20 お似合いでした
大変遅くなりました……!!!
有無を言わさぬ笑顔のお兄さまにきっちりと事情を聞かれたわたくしは、先日のアレクの事と、バートの事を洗いざらい話してしまっていた。
「ふうん……アレクシスにランベルト殿か。同世代では彼らは遥かに優秀だった。流石はうちのディーだね、それに彼らは見る目がある」
何故だかお兄さまは満足そうだ。
わたくしはというと、今更ながら羞恥に襲われている。
「随分と楽しそうですね。何のお話ですか?」
お兄さまとふたりでお茶をしている所に、着替えを済ませたセドナが妖艶な笑みをたたえて現れる。
「ああ。少しね。うちのディーの周辺の話を聞かせてもらっていたんだ。あの二人がいるなら、悪い虫はつかないだろうと思ってね」
「例のお二人ですね、ふふ」
話を聞いていない体のはずのセドナだが、一切合切承知のようで、自然に会話に入ってくる。
その不思議な気持ちが通じたのか、わたくしを見たセドナは、またゆるりと目元を緩めた。
「オーナーが娼館に来た時に、状況を打開しようとされていたお二人でしょう。他の方は存じませんが、お二人は直接娼館に来られたので私も覚えています」
ふたりに温かい目を向けられて、ますます恥ずかしくなったわたくしは、「そんなことより!」と急いで話題を変えた。
「お兄さまこそ、何かと大変なのではありませんか? 侯爵家を継がれた事ですし、周りが婚約について何かと騒がしいのでは?」
眉目秀麗なお兄さまには、どうしてだかずっと婚約者がいなかった。
侯爵となった今は、以前とは比べ物にならない位の縁談が舞い込んできているであろうことは、容易に想像がつく。
「そうだね、確かに最近は騒がしいな。まあでも今はセドナがいるから大丈夫だよ」
「えっ!」
ふんわりと笑んだお兄さまから、予想外の言葉が出てきてわたくしは驚いてしまう。
それって、そういう……?
わたくしが目をパチクリとさせていると、セドナはお兄さまを窘めるように言いながら、わたくしの隣に腰かけた。
「まあ、シルヴィオ様ったら。そんな言い方ではオーナーが誤解するでしょう。私を連れ立って歩く事で、風除けをされているだけのくせに」
「ははっ、手厳しいな、セドナは」
にこにこと微笑みの応酬を絶やさない二人を交互に見る。
二人とも完璧な笑顔で、その下にどんな感情があるのかはわたくしには読めない。
(……でも、お兄さまがここまで女性をそばに置くのは初めて、ではないかしら)
少なくとも、お兄さまはお茶会では令嬢たちを軽くあしらっていて、誰かひとりと共に行動する姿は見たことがないのだ。こんなにリラックスした様子も。
「――でもわたくし、セドナがお義姉様になってくれるのなら、とても嬉しいですわ!」
「っ!」
「……オーナー……」
思ったままにそう口にすると、二人の笑顔の仮面にぴしりと亀裂が入ったように感じた。ほんの一瞬だったけれど。
「ぷっ、くく……嬢ちゃんぶっ込み過ぎ……!」
そして部屋の隅では、こっそり笑っていたクイーヴがあえなくお兄様とセドナに見つかり、この夜は三人で飲み比べ耐久レースを徹夜でやる羽目になったらしい。
◇
「お嬢様、お手紙が届いています」
翌朝。ハンナが持ってきてくれたのは、一枚の手紙だった。上質な紙だ。
くるりと裏返して送り元を確認すると、ランベルトと記載してある。バートからの手紙だ。
「まあ……何かしら」
「先程、侯爵家の従者が直接持って参りましたので、急ぎなのかもしれません」
「では早く見ないといけないわね」
早朝から、何のお手紙なのだろう。
朝の身支度のために、ハンナに髪をとかしてもらいながら、わたくしは手紙の封を切る。
お兄さまたちは徹夜で飲み明かしたそうで、今は皆ぐっすりと眠っているらしい。以前から飲み仲間だったとはいえ、凄まじい飲みっぷりだった。
わたくしもジュースをちびちびと飲みながら見ていたけれど、いつもの時間に眠くなってしまって早々に自室に戻った。
あの後も続いたらしい酒宴は、きっと大いに盛り上がった事だろう。
そんな事を考えながら、便箋を広げる。
整った文字で書かれた文章を読み、わたくしは思わず固まってしまった。
「お嬢様? どうされました?」
わたくしの様子を見て、ハンナが心配そうに眉尻を下げる。
そこには、彼が今からここに来ることが書いてあったのだった。




