Prologue
「やっと……できた!」
夕日で満ちた部屋の中、目の前には巨大な魔法陣。二時間かけて作ったしろものである。
(これで、私も異世界ヘ……!)
一つだけ言おう。見て分かるように、千鶴は、厨二病である。三年近く厨二病を拗らせ、もう高一にもなるのに、自分が異世界転生できると信じている。
ちなみにこの魔法陣は学校の図書館で偶然見つけた、『すぐできる!異世界転生魔法陣図鑑』という本の中に見つけたものだった。
(そろそろかな)
千鶴は時間を確認した。PM五時五十九分五十秒。
六時になった瞬間、千鶴は期待と不安を抱いて、魔法陣の中に飛び込んだ。
魔法陣に飛び込んだ直後、千鶴は地面に思いっきり頭をぶつけて、自分が無事、異世界に転生できたことを悟った。転生物でよくある、頭ぶつけて前世思い出しました、の下りとよく似ていると思ったからだ。
千鶴が体を起こした瞬間、頭の中に大量の記憶が流れてきた。どうやら自分はルソワール王国の四大名家の一つ、ベルナール家の長女であり、まだ五歳であるらしい。
とりあえず成功した喜びを噛み締めながら、 なるほど、と情報を整理したあと、ゆっくり立ち上がる。一口に異世界といっても、いろいろな種類がある。記憶の中に、第二王子と婚約、というものがあることから、どうやら乙女ゲームの世界に転生したようだ、と仮説を立てた。しかもテンプレ通りいけば、自分は悪役令嬢、という役職らしい。
(まぁ、どうにかなるっしょ)
こうして、千鶴の異世界生活は始まった。