2. 神様からの手紙
窓から降り注ぐ太陽の光で目が覚めた。そのまま大きく伸びをし、軽くストレッチをする。
(今何時?)
時計で時間を確認しようと、ベッドサイドテーブルの方を向いて、エリーズは首を傾げた。
(なにこれ?手紙?)
ベッドサイドテーブルの上に、白い便箋が置いてあったのだ。宛先の欄には、『親愛なるエリーズ嬢へ』の文字。封筒の開け口のところには、丁寧にシーリングスタンプで封がしてある。
(学校からの連絡かしら)
エリーズは中身を確認して、目を剥いた。内容はこうだ。
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親愛なるエリーズ嬢へ
私は、神様です。もう一度言います。大切なことなので。私は、神様です。最近の若者といえば、まるで信仰心を忘れてしまったように、全然お祈りしてくれません。そのせいで軽くパワーを失いかけ、一時期生命も危なかった。いやあ、本当に生きていて良かった、と日々痛感しております。おっと、話がずれました。
前述した通り、私は神様なので、人の子一人異世界に転生することなど容易く、赤子の手をひねるようなものです。
つまり、あなたを転生させたのは私であるということ。ただしあれはノリと気まぐれによるものだったので、この十年間ずっと、あなたが転生した場所が分からないままでした。本当に、見つかって良かった。それくらいに、危険なことでしたので。
さて、あなたに伝えなければならないことが一つ。
あなたが転生した場所は、乙女ゲームの世界です。十年あればそんなことはもう気づいているかもしれませんが。
あなたは悪役令嬢、エリーズ・ベルナールという女性で、アラン王子と結ばれる予定でした。ですが、現実は非情でね、アランはあなたを裏切り、リル・クルーエという女性と恋仲になってしまうんですね。嫉妬にかられたあなたはリルさんを殺そうとして、婚約解消されちゃったり、身分落とされちゃったり、いろいろするわけです。悲しい話でしょう。
私も、あなたを転生させた身として、そんな悲しい結末にしたくはありません。あなたのこと、結構好きなんですよ。高校生にもなって、魔法陣作ったりして。信仰心が強いのは、神様にとって良いことですから。 というわけで、これから毎日、手紙でバッドエンド回避の近道を、お教えしようと思います。
まず、今日の話。今日は学校の入学式ですね。ご入学おめでとう。で、ここであなたにぜひしてほしいことがあります。それは、リルさんとは話さないでほしいということ。
実はリルさんは、学校側の手違いで入学することになった、平民出身の女性でしてね。そのせいかあまりマナーを身につけられていないんですよ。それをあなたは良かれと思って、いろいろ注意するわけです。それで、嫌われるんです、リルさんに。『私だってマナーがなってないことくらい分かってるわよ!それを、人が不安なときにねちねちねちねちしつっこい』といったところでしょうかね。そんなことになれば、のちのちの話がさらにややこしくなる。面倒くさいですね。というわけで、出来ればリルさんとは、話さないでほしい。
今日のところはこれまでです。また何かあったら……そうですね。突然手紙を送ったりすることは不可能なんで、勝手に頑張っちゃってください。
では、ご機嫌よう。
神様より
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「はぁぁぁぁぁぁ?」
エリーズはしばらく固まったあと、全ての思考という思考が停止して、せっかく起こした体はベッドに逆戻りした。
(どういうこと?)
しばらく考え、要するに神様が悪いんだ、という結論に至った。
それにここまで自分に関して詳しく書いてあるということは、悪戯でもないんだろう。この家に、わざわざこんな変な悪戯する人もいないし。
あと気分的に、もう異世界に転生した時点で、何でもござれ、という感じである。
(十年の間に死んでなくて良かった)
もはやどこにツッコんだらいいのか分からず、ただただほっとする。
エリーズバッドもう一度体を起こすと、先程読んだ手紙の情報を整理した。
(つまり、やっぱり私は悪役令嬢で、ヒロインとアランに裏切られるのね。それを回避しろと)
(しかも、その変更ルートの間に何が起きるか分からないと)
(あれ、私詰んでる?)
ぱちぱちと瞬きした後、一切の思考を放棄して、エリーズは今日の入学式のための用意の確認をした。