転校生は地獄の使い!?
家紋 武範様主催「夢幻企画」投稿作品です。
前作が少年漫画の読み切りっぽいと言って頂けたので、もう一本それっぽいのを書いてみました。
主人公を小学生にした作品の投稿、何気に初めてかも……。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
……声が、聞こえる。
にゃ〜……。にゃ〜……。
ミーコ? ミーコなの?
声の方に行くと、真っ黒い何かがもやもやしていた。
ミーコ……?
手を伸ばそうとした途端!
ふぎゃあああぁぁぁ!
「きゃあああぁぁぁ!」
「転校生を紹介するぞー」
先生の声が聞こえたけど、私は顔を上げる気にもなれなかった。
一週間前にネコのミーコが死んじゃった。
ショックだった。
おばあちゃんネコだったし、病気もあったけど、もっともっと長生きしてほしかった。
でもお父さんとお母さんから、
「いっぱいがんばったミーコを、ゆっくり休ませてあげようね」
そう言われて、いっぱい泣いて、お葬式もして、お別れをちゃんとしたはずだった。
それなのに、どうして毎晩夢に出てくるの?
それもあんなに怖い声で……。
……私のこと、うらんでるの?
「よぉお前。厄介なのに取り憑かれてるな」
誰? 知らない声。私に言ってるの?
「最近身近でネコ死んだか?」
「!」
驚いて顔を上げると、知らない男の子が私を笑いながら見ていた。
髪の毛はツンツン、目はぎょろっとしていて、なんか怖い感じ……。
そ、そんなことより、なんでこの人、ミーコのこと……?
「どうしたんだい、蔵地君?」
「おっと、今は『小学生』だったな」
呟くように言うと、蔵地と呼ばれた男の子は、
「すいませーん! この子があんまり可愛いので、名前と住所と電話番号聞こうとしてましたー!」
「馬鹿なこと言ってないで早く座りなさい!」
「はーい」
元気にそう言うと、私の二つ後ろの席に座った。
なんなんだろうあの人……。わからないけど、もしかしたらミーコの夢のこと、わかるかもしれない!
すぐにでも話を聞きたかったけど、クラスの皆が蔵地君に集まっちゃったので、放課後まで待つことにした。
昇降口を出て、蔵地君が一人になったのを見て、私は声をかけた。
「蔵地、君」
「待ってたぜ」
振り返った蔵地君。ぎょろっとした目がやっぱりちょっと怖い……。でも聞かないと!
「私、小石紗弥。聞きたいことがあるんだけど」
「茶色の毛の婆ちゃんネコのことか?」
ニヤリと笑う蔵地君。やっぱり何か知ってる!
「ここじゃ誰に聞かれるかわかんないからな。こっちに行こうぜ」
私は言われるまま、校舎の裏までついて行った。
「で、聞きたいことって?」
「一週間前に飼ってたネコのミーコが死んだの。お葬式もちゃんとしたのに、毎晩怖い声で鳴くの! なんでなの!? 知ってたら教えて!」
「そいつは強い想いを残して死んだ。だからお前から離れない」
「!」
やっぱり、うらんでる……?
「私のせいで、ミーコは天国に行けないの!? どうしたら、なんて謝ったらミーコは許してくれるの!?」
「何言ってんだ。謝ったって仕方がないだろ。なぁ?」
蔵地君が、私の後ろに声をかける。
恐る恐る後ろを向くと……。
「きゃあああぁぁぁ!」
と、虎みたいな、おっきな、ミーコ!
「ここまで大きくなるの見たの初めてだな。お前一体何したんだ?」
わ、私の、せい、なの?
にゃああぁぁおぅ……。
み、ミーコが、ネズミを、捕まえる時の、声……!
私、食べられちゃうの……?
しゃあああぁぁぁ!
ミーコが飛びかかって来る! 私は目をつぶってしゃがみ込んだ!
……あれ? 痛くない……?
「紗弥、ちゃんと見ろ」
蔵地君の声に顔を上げると、
「な、なに、あれ……?」
おっきなミーコが、夢の中で見た黒いもやもやと戦っていた。
「あれは悪霊だ。あの婆さんネコ、お前をあれから守ろうと、必死だったんだ。気ままなネコがあそこまでするなんて、滅多にないぜ?」
……うらんでたんじゃ、なかったんだ……!
「ミーコ! ミーコ!」
ミーコは引っかいたり、かみついたりしてるけど、もやもやはちぎれても元に戻って、全然なくならない。
「蔵地君! ミーコを助けて!」
「……いいのかい?」
蔵地君の目が、ぎょろりと私を見た。まるで人間じゃないみたい……。
「俺は蔵地遠真。地獄から来た獄卒だ」
「地獄……? ごく、そつ……?」
意味はわからないけど、すごく不気味で怖い……。
「死んでもあの世に来ない魂を、地獄に叩き落とすのが俺の仕事だ。俺が力を貸すなら、死んでもお前のそばにいたミーコも地獄行きだが、いいのか?」
「!」
そんなのダメ! ミーコは病気とずっとがんばって戦ったんだ! 私を守るために天国に行かないでそばにいてくれたんだ!
