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エピローグの朝

「……で、この請求書は……?」

「ん? それかい? それはほら、この現場の開発に伴う費用だよ」

「……この別荘移設費用って?」

「開発するに本部を置く必要があるだろう? レイクポーラーのほとりに買った別荘がまだ手付かずだったから、いっそのことと思ってこちらへ運ばせたんだ」


 どうだい、とドヤ顔で語る魔王に、私は肩を震わせた。

 

 お互いの無事と愛を確かめ合った翌朝。朝食の席に運ばれてきたのはヴェンディの大好物であるパン類と、山盛りの書類だった。私の世話をするために呼ばれたんだろう、ちょっと困った顔のナナカが分厚い封筒でいくつか持ってきてくれたのだ。

 こんなところで執務をするのかと感心したのもつかの間。中身を確認した私はびっくりしすぎてその内容を二度見、いや三度見した。


『源泉掘削機設置のための櫓代』

『同 足場代』

『作業員休憩所設置代』

『作業地域の伐採費用』

『食事調達料』

『調理員派遣費用』

『作業員往復交通費』

『道路整備費』

『建材調達に関する見積もり』

『別荘移設費』

『所定管轄外竜使用に関する違約金請求書』

 ……etc


 どれも目の玉が飛び出るほど、魔王城ではお目にかかったこともないほど高額な請求書である。普段目にする請求書や領収証はせいぜいで五桁、あるいは六桁程度だけどこれはそれにゼロが二つ三つ余計についている。

 見積もりと納品書が付いているものもあり、櫓の設計図なんかは昨晩窓から見たアレと分かる代物だ。

 しかも作業員の往復費用なんかは人数も膨大で、さらに支払いのパターンがいくつかあっていたるところから人員を募集していることが見てとれる内容である。これだけの人員を動員するなら食事代だって、と頭がくらくらしてきた。


「ここの開発費用って、その、人間と折半、です、よね……?」


 いくら何でも高すぎる、これはさすがに、と請求書からヴェンディへ無理やり視線を動かしてみると、当の魔王はしれっとした顔で言い放った。


「そんなわけにはいくまい。ここ一帯は我が領地でもあるし、人間の領地から物資を運ぶにはいささか遠い。こちらで用立てて、一緒に開発に携わってもらえればよいと人間にも言ってある。我らと歩んでもらうのだから、そのくらいは負担させてもらえぬかと申し出たら二つ返事で了承してもらっ……」

「バカですか!!」


 私は真っ向から魔王を怒鳴りつけた。

 いい顔をするにもほどがある。


「うちにどれだけの財政的余裕があると思ってるんですか! ていうか赤字! 赤字なの、絶望的に! だからいろいろ節約してたんでしょーが!」

「しかしリナ、そうはいっても魔王の威厳というものもある。ここはひとつ、なんとか支払いをだな……」

「向こう十年、ヴェンディさまのお小遣い無しでいいんですね!」

「えええ、それは困る!」


 お小遣い無し宣言に魔王の表情が途端にしょぼくれた。しかしここは折れてはいけない。なんせこれだけの額、ここが観光地として起動に乗るまで回収できないとなればそのまま借金化するのである。


「とにかく今からでも人間の王に折半、いやせめて三分の一でも持ってもらえるように交渉してきてください!」

「今更そんなカッコ悪いことできるわけないだろう」

「カッコ悪くてもやるの! じゃなきゃ当分の間おやつもパンも抜きですよ!」

「う、うう」


 私の剣幕に押されたのか、魔王の両目にじわりと涙が浮かんだ。


「り、リナのオニイィィィィ!」

「鬼で結構!! はよいって交渉して来い!」




 ――食堂に響く喧噪は後日、オニの事務員が魔人化したとの噂となる。


けど、その話はまた次の機会に。





【了】


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