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ある朝、青天に霹靂を生ずる①

 追いかけなかったのかって?

 そりゃ追いかけたに決まってる。けどさっさと出て行ったヴェンディは自分用の部屋に入ると無情にも内鍵をかけてしまっていたのだ。何回かノックはしたものの返事もしてくれず、さすがに夜中近い時刻に部屋の前で大騒ぎをするわけにもいかなった私はそのまますごすごと部屋まで戻った。

 で、ベッドに転がった途端になんだかどうでもよくなった。話も聞かずに一人で落ち込んだヴェンディに、いちいち言い訳したくなくなったのだ。

 トーヤとはやましい間柄ではない。単なる同僚、それ以上でも以下でもなかった。ただ前世のことは触れたくない。触れられたくない。どうせ言ったってどうにもならないことなんだし、今の私はヴェンディの隣で生きている。それだけでいいじゃないか。

 それよりベッドに横になった途端に猛烈に襲ってくる睡魔を何とかするほうがいい。そう。私はこの二日、満足に寝ていない。体力を、回ふ……く……しな……。


 この日の記憶はここで途切れた――。


 翌朝。珍しく朝まで何の邪魔も入らずにぐっすりと眠ったせいか、超絶すっきり目が覚めた。このひと月あまり、ことあるごとにヴェンディとベッドを共にしていたせいで忘れていたが、寝入りばなや夜中に睡眠を阻害されないということのなんとすがすがしいことか。


「よく寝たぁ……」


 大きく伸びをして窓を見やれば、真っ赤な朝焼けの空が広がっている。こりゃ雨でも降るかな。今日の予定はなんだっけ、と頭の中でスケジュール開くがそういえばここはヴェンディの城ではなかったことを思い出す。

 特に大きな催しもないはず。でも一応は来賓としてそれなりにいつでも呼び出しに応じられるようにしておかなくては。

 昨夜の様子は気になるけれど、一晩寝て多少向こうも頭を冷やしただろう。ヴェンディもなんだかんだで疲れていたのかもしれないと高を括る。食事の手配をして、昨日のシャツはクリーニングに出して、あとは――まあまだぐずるようなら菓子パンの一つでも持って行こう。

 水差しからコップ一杯分の水を飲み、幾分、いやかなり頭がすっきりした私は身支度をするとヴェンディの部屋へ向かった。


 結果、私の予想は見事に裏切られた。

 ドアをノックすると内鍵ががちゃりと開き、そこから既にしっかりと昨日とは異なるスーツを着たヴェンディが出てきたのだ。と同時にむわっとした甘ったるい香水のにおいが顔にまとわりつく。嗅ぎ覚えのあるそれ一瞬どきりとすると、すぐさまドアの影から細い褐色の腕が伸びた。


「ヴェンさまぁ。お待ちになって。アルセニオさまには二人そろって、と言われておりますのよ?」


 気怠げな声とともにヴェンディの腕に絡みついたのは、騎士団長の妹、姫騎士として軍勢を指揮するダークエルフの美女、クローディアだったのだ。


「く、クローディア……さ、ま?」


 まさかこんなところ――朝っぱらのヴェンディの部屋から出てくるとは思わない。咄嗟のことにも敬称を忘れなかった私、えらすぎる。でも上ずった声は誤魔化せない。動揺した私に、クローディアはふんっと鼻を鳴らした。


「相変わらず貧相ですこと。おまけに従者のくせに主より遅く起きてくるなんて、とんだ怠け者ですわね」

「怠け者って……いや、ちょっと待ってください。クローディアさまはいつお越しになったんですかっ」

「昨夜ですわ。お務めを放棄したお馬鹿がいると聞いて馳せ参じましたの。今日はわたくしがお供を務めます。あなたはお声がかかるまで待機しなさい」

「え? 放棄? お供を務めるって……? ヴェンディさま?」

「我が主の命令です。お聞きわけなさい!」


 クローディアの一喝が雷の様に廊下に響き渡った。その剣幕にヴェンディへと伸ばしかけた手が止まる。ねぇヴェンさま、と甘く微笑んだクローディアに伴われて、ヴェンディはするりと私に背を向けた。


こちらまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

続きが気になるなー、この二人どうなんのかなー、とか思ってくださる方で、

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