勇者達は森へと入る
その日、ラベスク王国辺境領の領主、ラ・ビルン辺境侯は北王国アイシアンからの避難民の様子を見て衝撃を受けていた。
今まで様々な難民を見てきたがこれほど暗い表情をしている難民はラベスク国王陛下が避難民の受け入れを始めてから初めてだ。
ここは辺境地なのであまり避難民はこないのだがこの表情は異常であると一目見れば分かる。
北王国アイシアンの滅亡による難民達。
聞いた話によると謎の巨大な魔物により目の前で両親を無残に食い荒らされた者もいると聞く。
酷い話だ。
「領主様、もうこれ以上の避難民の受け入れは困難です」
「そうか。現在いる避難民達を居住区ごとに選別して各町に送り出せ」
「しかし、それでは王都を通過しなければならない者もでてきます。国王陛下ならお許しになるでしょうが、他の貴族に騒がれてしまっては、、」
「ならばその貴族共に貴様らは平民を通すこともできない小心者なのかと言っておけ。私名義で構わん」
「、、、分かりました」
「あくまで間接的にだぞ」
「承知しています」
思わず北東方面にある夢霧の森を見てしまう。
この大陸の中でも有数の面積を誇る夢霧の森。
森の主である魔物が放つ霧と幻覚魔法のせいで魔物の認識が遅れ冒険者パーティーの全滅が相次ぐ森、それが夢霧の森だ。
5年ほど前に魔物が押し寄せてきた時はその森の主も出てきたのか私兵と派遣された騎士団のかなりの数が負傷した。
突如としてドアが開き一人の女性が出てくる。
娘のリリア。
優秀すぎるがゆえに既に代官と同じ権限を与えている娘。
「お父様。避難民をどうするおつもりで?」
「数が多過ぎる。とりあえずは各地に分散させなければならない」
「でしたら各領主の承諾が必要なのでは?」
「貴族の器を見せろといえば誰でも言うことは聞くさ。正直この国の貴族はアホばかりだ。中央の貴族は見栄と地位ばかり、地方の貴族は逆に何もせずにのうのうと暮らしている。この国がどのような現状なのかも理解せずな」
「アイシアンが滅亡し魔王の下部が近くにいる。兵力を強化・配置しない人間の国。魔族にとっては格好の的ですね」
「しかも、その最初の犠牲になるのは私の領地なのだからいただけない。陛下も早く貴族への注意喚起を行えばいいものを」
「現在は貴族派閥の力が大きいですからね。下手な行動ができないのですから当然では?」
「確かにそうだがそれでこの国が滅んでは困る」
「そうですね」
「そう言えばおまえは三ヶ月後には学園だったな。準備はできているのか?」
「一応はできています。ああ、どうやら私一人になってしまいそうです。お父様は派閥に入っていないので」
「あんなものおままごとだ。入る価値などない」
「他の貴族はお父様を派閥に入れようと躍起になっていますからね」
「そう考えるとおまえは引っ張りだこだな」
「そうですね。では、失礼します。あ、それとお父様、実は」
「夢か」
「はい。近時下魔物が攻めてくるとのお告げが」
「アイシアンか?夢霧の森か?」
「夢霧の森です」
「そうか」
リリアが領主館に入っていく。
「代官。近くの貴族に手紙を遅り3日以内に避難民の移住の了解をとれ。それと兵力を集めろ」
「分かりました」
彼の書類地獄が始まった。
波が荒い。
湖なのに波がある。
「このボロ船大丈夫か?」
「恐らくな」
今は水花さんの聖法で風を起こし船を進ませている状況だ。
結構速度がある。
5分程進んだが最初は見えなかった陸が少しだが見えるようになった。
「しかしまぁ、よくこれだけやって魔力が尽きないよな」
「まあ水花さんの魔力は勇者の中でも突出して多いからねぇ」
「霧島さん。魔物はいますか?」
「いや、今の所いないな。まあ出たには出たんだが」
「島津さんが使役していると言うことですか?」
「正確には出てきた魔物を使役して強い個体がいたらそいつを使役して周囲の魔物を殺させているということだな。後ろを見てみろ」
今まで進んできた方向を見るとかなりの数の赤い物体が浮いていた。
恐らく襲いかかろうとして返り討ちにあった魔物の死骸。
死骸に向かって真理究明を発動する。
「真理究明」
『多足田鼈:水中に生息する大型の魔物。
大きいものは5mに達し船ですら捕食する。
かなり危険な魔物で水中に引き込まれたら確実に死ぬと言われる』
虫かよ。
船を捕食するってやばいよね。
小さい船を選ばなくてよかった。
「そうだ。島津さんはどんな魔物を使役しているんですか?」
「紹介がまだだったね。おいで」
島津さんが呼ぶと船の後ろの海面が盛り上がり一つの首が出てきた。
青色の鱗に真っ青な瞳を持つドラゴンだった。
「ウォータードラゴンか。よくテイムできたな」
「多分だけど使役自体は誰でもできるんだけどスキルがあるかないかで確率が大きく変わるんだよ」
「なるほどな」
話し合っていたら水花さんが近寄ってきた。
「すみません。そろそろ魔力が限界でして」
「じゃあリユに押してもらおうか」
「リユって名前なんですか?」
「うん。女の子だからね」
「島津、押してもらうんじゃなくて引っ張ってもらうではないのか?」
「でもロープないじゃん。だからこの子の水魔法で押してもらおうと思ってね」
「なるほどな。理解した」
「じゃあリユ、やってもらえる?」
波が起こり徐々に船が進んでいく。
その速度はだんだんと加速していき遂には先ほどと同じ速度になっていた。
「おー凄いな」
「その言葉がなぜ私がやった時に出ないのかが疑問ですがとりあえずは凄いと言っておきましょう」
「だって水花さんほぼチートじゃん」
「そうでもないですよ」
少し気になったからリユさんを鑑定してみる。
_______________________
名:リユ
ウォータードラゴン
称号:『湖の覇者』『勇者の従魔』
304歳
魔力総量:12673
スキル:水将・高速兵
水将:水流操作・水魔法
高速兵:速度上昇・身体強化
称号スキル:『湖の覇者』
湖王権限
水生魔物指揮
覇王化
『勇者の従魔』
魔族対峙時攻撃力増加
物理防御力増加
魔法防御力増加
_____________________
うん。
ものすごく強い。
魔力総量12673って何?
