団長との出会い
◇◇◇◇◇◇◇
3日後―――――――――…
王宮の廊下を歩いていたエリオットは中庭の噴水の前で佇む長い黒い髪の少女を見かけた。
自分とあまり身長の変わらなそうだが…どこかの令嬢か…?
あまり社交界にも参加しなかったからどこの家のレディか分からない…。
じーと見つめていると、視線に気づいたのかこちらを振り返った。
目を見張るほどの赤い瞳に病的に真っ白な肌、両耳につけられた大振りな耳飾り。
何より服装に驚いた。
ドレスでは無く、騎士の制服を着ていたのだ。
右腰に剣があることから左利きなのだろう。
「何か用か?」
「あ、いえ……どちらのご令嬢かと思いまして……。」
「………………。」
エリオットの発言に眉を寄せた少女はズカズカとエリオットに詰め寄った。
「え、あの……!」
「お前、見たことない顔だな。俺のいない間に新しい騎士が入ったのか。」
「え……『俺』…?」
腰に手を当てた少女ははぁと溜め息を吐くとギロリとエリオットを睨んだ。
「お前丁度いいや。剣を抜け。手並みを拝見してやる。」
そう言って少女は自身の右腰にある剣を鞘から抜いた。
綺麗に細工のされた剣ではあるが、かなり小振りだ。
軽そうではあるが、攻撃力は弱そうに感じる。
「え、あのちょっと待ってください!!突然そんなことを言われましても……!」
「戦場でもそれを言うのか?待てと言っている間にお前は斬り殺されるぞ。」
そういいながら斬りかかってきた少女の剣をギリギリの所でエリオットは避けた。
危なかった…。
そう思っている隙は無く、直ぐに追撃が飛んできた。
仕方なく剣を抜き、構えると少女は一度動きを止めた。
「その構え…ハインズの剣術だな…。」
ニヤリと笑った少女は自身も改めて構え直した。
エリオットも見たことの無いその構えは何処から攻めても隙だらけに見えた。
「来いよ。」
挑発するように指でクイクイとやった少女にエリオットも馬鹿にされていると分かり、剣を振り上げた。
キンッ!!
キンッ!!
エリオットの繰り出す攻撃をその小振りな剣で受け流すように払い退けていく少女の顔には余裕が窺えた。
少女の戦い方は相手の攻撃の力をそのまま使い、自滅を誘うような動きをする。
あくまで自分から攻撃をする気はないのか……?
何処までも馬鹿にしてっ!!!
イライラとしてエリオットは力任せに大きく剣を振り上げた。
その隙を見逃さなかった少女、はすかさずエリオットの懐に入り込むと勢いよく回し蹴りを食らわした。
その華奢な体からは想像のつかない程の威力のある蹴りにエリオットは飛ばされ廊下の壁に体をぶつけた。
蹴られた腹を押さえながら咳き込むエリオットを少女は笑いながら見ていた。
「何だお前!弱いな!!」
「……っ!!」
「それで騎士なんて、この国の騎士の質もかなり落ちたな~。」
剣を鞘に納めた少女は「ほら」と言いながら手を差し出した。
エリオットはあまりの屈辱的な発言にその手をパシッと叩き、壁に手をつきながら立ち上がった。
「おお!相手の手は借りないってことか?へー、騎士の誇りはしっかりと持ってはいるんだな。」
「…………。」
「まあ、そんな睨むなよ。ほんの挨拶だったんだ。悪かったな。」
「……あなたはいったい何者なのですか…。」
この国では女性騎士は認められていない。
他国の使者か何かなのだろうか…?
「人に尋ねる前に自分から名乗れよ。それが騎士道だろ。」
腰に手を当てながらやれやれと言った少女に再び怒りを募らせたが、言っている事は最もであったため言い返せなかった。
「エリオット・ルーヴ・ハインズです。」
「エリオットね。俺はマリウス・ベルチェリア・ケイシー。みんなはよくマオって呼んでる。」
「……マ……オ……。」
まさか…………と思い、目を見開いたエリオットにニッコリと笑ったマオは言った。
「そうそ。お前の騎士団の団長だよ。新人くん?」
「……我らの団長は……女性の方だったのですか……。」
エリオットの発言にピクリと眉を動かしたマオはエリオットの両頬を強く引っ張った。
「なっ!なんれふか!!!」
「俺は男だ!!どんだけ鈍いんだよお前~!」
ムッと膨れるマオはとても騎士団を仕切るようなタイプには見えなかった。
こんなに子供っぽい人が!?!?
エリオットの団長への理想像が大きく崩れた瞬間だった。
眠い……。