表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

魔王と魔王軍指揮官


 「おはようございます、魔王様」


 ゆっくりと扉を開くと、すでに着替えを済ませた魔王が、ゆったりと椅子に腰かけていた。


 「以前までのように、アウルでいいと言っている。 何度言わせる」

 「そうは仰られましても、貴方様はもう“魔王”なのですから……指揮官の方々へも示しがつきません」


 抑揚の無い声は、一見すると怒っているようにも聞こえる。 しかし、これが魔王アウルの平常運転。

 

 「なら、全員が名前で呼べば解決するのではないか」

 「皆様がそうされたとしても、私は今の呼び方を変えるつもりはございません」


 眉一つ動かさず、表情も硬いまま。 だが、どことなく不満そうな雰囲気を醸し出していた。


 余計なことを口走られると面倒だ、さっさと部屋を出てしまおうか。

 手元のティーカップをコトリと置いて背中を向けるが、呼び止められてしまった。


 「レブンス、皆はすでに揃っているのか」

 「……はい、魔王様をお待ちしておりますが、もうしばらくごゆっくりされてもいいかと思いますが」

 「いや、もう行くことにする」

 

 アウルは立ち上がると、差し出されたカップを一気に飲み干す。


 そして、私の横をすり抜けて部屋から出ていってしまった。 慌てて、その後を追いかける。



 先代の魔王が逝去し、その子息であったアウルが即位してから1ヵ月が経過していた。


 人間の侵略に腰の重かった先代と打って変わり、即座に攻撃へと舵取りをした方向転換には驚かされたものだった。


 「お前の意見を尊重したいと考えている、しっかり頼むぞ」

 「……私の僭越な考えでよいのであれば、ですが」


 これから、今後の侵略方法について話し合いが行われる。


 何も余計なことをしなければ、“前回”と同様の流れになるとは思うが。


 しかし、今回は“前回”のようにしてはいけない。


 彼女を助けるために、手を打たなくてはならないからだ。







 玉座のある広間の扉を開くと、指揮官たちが揃って膝をついて頭を下げる。


 「――魔王様ぁ! 今朝も精悍なお姿を見られて、リリーは嬉しゅうございますっ!」

 

 到着早々、甲高い声がお出迎えしてくる。 いつも口やかましい女だ。


 「フォルスリリー、おはよう。 ――皆、腰を上げてくれ。 朝早くから呼びつけてすまない」

 

 アウルは、壇上のど真ん中に鎮座している椅子に腰を降ろす。

すると、短髪黒髪の女が勢いよく手を伸ばして、元気な声を出す。

 

 「大丈夫です! あたしも今来たところなのでっ!!」

 

 緊張感の欠片も無く、軽快な笑みを浮かべている。


 そんな様子を見かねて、黄金色の髪が眩しい女がその頭を叩く。


 「――ピュリウ、その馬鹿みたいな声はなんとかならないもんなのかねェ!? 魔王様にも失礼ったらありゃしないわよ!?」

 「いたいっ! ……暴力反対! このオトコオンナ野郎!!」

 「誰がオトコオンナだってェ!? オカマを馬鹿するやつは生かしちゃおかないよ!!」


 お互いの服を掴み合い、牙をむく2人。 その茶番こそが、一番失礼ということに気がつかないものか。

 

 「ホッホッホ、元気の良い若者というのは、見ているだけでこちらまで活気づいてしまうもんじゃのォ」


 紳士服を着た骸骨が、がちゃがちゃしている2人を見て、優しくほほ笑む。


 私は扉の前に待機している従者に視線で合図を送る。 猫の獣人は白い液体で満たされたカップを骸骨へと手渡させる。


 「オーロワルツ様、いつものモノでございますにゃ」

 「おぉ、すまないのォ。 これがなければ儂の朝は始まらんのじゃ」

 「――あぁ! オーロワルツ爺さんだけ、いつも特別扱いだ! ねぇレブンスさん、あたしにも朝一番に何かちょうだい!」

 「いい加減に大声を出すのやめてもらえる? リリー、とっても不愉快なのだけど」


 ぎゃあぎゃあとした喧騒が続く中、アウルは依然として涼しい顔をしている。


 「……レブンス、シズリがいないようだが」

 「申し訳ございません、本日の彼女は大変機嫌が悪いご様子で……起きたくないとのことです」

 「……まぁ、いい」


 魔王からの呼び出しを堂々と拒否するなんて、いつもながらいい度胸をしている、あの小娘。


 「すいません……お腹が痛いのでトイレに行ってきていいですか」


 白髪の青年が、小さな声で申し訳なさそうに手をあげている。


 「かまわない、行ってきてくれ」

 「すいません……すいません……」


 アウルは視線を出口の扉へと向ける。


 青年は身を屈めて、のっそりと扉の中に消えていく。



 ……相変わらずではあるが、なんという自由な集団。



 ほとんどが、アウルが魔王就任後に、方々からかき集めて来た魔族。


 忠義の心をしっかり持っているのか疑問だな……。


 まぁその辺のことは、私もこいつらのことを何も言えないのだがね。


 ……だが、この騒がしい連中が“前回”に王都を滅ぼした化物たちだなんて、外部の者が聞いても信じないだろう。


 「ジャミ様がお手洗いから戻り次第、今後の行動について具体的に取り決めたいと存じます」

 

 私は依然として喧騒のおさまらない連中に向けて、声を投げかける。


 しかし気がついていないのか、こちらを振り向いてもくれない。


  

 まぁいい、ここからだ。



 とは言ったものの、今は身構えても仕方がない。 何もイレギュラーが無ければ“前回”と同じような流れになるのだから。


 一応、もっともらしく聞こえる言い分は考えてある。 深く言及されれば、苦しいかもしれないが……


 個性の塊のような指揮官たち、もとい、魔王が直々に選抜した化物たちは、何を言い出すかわかったものではない。


 油断は禁物だ。

 

 アウルの涼し気な横顔を、私は黙って横目に見ていた。


一気にキャラ出しまくってしまい、すいません。

次の部が、進行+キャラ紹介的な流れになる予定です。

(混乱しないよう、前書きか後書きでキャラ名とか整理させていただきます)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