決闘 3
「いい?絶対にお姫様を一人にしないこと!!お姫様も絶対に一人にならないで!!」
「え、ええ。」
「セーちゃんたら必死すぎ…。まあ、気持ちは分かるけど…。」
闘技場に入り、青の薔薇の陣地に行くとセリシウスは厳重警戒をしだした。
「あの…セル先輩は大丈夫でしょうか…?」
「エリーは知らないからそんな平然としてられるんだよ。」
「る、ルイ先輩も顔が真っ青ですけど…。大丈夫ですか?」
「俺はお嬢の側から絶対に離れたくない…。」
今からこんなんで大丈夫なのでしょうか……。
「私は始まる前に少しアップをしてきます。」
「おー!リオー、俺も行くよ!」
「は、はい。」
陣地から出て、エリオットとマリウスは歩いていると噴水のある大きな広場のような所を見つけた。
「そういえば、団長はケイシーという姓でしたね。貴族でそのような家は聞いたことが無いのですが失礼ですが、平民出身ですか?」
「ああ。俺のは偽名だよ。本名はちょっと事情あって使えないから。」
「事情……?」
あまりその話はしたくないのかマリウスは走って行き、エリオットに向かって木刀を構えた。
「さあ、こい!!」
「いや、準備体操とかしなくていいんですか?」
「そういうめんどくさいのは省略!!大丈夫だよ!!俺が自然と体操の動きになるようにしてやるから!」
「は、はあ…(天才は出来ることが違うな…)」
エリオットも構え、一つ深呼吸すると走ってマリウスに斬りかかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
30分後
「はあ、はあ…。」
「大丈夫かー?リオー。」
着なれない物を着て動くのがこんなに疲れるなんて…。
それに団長は汗を一滴をかいていないし…。
それだけでも、実力差は明白である…。
「ほら、起きろ!そろそろトリシアのとこ戻らないと!」
「は、はい…。すいません、もう少し待って貰えますか?」
「ん?」
こんな汗だくで戻って、お嬢様に汗臭いなんて思われたくない…。
エリオットも一応年頃であるため、気になる女性には好く思われたい。
エリオットは近くの噴水で顔を洗い、火照った体をクールダウンさせた。
「すみません団長、私のタオルを取っていただけませんか?」
目をつぶった状態で手を差し出したエリオットの手の上にタオルが無言で置かれた。
「ありがとうございます…あなたは誰ですか…。」
顔を拭き、目を開けるとそこにはスカイブルーの瞳に金色の髪を持つ好青年が立っていた。
上等な服に身を包んでいるため、貴族なのはわかる。
私服のようなので一般客なのだろう。
「道を間違えたのですか?あれでしたら観客席までご案内しますが。」
「うーん…気のせいだったのかな?君から僕の婚約者の匂いがしたんだけど…?」
「……は?」
新手なナンパなのかと思い、鳥肌の立ったエリオットは一歩退いた。
「その……私は男色には興味がありませんので。」
「へ?あー違うよ。俺も君みたいなちんちくりんの坊主には興味ないから。それよりさ、そのポケットに入ってるの何?」
指を指された方を見ると、初めてお嬢様に出会った日にお借りしたリボンが少し出ていた。
あ、綺麗に洗濯したし、お返ししようと思ってたんだった…。
「それってさ…もしかしてパトリシア様の…?」
「え、ええ…それが何か…?」
そう聞いたその瞬間、目の前の男はエリオットのポケットからそれを引っこ抜き、自身の手中に納めた。
「な!?返して下さい!!」
「はあ~、残り香ですぐに君だって分かったよ俺の愛しいプリンセス~!」
奪ったリボンに何度も口付ける男にエリオットはかなり引いたが、先日自身も同じことをしていたのを思いだし、深く反省した。
「はあ、これは僕が貰うよ。」
「な、何を言っているのですか!!それはお嬢様のものです!!早く返して下さい!!」
背の高いその青年はエリオットが手を伸ばしても届かない位置までリボンを高く挙げると、まるで動物と遊んでいるような、馬鹿にしたような笑みを見せた。
しばらくそうしてやっていると、唐突にガツンッ!!という音がし、男の手からリボンが降ってきた。
それをキャッチしたエリオットは一安心したように溜め息を吐き、何が起こったのかと男を見た。
頭の後ろを擦りながら目尻に涙を溜める男の見上げた先には木刀を肩に担いで呆れた顔のマリウスが立っていた。
「いったいな~。もう、何なわけ?」
「うちの新人をからかうなよ。バカ狼。」
「あれ、マリーちゃんじゃん。なーんだ、帰ってきてたんだー。死んでくれてたら清々したのにな~。」
「俺が死ぬ前にお前をこの世から消すから安心しろよ。」
笑顔でそう言う団長の目は笑っていなかった。
団長とも知り合いの方……王宮勤めの方なのだろうか……?
