決闘 1
「馬子にも衣装だねー。」
上から下まで品定めするようにジロジロとエリオットを見るセリシウスは嘲笑うように言った。
「………………。」
「何その顔。何か文句あんなら口で言えばー?俺にその不細工な顔向けないでくれるー?」
「まったく…。セーちゃんは本当にエルちゃんが可愛いのね~。」
「マキナくん、違うから。黙っててくれるー?」
「今日はアールグレイよ♪」と言って、紅茶を淹れてくれたマキナにエリオットはお礼を言って、香りを嗅ぎ、口に含んだ。
今日もマキナ先輩の淹れてくれる紅茶は絶品です。
「はぁ~あ。マナちゃん、俺にもくれる~?カフェインで目醒まさないと寝そう…。」
「だったら、珈琲淹れる?」
「あ~そっちのがいいかも~……ぐぅ…。」
「昨日も夜遅くまで本読んでたのね…まったく……。」
「ん~……お嬢が貸してくれたやつなんだから一日で読むのは鉄則でしょ~……ぐぅ…。」
「やれやれ」と言いつつも、しっかりと珈琲の準備をしているところにマキナ先輩の優しさを感じます。
「てか、マオくんとお姫様はー?始業時間なのにまだいないんだけど、決闘出ないわけー?」
「今年もあれやってるんじゃないの~?」
「あれ?……ああ、そっか。そういえば今日だったね。」
何の事だろうと首を傾げるエリオットにマキナは言った。
「私たちもよく分からないけど、去年もこの日にね同じように、朝二人がいなくてね、捜していたら、早くから王城の外れにある墓地へ行っていたらしいのよ。誰のお墓なのかも分からない名前や享年も彫られていない墓に花を手向けて、ずっとお祈りをしているのよね。」
「聞いても、上手くかわされて話そうとしないからねー。」
その話を聞いて、改めて団長とお嬢様には他の騎士とは違った何かがあるように感じた。
「まあ、気長に待ちましょ♪決闘は午後なんだし♪」
「それまでに身体暖めて動けるようにしとかなくちゃだけどねー。エルくんが倒せなかった分は俺らが代わりに倒さなきゃいけないんだからねー。」
「な、何で私だけ倒される前提なのですか!!!私だって今日は先輩方に負けないぐらい活躍致しますよ!!」
「はいはい。そこまで言うんだったら有言実行してよねー。」
「エルちゃん、セーちゃんは無理はしないでね?って言いたいのよ。天邪鬼だから素直に言えないのよね♪」
「無駄に曲解しないでよ。言葉のまんまだよ。うざいなーほんと、この女男。」
「やん!!暴力反対よ~!!か弱いんだから優しくして~!」
「うわっ…鳥肌たったんだけど……。俺の視界から消えてくんない?マキナくん。」
「冷たいところもセーちゃんの一つの取り柄ね~♪」
「だから、死にたいのかって聞いてんだけどー?」
「せ、セル先輩は一言もそんなことは言っていなかったような…。」
「纏めて殺すよーエルくんも。嫌なら黙ってクッキー貪ってな。」
ギャーギャー騒ぐ三人のもとに漸くパトリシアとマリウスが到着した。
「お待たせしました。」
「おー!!今日も元気だな!!俺の騎士団は!!」
「あんたのじゃなくてお姫様のだから。」
「セルは細かいなー。」
青いドレスに身を包んだパトリシアは青い隊服をビシッと着たマリウスの髪をゴムで結んであげていた。
「お嬢様、おはようございます!」
「おはようございます。エル。隊服、とても似合っていますね。」
「あ、ありがとうございます///」
「ん?何モジモジしてんだ?トイレか?」
「だから、違いますって!!!何なんですか団長は!!朝から下品極まりないです!!」
「男の子だもん~!下品で当たり前だろ~!!」
「ちょっと!男の子って一括りにしないでよ!俺はマオくんとは違って気品溢れる紳士なんだから!!」
「セーちゃんが紳士なのはお嬢様にだけだけどね~♪」
パトリシアは話が脱線しているため何か言おうとするのだが何を言っても収集がつかない気がし、言うことを考えていると、さっきまで寝不足で寝ていたルイスがむくりと起き上がった。
「お嬢が困ってんじゃん。皆、少しは黙りなよ。」
「ルイ…。」
ありがとうと言うようにパトリシアが微笑むと、ルイスは照れたように外方を向いた。
ルイスの言葉に反省したようにしーんと静まった。
「それじゃあ、闘技場に行って準備をしましょうか。」
パトリシアの言葉に皆立ち上がると、各々自身の剣を腰に携え、マントを羽織った。
剣に蔦を巻きつかせる青い薔薇のエンブレムが青の薔薇の証である。
各々それを左胸に付ける。
「命を捧げて、忠誠を尽くす」という王国騎士の古い慣わしで、今はやっている騎士は殆んどいないのだが、青の薔薇はパトリシアが忠誠の儀を行わないため、せめてもとセリシウスがエンブレムを用意したのだった。
騎士団を率いる者として忠誠の儀を行ってもらったマリウスも一応付けている。
衣服の準備が出来たところで、各々はパトリシアの左手を取り、口付けた。
「行きましょうか。俺のお姫様。」
「頑張るわよ♪お嬢様のためにね♪」
「必ずや我が至高の君に勝利を!」
「お嬢に良いところ見せてあげるからね。待ってて。」
「いつも通りやってくるよ!茶でも啜って待ってな!俺のトリシア!!」
先導されるように手を引かれたパトリシアはそれらの言葉に頷き、部屋を後にした。