ミーコが地獄に行くなんて、絶対いやだ!
「うわあああぁぁぁ!」
私はランドセルを手に持って、もやもやに殴りかかった! もやもやは、煙みたいにふわふわ散っちゃう! でも!
「ミーコは私が守る! お前なんかあっち行けえ!」
ミーコがひっかく! 私がランドセルを振り回す! でももやもやは、馬鹿にするみたいにそこにいる……。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」
ランドセルが重い。手が上がらなくなってきた。
「きゃあ!」
いきなりもやもやが私におおいかぶさってきた! 押されて私は吹っ飛んだ!
「いったぁ……」
にゃあ……、にゃあああ……!
「ミーコ!」
ミーコがもやもやにつかまってる! 苦しそう! 私をかばってくれたの!? ミーコ! ミーコ!
『そろそろいいんじゃないですかい?』
知らない声に振り向くと、蔵地君が立っていた。その手には小さな、鏡?
「行くぞジョー」
『合点!』
蔵地君が鏡に、手を突っ込んだ!? 引き抜いた手には、なんだろうあのうすっぺらい、棒!?
「現世違法滞在、人間への危害未遂、動物霊への危害の現行犯で……」
棒が、黒く染まっていく!
「等活地獄極苦処送りとする!」
蔵地君が棒で丸を書くと、もやもやの下に真っ赤な穴が空いた! もやもやが吸い込まれていく!
「はーい残念また来世」
もやもやが消えて、穴も消えた……。あ!
「ミーコ!」
ミーコは元のネコの大きさに戻っていた! 抱きしめると、ふわふわして、毛の生えた風船を抱っこしてるみたい……。
「さて」
蔵地君が、ミーコにさっきの棒を突きつける!
「ダメ! ミーコを地獄になんか連れて行かないで!」
「……だそうだが、どうするジョー?」
『あっしに振らねぇでくだせぇ……』
鏡が、しゃべってる……。
『死んだ生き物の魂は、あの世に行って閻魔様の裁きを受ける、これは決まりですからねぇ……』
「だけどよ、魂をかけて紗弥を守ったこと、これは当然……?」
『わかっててやってますでしょ! はいそうです! 情状酌量の余地ありとなります!』
ジョーと呼ばれた鏡がすねたようにそう言うと、蔵地君の棒が白く光り出す。
「じゃ、ミーコはこれまでの小石家で積んだ善行と合わせて、天国行きだ」
『まったく、後で怒られても知りませんよ……?』
よくわからない、わからないけど、ミーコは天国に行けるの? もうがんばらないで、ゆっくりできるの?
「ありがとう……!」
ミーコと蔵地君にお礼を言った次の瞬間、腕の中のふわふわミーコは、白い光に包まれて空に登って行った……。
「じゃ、またな」
「待ってよ!」
「ぐえ!」
普通に帰ろうとする蔵地君を、私は思いっきり引っぱった。
「地獄とかあの世とかってなんなの!? それに鏡がしゃべって、悪霊?をやっつけて、ミーコを天国に行かせてくれて、もうわけがわからない!」
『お嬢さん、落ち着いてくだせぇ。遠真様が死んじまいます』
「あ」
服から手を離すと、蔵地君はのどを押さえてぜーぜー言っていた。
『あっしが説明しやしょう。あっしは浄玻璃の鏡のレプリカ、ジョー。遠真様とあの世に来ない魂を地獄に送る仕事をしてやす』
「浄玻璃の鏡って、閻魔様の持ってる……?」
『おぉ! お若いのに博識で! そうです! その浄玻璃の鏡です!』
ジョーはなんだかうれしそう。
『怖い思いさせちまいましたね。まぁ紗弥さんに取り憑こうとしてた悪霊は地獄に行っちまいましたんで、これでもう大丈夫ですよ』
「あ、ありがとう。ジョーさん、遠真君」
「仕事だからな」
私がお礼を言うと、蔵地君はそっぽを向いた。服引っぱったの、怒ってるのかな?
『なにが仕事ですか! あのネコを地獄に行かせないためとは言え、紗弥さんを戦わせるなんて!』
え……?
『裁きは厳正に! 特例をばんばん使うなってあれほど言われてるのに!』
「じゃあジョー。お前あの婆さんネコ、地獄に行かせたかったのか?」
『……そういう言い方、ずるいじゃないですか……』
「ジョー、お前も同罪だ。一緒に大王に怒られようぜ」
『はぁ、遠真様といると、気苦労が絶えない……』
そうなんだ。そうだったんだ。
うれしい気持ちを伝えたくて、私は遠間君の手をにぎった。
「本当にありがとう、遠真君」
「別に……」
赤くなってそっぽを向く遠真君は、もう全然怖い人には見えなくなっていた。
読了ありがとうございました。
困ってるヒロイン、転校してきた不思議な力を持つ少年、得体の知れないマスコット、迫る脅威、そして凄い力で見事解決!
……王道と呼ぶかベタと呼ぶかはお任せします。
『夢』『幻』テーマはまだ何か書けそうな気がしますので、またお付き合い頂けましたらありがたいです。
よろしくお願いします!