02:勇者召還されたぼくとお嬢様
2話目です。
ぼくがいつもの呪文を唱えおわってふと周りを見渡すと、お嬢様の高校の講堂ではなく、中世ヨーロッパ風の大広間が目に映った。
「どういうことだろう?」とうろんげに目を細めると、近くから野太いおっさんの声が聞こえてきた。
「ようこそおいでくださった、勇者様方。私は皆様を勇者召還させていただいた、クラント王国の国王ザイーガ5世であるぞ」
声の方に眼をむけると、やはり、おっさんがいた。
おっさんは、中世ヨーロッパ風の煌びやかな衣装を身に着け、頭に王冠をかぶった太った男だ。
おっさんの周りには、同じく中世ヨーロッパ風の兵士や様々な色のついたローブを着た者たちがひしめいていた。
そして、ぼくの横には麗しいお嬢様、
さらに隣に、猫目で背の低い16歳くらいの少女と、
騎士風の服を着た20歳くらいの背の高い男、
「農業やってました」と言わんばかりの40歳くらいの筋肉だるまなおっさんがいた。
(ここはどこだ?いつの間にかブタ男もブタ女もいなくなっている)
奇怪な状況に思考を回転させていたら、服のすそをぎゅっと掴まれた気配がした。
見ると、お嬢様がぼくの服のすそを掴んで、涙目で見上げていた。
「よしお・・・・」
この状況にお嬢様も不安だったのだろう。
しかし、ぼくはお嬢様のその様子にまたしても理性がふっとびそうになったので、呪文を唱えなおす。
(ぼくはお嬢様の犬。犬にして下僕・・・・・・・・)
そんな中、王冠をかぶったおっさんとローブの一人が会話を始めた。
「ふむ、5人か。勇者様は<紅玉・黄玉・碧玉・紫玉>の4人しかいないはずだが・・・」
「勇者様じゃない者が混じっているのかもしれませぬ。陛下、鑑定石の使用許可を」
「それもそうだな、勇者様がどのような能力を持っているかも知りたい。ヨーデル、ここに鑑定石を持ってまいれ」
そう言って、おっさんたちがにわかに慌てだした頃には、ぼくは呪文の効果ですっかり冷静になっていた。
冷静になったぼくは、本来の仕事をなすことにした。
ブタ男のせいで、ずっと立ちっぱなしだったお嬢様のおみ足をお休みさせる業務である。
四次元腕輪を操作し、テーブルや椅子、紅茶セットといったものを取り出す。
「お嬢様、大丈夫ですよ。
このよしおがおりますから、どのような状況でも、ご自宅に帰れるように手配いたします。
こちらへどうぞ。ただいま、紅茶をお入れします」
そうして、お嬢様を椅子に誘導していると、横から声がかかった。
「えっえっ!?いま、何もないところから机、取り出さなかった?」
声をかけたのは、お嬢様の隣にいた猫目女だ。
「亜空間魔法の使い手か。やるな・・・」
さらに騎士風の男がきざったらしく、声を重ねる。
「いや、お前ら、なんでそんな冷静なんだ。お前らもオレと同じで、勇者召還ってのをされたんだろう?それが何か気にならないのかよ!?」
最後のは、筋肉だるまだ。
お嬢様があっけに取られている。
ぼくは、彼らをお嬢様の視界に入らないよう身体をずらし、紅茶をお嬢様の前にだす。
「心の落ち着くフレーバーティーをお入れいたしました」
「この男、私を無視した!?
え?なに!?
私、自分でいうのもなんだけど、かなり美少女だよ!?」
唖然とつぶやく猫目女。
なにかいま空耳が聞こえた気がする。お嬢様以外に美少女などいるわけないというのに。
「はっ」
思わず、鼻で笑ってしまったぼくは、悪くないと思う。
同じく連載中の『悪役令嬢は【男装】して魔法騎士として生きる。』も
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