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ヤマアラシとアルマジロ

作者: 狭門潜り

いつもと同じく、アルマジロに「ちょっかい」をかけに来たヤマアラシだが。。



生き物とは奇妙なもので、ヒトとサルはコミュニケーションがとれないのに、ヤマアラシとアルマジロはとれたりする。


「やあ、アルマジロくん」


ヤマアラシくんは今日も積極果敢である。


「……やあ。」


一方のアルマジロくんも何時もの調子で消極姿勢。

とまあ、ここまでは日常の定型文なわけだが、軋轢というのは本当に些細な対称性の乱れから起きてしまうのが恐ろしいところである。


「今日も今日とて、他所他所しいね、アルマジロくん」


積極果敢と無粋勝手の絶妙な重心を心得ているヤマアラシくん。少しバランスを崩したか。


「どういうことだい」


アルマジロくんは思わず訊く。自分でも分からないほどの無意識下で、小さな小さな針の刺傷。


「どういうことだいとはどういうことだい、ヤマアラシくん」


自分で分かっていても、一度乱した均衡はもう止まらない。


「僕は毎日ここに来て、君と仲良くしようとしてる。でも君は不機嫌だ」


アルマジロくんは、寡黙で、冷静で、聡明である。

だから理詰めで考える。


「でも僕は仲良くしようとしてない。それって押し付けじゃないのかい」


本当は、そんなことは無い。自分が考え過ぎて黙り込んでいる横で、健気に話し掛けて来るヤマアラシくんの声は、焚き火の音程に心地よい。


「……………………」


ヤマアラシくんは、思う所が有るのだろうか。らしくもなく、黙り込んでしまう。

二人の間に静けさが溜まる。均衡は、傾いた場所でも留まれるようだ。


そのまま陽が落ちた。二匹は互いに目もくれずに、ただただ考えた。


日は昇らなかった。きっとそうだ。こんなに考えた。自分も、相手も、態度も、ことばも、世界も、いのちも、愛も。それなのに。


まだ日は昇らなかった。


二匹は猶も考えた。そして気付いた。陽が落ちる前に、ぼくはあいつの顔を見ただろうか。

涙が出た。でもそんな高尚なものじゃないと思った。だって、顔を見なかったのは、見れなかったからじゃない。見ようとしなかったから。見ようともせずに、今更見れないからといって泣いて良いのだろうか。それは失礼な気がした。見ようとしても見れなかった者たちに。そして、あいつに。


けど、やっぱり泣いてしまった。


陽が昇った。


まずあいつと逆を向いた。泣いた顔なんて、きっとこちらだけだ。きっと向うは、いつも通りに、愛想が良くて、無愛想で、陽気で、陰気で、興奮気味で、冷静に、暖かく、冷めた目でこちらを見るのだから。

でもそれも悔やんだ。いいじゃないか、泣いた顔でも。悪いのはぼくだ。泣いた顔を見せられないこの心が、ついさっきまで、ぼくの心の下から6センチの場所を啄んでいたじゃないか。

慌てて相手を見遣る。ああ、僕の目は節穴だ。何で気付なかったんだろう。


ぼくが君を見る目は、君の瞳に映してみると、こんなにも、優しいじゃないか。













生き物とは珍しいもので、ヒトとサルはコミュニケーションがとれないのに、ヤマアラシとアルマジロはとれたりする。


「やあ、アルマジロくん」


ヤマアラシくんは今日も積極果敢である。

一方のアルマジロくんも何時もの調子で消極姿勢。

とまあ、ここまでは日常の定型文なわけだが、変化というのは本当に些細な対称性の乱れから起きてしまうのが恐ろしいところである。


「今日は何を話そうか」


「なんでもいいじゃないか、ぼくたちなら」


訂正。変化というのは本当に些細な対称性の乱れから起きてしまうのがとても嬉しいところである。




こんなご時世だからこそ思い出して欲しい。

心に余裕がなくなって、相手の顔が見えなくなっていませんか。

相手に優しくなんて、むずかしい。

自分のやさしさに気付いてあげるだけでいい。

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