 私共は貴方に危害を加えるつもりはないのです」

 「その言葉を、どうして信用などできますか……!? 」

 「それは貴方次第でございます」


 出口扉の暗闇から、触手を背中よりうじゃうじゃと生やしたジャミが、ゆらりと姿を現す。


 「悪いことは申し上げません、大人しくして頂けませんでしょうか? でなければ、縛り付けてでもお話をすることになります……しかし、それは私の本意ではありません」

 「なんだというのです……いったい……!」


 眉をしかめ、私とジャミを交互に視線を反復させている。


 2対1では分が悪い、といったことでも考えているのだろうか。


 ジャミがいる限りはこちらの優勢は揺らがないだろうが、私と2人で話をする際に攻撃をされるのはマズい。


 「ちなみに……こちらにおわすのは、我が魔王軍指揮官で在らせられる方です。 恐れ入りますが、貴方が敵う方ではありません」

 「……ッ」

 「そして恐縮なのですが、指揮官に及ばずともそれに近い力を私も備えております。 強行突破が得策ではないことは、ご理解いただけたでしょうか」


 もちろん、ハッタリだ。


 私は低級魔法程度しか扱えない。 エルと戦っても勝てる見込みはきっと少ないくらいだ。

 

 だが身構える姿勢を解いたところから察するに、うまく丸め込めたようだった。


 「ご理解感謝いたします。 ――では立ち話もなんですので、そちらの椅子にでも腰掛けてくださいませ」

 

 





 一息ついて、エルの向かい側に私は腰をおろす。


 あれから彼女の表情はこわばったままだ。


 用済みのイカは部屋から追い出し済み。 扱いやすい奴が近くにいると助かるというものだ。


 少し渋っている様子だったのが気になったが。



 「さて、どこから話をしたものですかね……」

 「もったいぶらないで話を進めてもらえますか?」



 苛立ちを隠そうともしない態度と、鋭い刃物のような目つき。


 淡々とした催促の言葉。


 「……今回貴方をお連れさせていただいたのは、転ばぬ先の杖でございます」


 やれやれ、といった素振りで切り出す。


 「言っている意味がよくわかりませんが」

 「ようは人質なのですよ」


 エルの眼が更に険しくなり、眉間に皺が寄る。


 「今回の会談で話がもつれこんでしまい、人間と魔族の戦争が始まってしまったのです。こちらとしても大変遺憾ではあるのですが……」

 「……戦争……!? なんてことを……!」


 見る見るうちに顔が青ざめていくのが見て取れる。


 「人間と我々魔族は永きに渡って対立関係にありましたので、これは遅かれ早かれ時間の問題ではあったのです……仕方がありません」

 「その点については、理解していますが……でもっ……!」

 「理解いただけたのであれば幸いですよ、私としましては。 ――ですので、私は貴方に何も危害を加えません。 大人しくここで過ごしていて頂き、必要な場面でご活躍してもらえれば満足なのです」

 

 先ほどまでギラギラとしていた瞳が陰り始めていく。


 しかし、エルはすぐに反論するように口を尖らせてくる。


 「しかし、これはおかしいのではないですか? 会談前に私を攫うというのは、まるでこの戦争が起きることを事前に予測していたかのように思えますが」

 「――ですから、先ほど申し上げたように“転ばぬ先の杖”ということです。 何事も先を見据えて手を打つものなのですよ」


 私は余裕を含んだ微笑みを作ってみせるが、すぐに口角を下げた。


 これじゃまるで悪役だ。


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