円卓会議
「あの、すみません。私は決闘事態をしたことがないのですが、具体的に何をするのでしょうか?」
手を挙げてそう言ったエリオットは紅茶を入れ直してくれたマキナに礼を言いながらパトリシアを見た。
「そうでしたね。決闘というのは各々代表者を一人ずつ出して一対一で闘うものです。負けた者は決闘場から退出し、次の挑戦者が現れれば闘い、現れなければその時点で勝敗が決するというものです。」
「つまり、私たちはこの五人で勝ち続けなければいけないという事でしょうか?」
「そういうことですね。」
紅茶を優雅に飲むパトリシアにエリオットは顔を青ざめさせた。
「お?どうしたリオ。トイレなら出て左だぞ。」
「トイレではありません!というか、愛称でリオなんて初めて呼ばれました。」
「不満ならオットーにするけど?」
「何ですか、その田舎坊主の父を呼ぶときのような渾名は……。いえ、リオでお願いします……。」
「おお。で、何でお前青ざめてんだ?まさか!失禁したのか!!」
「どうしてそう、下品な事しか考えられないのですか!!??」
イライラと頭を掻くエリオットに「ん?」小首を傾げたマリウス。
「相手は50を越える第2王子の騎士団なのですよ!?先輩方は確かにお強いですが、さすがに多勢に無勢……体力的にも持つとは思いません!!」
「まあまあ、エルちゃん落ち着いて♪」
フーフーと鼻息荒く言ったエリオットを宥めるように肩に手を置いたマキナの顔にはまるで焦りが無かった。
マキナだけでなくその場にいるエリオット以外の人物は皆、焦りどころか優雅にお茶をして、「このクッキー美味しい」やら「紅茶おかわりー」など自由に怠惰を貪っているように見えた。
「そうですね。エルの言う通り、体力には限界があります。なので、一人に50人全てをぶつけるのでなく、5等分にあちらの兵団を分け、私の騎士たち一人に対し10人ずつぶつかって来てもらおうかと考えています。」
「じゅ、10人!?!?!?」
信じられないと言いたげな顔のエリオットに、セリシウスは鋭い視線を送った。
「さっきから何なのー?エルくん、うっさいんだけどー。たかが、雑魚10匹でしょー?何をそんな狼狽えちゃってるわけー?」
「べ、別に狼狽えてなど……。」
目線を逸らし、本心を悟られないようにしたエルだったが、その場にいる全員がエルが何を思っているかは分かっていた。
「エルは不安のようですね…。」
パトリシアの言葉にエリオットは何も言えなかった。
実際、勝てる気が全くしなかった。
先輩方のお陰で少しは力が付いたと思うが、まだ10人抜きできるほどの実力は私には無いだろう。
暗い顔のエリオットに肘をテーブルについたまま面倒そうに言ったのはマリウスだった。
「まあ、俺がお前の分を倒してもいいぞ。お前がそれでいいなら。」
「え……。」
「俺達の背中に隠れて護って貰う事で、お前が大事にしている騎士道ってのが傷つけられてもいいならの話だけどさ。」
エリオットにとって尊敬すべき叔父は騎士道精神を重んじる立派な人であった。
そんな人物になりたくて自分もこの道を選んだのだ。
それなのに敗れることを恐れ、先輩方に護って貰うなんて……、騎士としてあるまじき行為だ……。
お嬢様をお護りするのが騎士です……!!
誰かに護って貰うなんて騎士は騎士を名乗る資格など無い!!
エリオットはメラメラと燃え上がる瞳で、ぐっと拳を作り、気合いを入れたポーズを取った。
「お嬢様!!お任せください!!このエリオット・ルーヴ・ハインズが必ずや貴方に勝利の花を捧げてみせます!!」
急に気合いの入ったエリオットにパトリシアは苦笑いを浮かべた。
気合いの入ったエリオットをセリシウスとマキナ、ルイスは心配そうに見ていた。
そしてエリオットを奮い起たせた肝心のマリウスは我関せずと言いたげに、クッキーを一人で全て食べてしまっていた。