「ほら、リオ。これ。」
そう言われて渡されたのは水筒だった。
これを取りに行って下さっていたからいなかったのか…。
「ありがとうございます。」
グビグビとそれを飲んでいると、またもリボンを狙おうと男がエリオットに近寄ってきたため、距離を取った。
「団長……この方は…?」
「馬車で話したろ。コイツが“シオン・アルジャーノン”だよ。金色の狼のバカで変態でキモいトリオの一人。」
「バカでも無いし、変態でも無いし、キモくもないから。天才トリオだからね?」
「うるさい、ばーか。」
「マリーちゃんのほうが、よっぽど馬鹿に見えるけどね~?」
なるほど……この方が金色の狼を率いるお三方の一人、シオン・アルジャーノン……。
「馬車の中でお前が非番届け出したって聞いて思ったけど、どうせ今回のだってお前の策略だろ。」
「お!マリーちゃんは鋭いねぇ!」
「どういうことですか?」
エリオットが聞くと、仕方無くマリウスが答えた。
「推測だけど、セルと下っ端の話を聞いた使えるって思ったんだろ?お前はセルに怯える下っ端に何か言って奮起させて、無謀な決闘を挑ませた。」
「おー!すごーい!その通りだよ!!」
「えっと……つまり……?」
「……つまり、今回の決闘には何の意味も無いんだよ。コイツがただ単にトリシアに会いたかっただけ。」
「な!!??それなら最初からお嬢様のお部屋を訪ねて来ればよいではないですか!!何故こんな大事にしたのですか!!アホですか!!頭の中身空なんですか!!」
「そうだ!!もっと言ってやれ!!」
「だーって、仕方ないじゃん?出禁になってるんだしさ~。」
「……出禁?」
エリオットが聞き返すと、マリウスが答えた。
「コイツ、トリシアの部屋がある西館を出禁になってるんだよ。前にトリシアの寝所に忍び込んだから。」
「えぇぇぇぇ!!なんと!!!紳士どころか猿にも劣る行為を働いたのですか!!??それも我らが王女に!!」
「そうそ。何も無くてよかったけど、それもルイがいたお陰で何とかなっただけだし。」
「俺だって男だし、愛しい婚約者がいれば我慢出来なくなることもあるんだよ。」
「男と一括りにしないでいただきたい!!あなたのような下世話な者にはお嬢様を半径10以内に近づけさせませんから。……って婚約者?」
「リオ、コイツの妄想だから心配するな。」
「あとちょっと押せばきっと俺を見てくれると思うんだけどね~?」
「お前の勝手な理想論だよ。トリシアはお前が嫌いだってさ。近寄るなゴミ虫って言ってたぞ。」
「そんな事をパトリシア様が言うわけないだろ!!」
「じゃあ、聞いてみれば?まあ、その前にトリシアに話しかけた時点で、俺の騎士団全員にお前は殺されるだろうけど。」
あーだこーだ言い合いをしていると、集合のベルがなったため、マリウスとエリオットはその場にシオンを残し、走って陣地に帰った。