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王女様と5人の騎士   作者: わんわん大好き
3/14

エルくんの入団

読んでいただきありがとうございます。


コンコンコン




「失礼致します。遅れてしまい、申し訳ありません。エリオット・ルーヴ・ハインズ参じました。」


第二王子の部屋に入る為にドアの前でそう言うと、全く返事が返ってくる気配がなく、まさか中で何かあったのか!?と思ったエリオットは急いでドアを開けたところ……、




「ん~な~に~?坊やも入りたいの~?」



裸の女性が何人も大きなベッドの上におり、その中心にはどうやら我が主君がいるようだった。



ドアの前で固まっていると自身の方まで一人の女性が歩いて来ているのに気づくと、エリオットは勢いよくドアを閉め、走ってその場から逃げた。



な、何だ!!??


さっきのは……!!??



エリオットは公爵家の次男として生まれ、厳しく育てられたため、色事に関しては全くの無知であった。

それに加え、齢15という歳であった彼には刺激が強すぎる光景であった。



頭が沸騰しそうになりながら走っていると、ドンッと誰かにぶつかった。




「あ、すすすすみませっ!!」


「よぉ、新入りじゃねーか。」



顔を上げると、そこにいたのは昨日エリオットを殴った先輩騎士たちであった。


誇り高い騎士服をそんな風に気崩すなんて……。


「……おはようございます…。王子のお部屋に行くのでしたら、今はやめた方がいいですよ…。」


むすっとしながらそう告げると、その場にいた第二王子付きの騎士全員がゲラゲラと嗤いだした。



「ははっ!!美人なねぇーちゃんたちがいたんだろ?」


「…………。」


顔を背け、先程の光景を思いだし真っ赤になるエリオットをまた騎士たちは嗤った。



「新入りも来るか?一人ぐらいは相手してくれるかもしんねーぞ?」


「は……!!??」



ガッとエリオットの頚に腕を回した先輩騎士は無理やり引っ張り、第二王子の部屋に向けて歩き出した。


「なっ!!??放してください!!」


「お前もちっとは色事を学べばその堅い頭どうにかなるかもしんねーしな!!ははっ!!」



バシバシと頚に回る腕を叩くも、無駄に筋肉のついた腕にはびくともしないようで、ズカズカと連れていかれ、もうダメかと思ったその時だった、







「止まりなさい。」




凛とした透き通る声がその場に響き、先輩騎士たちの歩みは止まった。



「その方を放しなさい。」



その言葉に舌打ちを一つすると、先輩騎士は腕を緩め、エリオットを解放した。



若干頚がしまっていたエリオットはその場でゲホゲホと踞り咳をして、見上げた先にいたのはパトリシアであった。



「王女様ー?俺たちは新入りを可愛がってやってただけなんすよー?」



ヘラヘラと嗤いながら王女に手を伸ばしてきた先輩騎士はパトリシアの後ろで控えていたセルの抜いた剣を頚に突きつけられた。



「汚い手で俺のお姫様に触んないでくれる?あんたみたいのがお姫様の視界に入ったってだけで、反吐が出るんだけど。」


「っ…………!!」



ジリジリと頚にその刃を食い込ませていくセルに顔を青ざめさせた先輩騎士はその場にヘナヘナと座り込んだ。



「大丈夫でしたか?」



手を差し出したパトリシアの微笑みは柔らかかった。



差し出された手を取り立ち上がったエリオットはまだ夢心地のようにパトリシアをずっと見つめていた。



「ちょっと!!立ち上がったならさっさと手離しなよ!!」



セルはエリオットの手首に手刀を入れ、無理やり繋がれた手を離させた。



「やぁーねー、セーちゃんは本当に乱暴なんだから~。」


「キモいから、出てこないでくれるー?」



先程と同じようにセルはパトリシアがエリオットと接触した手を念入りに拭いていた。



「ごめんなさいねぇ?うちのセーちゃんお嬢様のこと大好きなのよ~。まぁ、あたしもお嬢様のこと負けないぐらい大好きなんだけどねぇ~?」


「は、はぁ……。」



相変わらず変な喋り方をする方だ……。



そういえば、先輩たちは!!??



周りを見渡すと、先ほどまで10人近くいた先輩騎士は一人もいなくなっていた。



遠くを見ると、どうやらセルと呼ばれるこの綺麗な青年に凄まれたせいもあり、逃げ出したらしい……。


騎士が背中を向けて逃げるなんて、誇りは無いのか!!??


