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魔王と魔王軍指揮官②

 

 「それでは……人間との戦闘を有利に進める為の策について、何かご意見をお持ちの方はいらっしゃいますでしょうか」


 円卓へと場所を移し、指揮官たちに質問を投げかける。


 アウルは口を固く閉ざしたまま、じっと様子を伺っているようだった。



 「――はい! はい! とりあえず宣戦布告! そんですぐに襲い掛かっちゃえばいいと思いますっ!」


 

 元気あふれる声で、早々に手を伸ばしたのは黒髪の女、ピュリウ。


 元気と言えば聞こえはいいが、単純な思考を恥ずかしげもなく口走る馬鹿。


 その実態は、溶解液で何もかもを溶かしてしまうスライムの化物。 濁流のような勢いで王都の建造物を押し流していたのは、こいつだ。


 「いかがでしょうか、魔王様」

 「却下だ」


 聞くまでもなかったな。


 ピュリウは「えぇーーー!?」と言いながら、頭を掻き散らかしている。


 「あまりにもお粗末ですこと……。 ――レブンス、次はリリーが意見を言います」

 「フォルスリリー様、なんでも仰ってくださいませ」


 鼻で笑っているのは、ピュリウと負けず劣らず五月蠅い女、フォルスリリー。



 「――簡単なことですわ! この世界で一番強い魔王様と、未来の妻であるリリーの2人がいれば向かうところに敵などおりません!! 人間など容易く殲滅してみせますわ!」



 心酔しているのか、アウルを目の前にすると過剰な発言が目立つ。

 

 「……いかがでしょうか、魔王様」

 「却下だ」


 ピュリウと同レベル。


 「――魔王様っ!? 却下といいますのは、リリーの作戦のことでしょうか!? それとも未来の妻という言葉のことでしょうかっ!?」

 「ご着席くださいませ、フォルスリリー様」


 作戦ですらないだろう、今の発言は。


 馬鹿みたいなこと言っているが、この紫髪女も化物。


 その実態は巨頭の蛇。 腕にも頭にも見える触手を広げた姿はとても悍ましく、“前回”に天井を崩壊させて、顔を覗かせていたのはこいつだ。


 「ははっ、どいつもこいつも素っ頓狂なことを平然と言ってのけるものだねェ?」

 「……ヴェントローゼ様、何か考えがお有りでしょうか」

 

 長い金髪を揺らして笑う女……いや、男はヴェントローゼ。


 端麗な容姿と長身は、一見すると整っている女のように見えるが、中身は豪胆な男。


 その実態は、角と牙を生やした巨大なオーガ。 戦闘においては、恐らく魔王にも引けを取らないであろう化物。


 “前回”に城壁を簡単に崩していたのがこいつ。



 「なぁに、簡単なことさ? ウチらが軍を引き連れて、主要都市を同時にそれぞれが攻撃を仕掛けるのさ」

 「ほぅ」

 「人間共の面倒くさいなところは、いざって時には手を取り合うことかねェ。 共通の敵の出現ってやつかぁ? だったら各地で一斉にドンパチやって、混乱を起こしてやるのさ。 宣戦布告なんていらないよ、奇襲攻撃してやりゃ効果的だと思うねェ」



 3つ目の意見にして、やっと煮詰めることができそうな案が飛び出す。


 アウルも姿勢を正して、耳を傾けているようだった。


 「なるほど、各国が協力体制を整える前に潰してしまおうというわけか」

 「そういうことさ。 ――でも先代魔王様が攻撃を控えるようになってから、ウチも人間とまともに戦っていないのよねェ……今はどんな戦力を持っているのか読めないところが懸念事項なのさ。 慎重に進めるなら、調査に行くのもアリだとウチは思うねェ」

 

 大胆なことを言いながらも、繊細に状況を把握しようとする発言。



 「ホッホッ、ヴェントローゼさんの仰ることはごもっともじゃの」



 ゆるりと笑っている老紳士はオーロワルツ。 正装に身を包む骸骨。


 「何もいきなり攻撃を仕掛けることもあるまいて。 己を過信せず、人間さん側の戦力を知ることは重要じゃろう」

 「――あーっ! 調査なら、あたしが行きたいなぁ! 美味しい食べ物一杯食べたいしー!」

 

