【出会い編】ある夜、果たした邂逅は①
ご無沙汰しております。
リナと魔王がお城で出会ったあたりのお話を追加します。
宜しければご覧ください。
分厚そうな木製の扉をどつき続けてどのくらい経っただろう。叩いていた拳が赤くなり、小指の外側に血が滲みはじめたころ、唐突にガチャリと金属の錠前が鳴った。その瞬間、ほっとしたのもつかの間で私は今更ながら思いっきり後悔した。
だって、なんて言うの? そもそも此処はどこ? 誰が来たの?
全く情報がないまま、ただいわゆる「異世界転生」をして断罪ルートに乗ったんじゃないのという推測しかできていない。もしこれが本当なら今ここにやってきたのは誰? 何を話すの? 処刑人とかだったら? 私もう一回死ぬのかな。
ちょっと待って、と口から飛び出した言葉は重い木製の扉を支えている蝶番が軋む音にかき消された。不快な音を響かせながらいかにも重たい扉がゆっくりと開かれる。扉に張り付くように立っていた私は、思わず後ずさった。
引っ立てられたりしたらどうしよう。有無を言わさず処刑とか、待ってまだ心の準備ができてない。目が覚めたばっかりなのにもう一回死ぬとか何の悪夢よ。悪い想像が駆け巡り、背筋に冷たいものが伝い落ちる。
そうこうしているうちに扉が開ききった。逆光の中、うっすらと浮かび上がる人影が近づいてくる。恐怖に竦みあがった私はそれ以上後ずさることも、ましてや抵抗することもできないままだ。結局、笑いまくる膝を制御しきれずその場に崩れ落ちる。
しかし、簡素なリネンのようなワンピースに包まれた私の膝は、硬い石づくりの床に触れることはなかった。
するりとした生地のシャツに包まれた腕に抱きとめられたのだ。
「具合でも悪いのかい? 医者を呼ぼうか」
頭上から降ってくる声は涼やかで、はっとして見上げたそこにあった顔に私は息を飲んだ。
つややかな黒髪の下にまるで陶器のように白く滑らかな肌、整いすぎていると思えるほど端正な目鼻立ち、そして私を見つめる真っ赤な瞳。瞳の奥はどこまでも深く赤を重ねたような、まるで上等なルビーみたいな色合いで、そこに映った私がぽかんとした表情で私を見ている錯覚に陥る。
なんて綺麗な顔だろう。そして、なんて綺麗な目なんだろう。
そう思って見惚れること数瞬、しかし私は気が付いてしまった。この世の者とは思えないほど美しい顔の後ろで、大きな黒い「翼」が広がっていることに。
――これって、ヒトじゃない? まさか、悪魔? 私、生贄とかそういうやつ??
私の表情が変わったのが分かったのか、目の前のイケメンの目がにやりと細められた。