と、思ったものの、自身も先程の女性から逃げ出したのを思いだし、人のことを言える立場では無かった。



「ったく、本当迷惑だよねー。あーゆう奴がいるせいで『最近の騎士団は落ち目』だとか言われるんだよ。」


「そうねぇ。ちゃんと主君を護ってる騎士もいるのにねぇ~?」



腰に手を当てながら、文句を垂れるセルに「で、あんたは礼も無いわけ?」とエリオットは睨み付けられた。


「あ、助けていただき、ありがとうございました。王女殿下。でも、何故ここへ?」


「ウィリアムお兄様のお部屋に向かうのに、きっちりと着込んでいたので、他の騎士の方々と目的が違うのではないかと思って引き返して来たんです。」


「あの……その、失礼ながら私は先輩方は起こす以外の目的で何をしにウィリアム殿下の部屋に向かおうとしたのでしょうか?」


「はぁ?そんな事も分からないわけ?どんだけ馬鹿なのー?呆れて何にも言えないんですけどー。」


「セーちゃん、お嬢様と新人くんの邪魔しないの。」



ムッとして眉を寄せると、「何その顔。不細工な顔で俺のこと見ないでくれるー?」とセルに返された。



「私も詳しいことはよく分からないのだけど、お兄様は女の人がとても好きだから……その…一緒にお楽しみになるとかなんとか…。」


顔を赤らめながら恥ずかしそうにするパトリシアはとても可愛らしく、エリオットもつられて顔を赤らめた。


「ちょっと!お姫様に変なこと言わせようとしないでくれる!!??どいつもこいつも本当に心遣いとか出来ないわけ?」



どうしてこのセルとか呼ばれている方はいつも怒っているのだろう……。



その綺麗な顔とは正反対の言動に正直ビビるが、関わると噛みつかれそうなので、無視しておこう。



「その、何となく状況は察しました……。」


「察し悪すぎて、頭大丈夫かと思ったよ。」


「はいはい、セーちゃんは黙ってましょうね~。」


いちいちエリオットの言動に食いついてくるセルの口をマキナが押さえた。



「……ウィリアム殿下はずっとああなのですか…。」



政務に手をつけず、豪遊三昧の騎士に注意することもない、朝から女遊び……。


自分の理想とした主君の姿とはかけ離れすぎており、エリオットは何が正しいのか分からなくなっていた。



「…………お兄様は…本当は凄く立派な方なのです……。」


「………………。」


「私の罪なのです……。お兄様がああなったのは……。」



長い睫毛を伏せながら悲しそうに呟かれたその言葉の意味を知ったのは、ずっと先の事だった。









「それで?こいつをどうするわけ?お姫様。」



面倒そうに尋ねたセルにパトリシアは笑顔を取り戻し、エリオットに手を差し出した。



「あなたに私の騎士になって欲しいのです。」


「!!??」



その場にいたパトリシア以外が皆、目を見開き驚いて言葉を失った。



「ちょっと!!こんなクソガキを俺たちの仲間にするわけ!?」


「ええ。真面目で、向上心のある方だなと思って、ずっと目をつけていたのよ。」


「目をつけていた……とは?」


キョトンとした目でエリオットに聞き返されたパトリシアは目を逸らし恥ずかしそうに呟いた。



「入団試験の日、私も試験会場にいたんです。そこであなたを見つけて、是非私の騎士にしたいと思ったのですが、あなたは王子付きの騎士を希望されてましたので……、でも、諦めきれなくて先程あなたを見かけ、声をかけてしまったんです。」



まるで告白されているようなその言葉にエリオットの頬は即座に朱に染まった。



「その……私は……。」


「無理強いをしたいわけではないので、きっぱり断って貰って構いませんよ。その場合は潔く諦めます。」



「とても残念ですが」と付け足し、眉を下げた彼女に二つ返事で「やります!!」と答えようとすると、その後ろにいた二人が物凄い睨みをきかせてきた。



「お姫様、団長にも相談しないで、決めちゃっていいの?(こんな使えなさそうなクソガキと働きたくない。)」


「そうよ!!団長が反対すれば、入団は出来ないわよ!!(可愛い男の子だと思うけど、足手まといになりそ~。)」



言葉の後ろに隠れた本音がチラチラと見えている二人をじとっとした目で見返したエリオットはその場に膝をつき、腰にさしていた剣をパトリシアに渡した。



騎士が忠誠を誓う儀式で、主君により洗礼をうける。


数日前にエリオットはウィリアム王子に儀式をしてもらおうと王城を訪ねたのだが、「面倒だ」と言われ断られてしまったのだ。


その為、エリオットにとって初めての忠誠を誓う儀式だった。



しかし、パトリシアはその剣を受け取ろうとせず、逆に突き返してきた。




「あの、パトリシア殿下……?」


「誓いの儀式はしないんです私は。」



彼女の言い方的に王子と同じで「面倒だから」というわけでなく、何かしらの理由があるようだった。



「図々しいんだよ、クソガキ。俺だって……赦されて無いのにさ……。」


「そうよねぇ~。あたしたちだってしたいのにねぇ~。」



不満そうにそう言った二人に暗い顔をしつつ、パトリシアは言った。



「それでも、私の騎士になって下さいますか?」



正直、彼女がどのような方なのかはよくわかっていない。


だが、ウィリアム王子のもとで騎士をするよりはマシだという気持ちだった。



「はい。ですが、いつかお嬢様に忠誠を誓うことを赦されるよう、精進いたします。」





このときの僕はまだ知らなかった。


お嬢様が罪だと言ったウィリアム王子件……、忠誠を誓わせない理由……、そして第一王子であるカルディア殿下がどのような人物なのかを……。




続きます。

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