母のお守り
お久しぶりです。少しずつ細かい設定が決まって来たのでちょこちょこ情報を本編にぶっ込みます。
「か、かっこいい…!!!」
エリオットは自宅で帰り際に渡された決闘服に腕を通し、鏡の前に立っていた。
王国の騎士団は色で区別されている。
第一王子の騎士団…別名、紅の獅子はその名の通り、紅色を基調とした王者の雰囲気を漂わせる隊服だ。
第二王子の騎士団は金色の狼と呼ばれ、金色の散りばめられた豪勢な隊服だ。
そして、第一王女のつまり、エリオットの所属するパトリシアの騎士団は青の薔薇と呼ばれ青を基調とした細工の細かい隊服だ。
「坊っちゃまのクリーム色のお髪によくお似合いです!」
メイドの言葉に嬉しくなったエリオットは頬を染め、ニヤニヤと鏡の前でポーズをとっていた。
「エリオットさん、いらっしゃる?まあ!まあまあまあ!!!エリオットさん、それが新しい隊服なの!?よくお似合いよ~!!こんなに立派になって母は嬉し…オッホっ!!!オホッ!!」
「は、母上!!大丈夫ですか!!あまり、興奮なさらないで下さい。お体に障りますよ?」
「だって~…小さい頃は喘息で外に出ることも出来なかった貴方がこんなにも立派な騎士になって…王女様をお守りするんだもの…母は貴方を誇りに思っているわ。」
「母上…。」
「亡くなった義兄さんもきっと喜んで下さっているはずよ。」
「はい…。叔父上から受け継いだこの剣にかけて、お嬢様をお守りします。」
尊敬する叔父上は3年前に起こった王家の内乱で命を落とした。
どのように亡くなったのかも分からなく、誰によって殺されたのかも分からない…あの時代はそんなことは珍しくなかったそうだ。
私はまだ騎士団にすら入団していなかったため、どんなものだったのかは実際に見ていないので分からない。
王家の乱れは国の乱れに繋がる。
結局、内乱に幕を引いたのは現在の第一王子であるカルディア王子であった。
現在も病床に臥せっている国王陛下が、正式にカルディア王子を後継者にすると仰ったそうだ。
叔父上はカルディア王子の騎士団――――紅の獅子に所属し、右腕として活躍していた。
そんな叔父上を倒すなんて……余程の腕利きか、はたまた闇討ちをかけられたか……。
どちらにしろ、真実は内乱の終焉とともに闇の中に消えた。
「そういえば、エリオットさん、明日決闘だそうじゃない。」
「え!あ~…はい…。」
「酷いわ!母に黙っているなんて!!!明日は使用人一同揃って応援に行くからね!!」
「母上がそう言うと思ったので言わなかったのですよ…。あまり、ご無理をされないで下さい。」
「まあ!年寄り扱いして!!」
「違いますよ。母上は身体が普通の人よりは弱いのですから言っているのですよ。また、父上と兄上に怒られますよ?」
「う、うぅ~…。でも、エリオットさんのデビュー戦なのだから…行きたいわ…。」
「帰ってきたら沢山お話しますよ。今回はそれで我慢してください。私は母上にいつまでも元気でいてほしいのですよ。」
「エリオットさん…。」
笑顔でそう言うと、母上は眉尻を下げ、「分かったわ」と言い納得してくれた。
「それで、母上。何かご用事があったのでは?」
「ああ、そうそう。これ。私が刺繍したハンカチーフなのだけど、王女様に差し上げてくださる?私はお会いしたことが無いからどのような方か存じ上げないから、好みとかも分からなくて…取り敢えず青で作ってみたけれど、気に入って下さるかしら?」
縁を細かいレースで飾られ、上質な手触りの布で作られたハンカチーフにはお嬢様の名前が刺繍されていた。
「きっと喜んで下さると思いますよ。」
「そうだといいのだけれど…。それと本題はこっち。」
取り出されたのは小さな青い巾着だった。
「これは…お守りですか?」
この国のお守りは出陣する騎士へ戦場での活躍や安全を願って作られる。
小さな巾着に入った古い力の失くなった魔石が厄災を吸ってくれると考えられている。
「頑張ってらっしゃいね。エリオットさん。」
「はい、ハインズ家の名に恥じぬ闘いをしてきます。」
次回、決闘始まりますよ~。