【出会い編】ある夜、果たした邂逅は⑨
興味深げに私を見るヴェンディに、ネリガがいけませんと大声を張り上げた。
「部外者に任せられる仕事ではない!」
「でもこの状態、ネリガさんはどうにかできるの? 拝見した感じでは、相当昔から放置されてますよね?」
「うっ……」
「まずは各年度の支出を把握できるようまとめます。その後、今年度の収入を確保し支出を抑えて財政を健全化しつつ、放置されている嘆願関係もまとめて処理しましょう。」
息が詰まったように絶句したネリガは放っておくことにし、私はヴェンディにさくさくと話を進めてみせた。とにかくこれでは財政もどうにかなっちゃうし、嘆願も放置しっぱなしであれば住民の反乱にもつながっちゃうかもしれないし。
どうせなら職場環境を良くして長期にわたる安定した雇用を維持しなければならない。せめて、この人生での寿命が尽きる程度までの期間は。
「なるほど。ではリナ。君は我が城のマネージメントをしてくれるというわけだね?」
「あくまで城主は魔王たるヴェンディさまですし、私はその補佐をするだけですが」
「なるほどなるほど」
いいね、とヴェンディは面白いものを見つけた子どもの様な表情で微笑んだ。
「確かに私は城や領地に対して少し無頓着かもしれないな。君の様にちゃんと目を光らせてくれるひとがいたほうが、何かとうまく行くだろう。好きなようにやってみたまえ」
「閣下!」
「ありがとうございます」
悲鳴のようなネリガの声をねじ伏せ、私はヴェンディに深く頭を下げた。この山積みの書類を整理するとなると結構な仕事量だ、と言い出してしまってからちょっと後悔したけれど迷うことなく仕事を任せるといってくれた魔王の期待に応えたい気持ちが強い。
私はよおっしと腕まくりをして乱雑に積みあがった紙の束に手を伸ばした。しかしだ。そうはすんなり仕事が始まるわけでは無かったのだ。
私の伸ばした手をそうっと魔王の長い指が掬い上げた。あれ、と彼の顔を見上げれば何やら不満そうに眉根を寄せて首を振っている。
「待ちたまえ。そんな恰好で仕事を始める気かい?」
「そりゃ、早く始めたほうが……」
何を言い出すかと困惑していると、ヴェンディは急に私を抱き寄せてネリガを指さした。