桁がおかしい。
湖の覇者って思いっきりこの湖の頂点の魔物じゃん。
しかも超長老。
この勇者の中で勝てる人いなくない?
あ、水花さんなら勝てるかもしれない。
「どうかしましたか金切りさん」
「いや、あのリユさんが強すぎるなって」
「そういえば鑑定解析を持っていたな。どうだった?」
霧島さんに聞かれたので鑑定結果を素直に話した。
みんなが驚いていたのはその魔力総量と称号。
平均の約9倍もあるらしい水花さんの約3倍もあるのだから仕方がない気もするけど流石にこの湖の頂点に君臨する魔物であるとは思ってもいなかったらしい。
「多分だがこの世界の人間からすれば勇者は異常な力を持っている人間だな。それに対する魔王もそうか」
話していると船が揺れ速度がなくなった。
「お、ついたな」
「琵琶湖の半分を僅か7分少しか。凄まじいな」
「じゃあリユは戻っていいよ。お疲れ様」
リユさんがどこかに転移したように消えていく。
「リユはどこに行ったんだ?」
「分からない。でも召喚すれば戻ってくるからね」
船から降りる。
周辺は砂場になっており少し離れたところから森になっている。
何故か森部分だけに濃い霧がかかっており、とてつもなく不気味だ。
「幽霊とかでないですよね?」
「でないはずです。確認した限りでは」
見ると水花さんが少し、いやかなり震えている。
すると森の茂みが僅かに揺れて一体の魔物が出てくる。
赤いスライムだった。
「鑑定解析」
________________
名:無し
レッドスライム
称号:『暗殺者』
魔力総量:30
スキル:高速兵・打撃兵・自爆民
高速兵:速度上昇・身体強化
打撃兵:攻撃力上昇・打撃
自爆民:自爆
称号スキル:『暗殺者』
対象認識外時攻撃力上昇
防御貫通
潜伏
________________
これかなりきつい。
潜伏使われて認識外だと攻撃力上がって速度上昇と身体強化と攻撃力上昇で突っ込まれて防御貫通の打撃をくらわされて最後は自爆されると言う凶悪コンボ。
これは酷い。
「スライムか。しかし赤いな」
「金切さん。何か見えたか?」
とりあえずは鑑定結果を伝える。
「なにそれ?キツくない?」
「遠距離攻撃でないとまずいですね。金切さんお願いできますか?」
「分かりました」
銃を取り出し引き金を引く。
弾丸はレッドスライムにあたりレッドスライムは爆発した。
「倒したとしても自爆か。厄介だな」
「然も、森の中は霧だらけだ。正直なところ対策が思い浮かばん」
「水花さん、結界って張ることができる?」
「できなくもないですか魔力が乏しいのであまり長くは続かないと思います」
「紀ノ木、先行してレッドスライムの排除を頼めるか?」
「できなくも無いがあまり離れると俺が場所を把握できない」
「じゃあこの子を連れてってよ。眷属召喚」
地面に魔法陣が現れ一体の小鳥が現れる。
雀のような感じがするがよく見ると羽が4枚ある。
「こっちと合流したいときはこの子についてくればいいよ」
「借りるぞ」
小鳥をポッケに入れて紀ノ木さんは森の中に消えていった。
「さて、情報収集・情報整理・情報分析・思考加速・高速演算・状況理解・周囲検索」
「気合入りすぎだぞ」
「こうでもしないとこの状況下では周囲の状況を把握できない。っ!?」
「スキルの併用のしすぎでは?あなたのスキルの大体は脳に負荷をかけるものですから」
「、、、わかった。スキルを幾つか解除する。悪いが金切、透視と千里眼をして周囲を見てもらえるか?」
「分かりました。透視・千里眼」
視界が切り替わる。
透視も重なっているため霧や森の茂みは一切見えず私たちと周辺の魔物、そして紀ノ木さんが見えた。
紀ノ木さんは近くにいたレッドスライムを殺した後すぐに離れ自爆を回避していた。
どうやら今野が最後に一体だったようで周辺にレッドスライムはいない。
そういえば爆発音が聞こえてこなかった気がする。
まあいいか。
そうして私たちは、森の中へと入っていった。




