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ある昼、金がモノをいう世界を知る②

 宿泊している南館の門を守る衛兵に声をかけると、思いのほかあっさりと城外へ出ることができた。国賓待遇なのはヴェンディだけなので当たり前と言えば当たり前だけれど、ちょっとばかり拍子抜けしながら私はトコトコと歩いていくナナカの後を追った。


「ね、ねえナナカ。ちょっと待ってって。わざわざクローディアとこっちに来た理由ってなんなのよ」

「お土産、なににしましょうねぇ」

「遠路はるばるお土産買いに来たってわけじゃないんでしょ、ナナカってば」


 聞こえないフリなのか何なのか。業を煮やした私はちょっと乱暴にナナカの肩に手をかけた。けれど肩を掴まれた当の本人はにこやかな表情を崩さないまま、歩みを止めることもない。

 これは、理由は分からないが何か相当に怒っている。まずい。ひょっとして、今回の戴冠式へ同行したかったのに置いていかれたからとかか。いや逆にせっかくの休みのところ同族のクローディアに無理やり連れて来られた逆恨みか。

 どうしよう、と変わらぬ表情の横顔を見つめながら歩いていると、ナナカの唇がほんの少しだけ動いた。


「――リナさま」


 ほとんど無声音のそれは、並んで歩く私以外には聞き取ることもできないだろう。はっとして立ち止まりかけた私に、ナナカは「歩いてください」と続ける。


「見張りがそこかしこにおります」

「……え」

「何食わぬ顔で。女二人、ただ買い物を楽しんでるように見せてくださいませ」

「それって」


 ふふ、といつも通りにふんわりナナカが微笑んだ。城下の商店街が見え始め、急ぎ足だった歩調を少し緩めれば、お互いの顔がまた近づく。「尾行です」という小さすぎる囁き声に、一瞬自分の表情が強張るのが分かった。

 尾行?

 どういうこと?

 国賓の従者につける警護とかじゃなくて、尾行? なんのために?

 あたりを見渡したい衝動を抑えつけてはみるものの、気になりすぎる。そわそわした私に気が付いたんだろう。ナナカがちょいちょいっと袖を引っ張り商店街の一画を指さした。


「あちらに雑貨屋さんがありますよ、リナさま」


 彼女が指す方向をみれば、確かに敷物やら食器や小物類が所せましと並べられた大きな雑貨屋がある。石畳で舗装してある通りにまで品物があふれているくらいだ。


「ネリガさんは何がお好きでしょうね。最近はずいぶんとお顔の色もよくなってますし、胃のお薬も減らしたそうですよ」

「そう、ね。ひざ掛けなんかはどうかしら。きっと軽くていい色のものがあると思うの」

「それは良いですね。リナさまは庶務の方々へもお土産が必要なのでは?」

「いつもお世話になってるしねー。お菓子とか、たくさん入ってるものがいいかも」

「お菓子屋さんはどこでしょうねぇ」


 官舎らしき建物が連なる区域から一歩商店街に入ってしまえば一気に人の通りが増え、なんとも景気の良い風景が広がっていた。

 大柄な獣型のモンスターやゴーレムさんも易々通れるほど広い大通りの両側には、しっかりとした造りのお店が立ち並ぶ。そのどれもが通路へワゴンや敷物を広げて店を拡大していて、なんとも言えずにぎやかで雑多な感じがあった。例えて言うならエキゾチックをテーマにしたショッピングモールだ。

 並んだお店も家具屋、八百屋、雑貨屋、布屋、肉屋もあればいわゆるお土産屋もある。剣や鎧といった武具屋もあれば、材木店、金物店などもカテゴリ別にはならずにそれぞれが勝手気ままに店を出している。何軒かおきに飲食店だろうかテーブルを出している店もあった。統一感など皆無なのに、どこかまとまって見えるのは建物がすべて同じような色あい、同じような建て方だからだろうか。

 こんなとこ、しばらく行ってないなと思う。

 あたりまえだ。生前(前世)でなら海外旅行やショッピングモールくらいでかけたけど、こっちに来てからはほとんどヴェンディの城で過ごしてる。たまに城下に行ってみても、いくら領内で一番の繁華街だってここまでのにぎやかさは無い。

 それはヴェンディの領地がここと比べると豊かとは言えないからだ。ただ、突き付けられた国力の差にあぜんとする。

 ふと八百屋の店先に置いてあるみずみずしい果物が目に入った。本で見たことがある、たしか東の海近くで栽培されているミカンのようなものだ。内陸なのにこんなに新鮮そうなものが個人の店先に並ぶのか、と流通網の発達を想像して喉が鳴った。


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