自己紹介
「改めまして、私はエリオット・ルーヴ・ハインズと申します。未熟者ですが、よろしくお願い致します。」
礼儀正しく挨拶をしたエルは私より二つ下なのにとても大人っぽい。
見た目とかは年相応だとは思うけれど、言動はなんだか年上にも見える。
何故だろうと思って周りを見渡して納得した。
私に仕えてくれている騎士は皆、歳よりも子供っぽいところがあるというか…乱暴なところがあるというか…。
真面目に仕えてくれているのは分かるのだけどね……。
「そしたら、あたしの方から皆の自己紹介するわね!」
「はぁ?なんで俺が変態に紹介されなくちゃいけないわけー?名前が穢れるからやめてくれるー?」
「もー!あー言えばこう言うんだから~。」
「でも、俺もマナちゃんには紹介されたくないかな~。」
「もう!ルーちゃんまで!!失礼しちゃうわ!!」
プンプン怒りだしたマキナに「それなら私から紹介するわね」とパトリシアが手を挙げた。
「うんうん。お姫様なら大歓迎だよ♪」
「俺もお嬢がいーな~♪」
一転して笑顔になったセルと妖艶に気だるげな雰囲気を醸し出す青年。
「そしたら、紹介しますね。」
そう言って、まずパトリシアは隣に立つセルに手を差した。
「セリシウス・アーデン・ロードです。私はセルって呼んでいます。彼には私の騎士団の副団長をして貰っています。」
「ちゃんと敬ってセル副団長って呼ばないと即退団してもらうから。」
「は、はあ……。セル副団長はロード一族のご子息でありましたか。」
エルがそう言うと気に食わなかったのか、セルの鋭い睨みが飛んだ。
「家は関係ないから。あんたと違って実力で俺は騎士になったんだから。」
その言葉にエルも眉をピクリと動かすと、
「私も実力で騎士団に入団したのです!!家の力など借りておりません!!」
「はっ、どうだか。」
セルはどうしていつもこんな風に私以外の方には喧嘩腰なのかしら……。
「はいはーい!次はあたしの紹介して~!お嬢様!」
睨み合うセルとエルを押し退けてマキナに一安心した。
多分、今の私の騎士団が纏まりを保っているのはマキナのお陰かもしれない……。
「マキナ・クロム・スーデリアです。喋り方が独特だけど、面白い方ですので、仲良くして下さいね。」
「マキナお姉さまって呼んでねー!」
「…………はい……、よろしくお願いします。セル先輩とマキナ先輩。」
エル……かなり困った顔をしていますね……。
「あのさぁ!副団長って言ったよね!?聞こえてなかったの?その耳は飾りなわけ!?」
「私の中でも善処した上での呼び方です。いちいち、私の発言に角を立てるような方には先輩で十分だと判断致しました。」
「え~あたしは~?お姉さまがいいのに~!女学校みたいで~。」
「マキナ先輩は男性でしょ。男をお姉さまと呼ぶ変な奴だと思われたくなど無いので、尊敬も込めて先輩は付けておきます。」
エルはなかなか肝の据わった男の子のようだ。
普通は新参者だの何だので、先輩騎士に意見する者はあまりいないのに……。
「本当くそ生意気なんだけどー。早く団長帰ってきて糾弾して欲しいわー。」
「罪に問えるほどの事はしておりませんので、糾弾など出来ませんよ。」
「罪状は先輩への不敬罪だよー。」
バチバチと火花散らす二人に溜め息を吐いたパトリシアは最後に蒼い髪の妖艶な青年を差した。
「ルイス・バルチナ・シャーストンです。ルイはいつもは気だるげなだけど、凄く強いんですよ。」
「まあ、お嬢の為なら頑張るけど、他のことはどうでもいいから基本スルーだね。」
強いと言われて機嫌を良くしたのかクルクルとパトリシアの髪を弄り始めたルイはそのままその毛束にキスをおとした。
「ちょっと!ルイくん!!お姫様に触らないでっていつも言ってるよね!?喧嘩売ってんの!?」
「セルくんだけのお嬢じゃないでしょ~?」
一通り自己紹介が終わると、ふとエルから質問が飛んできた。
「あの、団長はどちらに?」
「団長は今遠征中なのよ。もう何日かしたら帰ってくるわよ。」
エリオットは小さな声で「独りでもいいからまともな人がいて欲しい……」と呟いたのは誰にも聞こえなかったが、切実な思いであった。
「マオ……団長の事は帰ってきたときに紹介しますね。」
「はい。承知致しました。」
「改めて、よろしくお願いします。エル。」
「はい。お嬢様。」
パトリシアが差し出した手を取り、その手の甲にキスを一つ落とした。
「私付きの従騎士になるという申請は出しておいたので安心してください。」
「ありがとうございます。お嬢様。」
こうして、エリオット・ルーヴ・ハインズは王国唯一の王女のパトリシアの5人目の騎士になったのであった。