 オーロワルツは、私やヴェントローゼと同様に先代魔王より仕えている、いわば古株。


 落ち着いた雰囲気を纏っているものの、その実態は馬鹿デカい“リッチ”。


 “前回”で、宮殿を押しつぶしていた姿は、この姿のオーロワルツから想像もできない。


 「魔王様、いかがでしょうか」

 「……やってみる価値は十分にあると思うが、時間がかかり過ぎるのではないのか」

 「――調査をどの程度までやるのか、それによって変わるでしょうねェ。 それ次第で実行までの時間が変わるとは思うのよ」

 

 各々が自由に口を開き始める中、白髪のジャミだけが黙っていることに気がつく。


 「何かご意見はありませんか、ジャミ様」

 「――えぇ!? 僕……ですか? いや、特に今は何も……思いついてません……」


 顔を伏せてしまう。


 見かねたアウルが口を開く。



 「ヴェントローゼの意見について、どう思う?」

 「……い、いいと思います」


 

 パッとしない回答、何を考えているのかサッパリわからない。


 こんな青年ではあるが、彼も桁違いの化物。 その実態はクラーケン。


 “前回”で、触手を振るって都市を平地にしてしまったのがこいつ。 見かけによらないものだ。



 「レブンスよ、お前はどう思う」



 見計らったように、こちらへ話が振られる。



 「――私、ですか」



 不意を突かれたような声を出してみせる。 もちろん、こういう展開になることは知っていたが。


 「……そうですね、慎重に事を進めることは重要であるとも思います。 ……ですが、もう少しだけ手っ取り早い方法を思いついております」

 「なんだってェ? それはどういうことなんだい、言ってごらんよ」

 「――てっとり早い方法っ!? なになにー!?」

 

 視線が私に集まってくる。 ここからは“前回”と話すことは同じ。 欠伸がでそうになる。


 「“我々魔族は、人間たちと話がしたい”と持ち掛けるのです」

 「ほぅ……」

 

 しかめっ面をしている指揮官もいるが、相手にする必要はないだろう。


 「主要国の王、上級貴族など全員に話を呼びかけ、1つの場所に集めます。 それらを魔王様や指揮官様たちで一網打尽にする、というのが私の意見でございます」


 当然、これを聞いて「はい、わかりました」と言って承諾するような連中ではないが。


 「ホホ、随分と豪快な作戦じゃの」

 「果たして、人間がこちらの提案を素直に受け入れるものなのかしら」

 「それにねェ……各国の王たちがノコノコと集まってくるとも思えないわよォ?」


 腑に落ちないといった顔がいくつか見受けられる。


 「……一度の攻撃でほぼ全ての人間を殲滅することができる。 各々が別行動をするより、効率が良さそうではある。 それについては素晴らしいと思う。 ――だがレブンス、皆の言っていることはもっともだ」

 「仰る通りでございます。 ――しかし、集まらざるを得ない状況を作ってやればいいのです」

 「――え? え? どういうことー!?」


 訝し気な視線は、更に増していく。


 やはり展開は“前回”と同じ。


 以前に話したことをもう一度言ってやれば、同様に話は進むだろうな。

 


 「手始めとして、どこかの国を1つ滅ぼしてやるのです。 ……できるだけ派手に」



 神妙な面持ちを作るが、少し笑みもこぼしてみせる。


ヴェントローゼ ⇒ ものすごくデカいオーガ

フォルスリリー ⇒ ものすごくデカい蛇

ピュリウ ⇒ ものすごくデカいスライム

ジャミ ⇒ ものすごくデカいクラーケン

オーロワルツ ⇒ ものすごくデカいリッチ

シズリ ⇒ 名前だけ登場

アウル ⇒ 魔王 

レブンス ⇒ 烏の獣人


次の部から聖女救済に向けて動いていきます。

お付き合いいただけますと嬉しいです。

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