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【番外編】姫騎士クローディアの憂鬱 ④

 本当は魔王の穏やかな顔をみて勝ち目が無く引き下がった、なんてことはクローディアの中だけの秘密である。たとえ自身の兄であろうとも、そんな弱気になった自分の姿など見られなくはないし、ましてや憐れまれたくもなかった。

 クローディアの豊かに盛り上がった胸には、まだ新しい痛みがちくちくと残っている。

満ち足りた様子の魔王の表情や、口ではどうこう言いながらも拒絶するつもりのないリナの照れた様子、そしてベッドの乱れを思い出せば、どうしようもなくじわりと視界が歪んでしまう。熱くなった目元にクローディアはそれをごまかすように盛大にため息をついて天井を見上げた。


「ま、まあ、お前がそこまで言うなら、婚約の話も公的なものではないしなかったことにすると父上もおっしゃるだろう。しかしだなぁ……」

「まだなにか?」

「これから新たに輿入れ先を探すとなると、その」


 兄の言いたいことは分かる。

 非公式ではあるが内外に「未来の魔王の妻」と目されていた伯爵令嬢が、適齢期に破談となったのだ。魔王を差し置いて新たに婚約を申し込む男がどれほどいるものか。

表向きはどうあれ、破談となるには破談となるなんらかの理由が――クローディアに難があると思われてしまうかもしれない。逆に傷心の伯爵令嬢に付け込もうとする不逞の輩が現れないとも限らない。

 しかしクローディアの腹は決まっていた。

 思えば、男に人生をゆだねるなんてガラではない。むしろお前が言うことを聞け、という性格の彼女には相手からの申し出を待つなんてことは必要を思うことすら。

 

「わたくしの輿入れ先のご心配は無用ですわ。今はそんなことを考えるつもりもございませんし」


 え、という兄に向って、仁王立ちになった妹はこれでもかと胸をそらした。ぷるんとした艶のある肌に覆われた二つのふくらみが、体の動きに合わせて揺れる。ドレスからあふれんばかりのそれを惜しげもなく兄に晒し、クローディアは両手を腰に当てて高笑いを発した。


「く、クローディア?」

「婚約破棄されたなんて同情されるのはまっぴらです。わたくし、姫騎士から姫将軍を目指すことにしましたわ」

「はい?」

「ヴェンさまが惜しいことをしたと後悔するぐらい有能な将軍になって、近隣の魔王様方からオファーを受けたいと思いますの」

「なんだって?」

「オファーがないならこちらから売り込みますわ。ヴェンさまなんて目じゃないくらいの、強くてカッコいい魔王さまとその領地、わたくしゲットします!」


 ――高らかにそう宣言するクローディアを、兄・クローゼはどういった気持ちで見つめていたのか、それは本人しか知りえない話であったという。


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