世界の改変
絶対なる力である神力を吸収する結晶の鎧を砕くことは誰もできない。
だが新たなる神はそれをなしえてしまった。
「いったい何を?」
「神力が使えないならスキルと魔素を使えばいい話だ。違うか?」
「ふむ。新米に気づかされるとはわしもまだまだじゃな」
「ワズラワシィィ!!」
千を超える吸神の晶鎧を構成している結晶である『吸神結晶』で構成された鋭い結晶の触手が神たちを襲う。
その結晶の触手は触手を避けた神たちを追尾し攻撃していく。
「きりがないわ。守護結界!」
アヌの結界により触手が通れない場所が作られ五柱に増えた神たちはその場に逃げ込んだ。
「厄介ね。私の浄化もあれじゃあ効果がなさそうだし」
「やはりどうしても神力をたよってしまうな」
「ねえアスクさん」
「なんだ」
「あなたは何の神なの?」
最高位四柱全員の疑問をエシュタルが新神アスクに聞いた。
「それよりもあいつだ。奴を倒す方法はあるか?神力を吸収する結晶は別にしてだ」
「そうね。力の根源である始祖竜の大王の力と人間の魂を抜き取ればおそらくだけど元の結晶神に戻ると思うけど」
「違う。奴を完全に消滅させる方法だ。ないとは言わせないぞ」
沈黙が降りる。
アスクを見た始祖アヌの目は後悔と悲しみがやどっていた。
「あるわ。でも、、、」
「お前らの事情など知るか。さっさと言え」
「アスクさん!その言い方はないと思います!」
「あれを野放しにしておくつもりか?どうせこの状況も何回か繰り返しているんだろ。だったら消滅させるのが一番早い」
「でも!」
「モウオワッタカナァ!!!」
いつの間にか触手は一つに統合され大きな槍になっていた。
その槍は吸神結晶と波動結晶で構成されておりアヌの守護結界を貫く威力が秘められていた。
「まずい!」
「シネェェェェ!!!!」
世界をも破壊する槍が神たちに迫った。
時は少し遡る。
アスクが竜王と戦っていた頃、サキ、リリネ、デルマティの三人はアスクに会うためにアスクがいる廃坑に来ていた。
「ここから微弱ですがアスク様の力が感じられます」
「全くどうしてこんなところにいるんだか」
「しかしなぜ我が主人はこのようなところに」
突如三人の足元が光った。
「なにが、、、、、」
三人が見ていた景色は一瞬で変わり次に三人が見たものは迷宮の壁だった。
「何処ここ!?」
「迷宮のようですね」
「ここは、まさか」
サキが振り返るとそこには大量のフラスコや試験管の中に入った薬品や毒液、様々な鉱物と大量のレポートが置いてあった。
「サキ、知ってるの?何かの研究所ということはわかるけど」
「おそらくここはアスク様の攻略されたベーツの森の迷宮でしょう。でもいつの間に」
「む。そういうことならば我が主人は我々を転移の魔法陣までおびき寄せここに転移させたことになります」
「サキ、デルマティ、あれを見て」
リリネが指差した先には三つの試験管が置いてありその中には水色の薬が入っていた。
試験管立ての下には2枚の魔法陣のようなものが書かれた紙と伝言のようなものが置いてあった。
内容は1枚目の魔法陣で王都に転移し、試験管の中の液体を飲み干しもう一つの魔法陣を発動させろということだった。
「どうするの?やるの?」
「我はやったほうがよろしいかと思います」
「そうね。二人とも近づいて」
三人は触れ合う程度に近づき魔法陣に魔力を流し込んだ。
すると景色は一瞬で変わりサキがよく知る王都の学園の近くに転移した。
魔法陣の紙は淡い光とともに消えていってしまった。
そして三人は躊躇うことなく試験管の中の薬を飲み干しもう一枚の魔法陣を取り出した。
魔法陣に魔力を流し込むがなかなか発動はせず永遠に魔力が吸われていくのではないかと思うほどだった。
様子を見ていたデルマティとリリネも加わりようやく魔法陣が光を発した。
その光は球型に広がり全てを覆った。
あまりの眩しさに三人とも目をつぶってしまい効果を見ることはできなかった。
「一体なにが?」
「わかりません」
「とりあえず主の命令は達成できました。この後はどうします?」
「とりあえずはゲロイドールにっ!?」
突如地震が世界を襲った。
あまりの振動に三人ともふらついてしまい態勢を立て直すもさらに連続して大きな地震が世界を襲った。
「なんなのよこれぇ!」
「主従のつながりが消えた!?危機状態ってこと!?」
「加勢に行き主を手伝いましょう!!」
「これほどの振動はあの魔物との戦い以上よ!あまりにも無謀だわ!」
「しかし我が主を身を呈してでもお守りするのが!!!」
「私たちには転移ができないのよ!!」
このままではダメだ。
そう思い二人を制止する。
「二人とも」
「なに?あなたからもデルマティに何か言ってやって!」
「サキ殿からも説得してください!」
「静かにして!」
あまり怒鳴ることのないサキの声に二人は黙る。
少しずつ地震は収まっていき轟音と引き換えに周りの叫び声のようなものが聞こえてきた。
「アスク様が何で私たちに一枚しか転移の魔法陣の紙を渡さなかったかわかる?」
「それはっ」
「そうよ。恐らく私たちを巻き込みたくなかったのでしょうね。本当に馬鹿な人、いえ竜かしら」
「サキ、、あなた、、」
「本当に馬鹿な竜よっ!私たちには何も言わないでネルとだけ強くなってっ!どれだけアピールしても手を出してくれないしネルが来てからは彼女のことばかり!」
サキの目からは涙が溢れていた。
本人でさえ気づいていないネルに対する愛への嫉妬と強くなれなくていつでもアスクを頼ってしまう先への嫌悪感。
今までの不満が全て吐き出された彼女はもうアスクに恋をする一人の少女だった。
自分が大切にされていることぐらいは彼女にはわかっていた。
だがそれは家族や友達に向ける愛であり決して恋愛感情的なものではないと知っていたのだ。
キスはしてもらった。
だがお願い事で無理やりしてもらっただけだ。
一緒に寝たこともある。
だが自分が一方的に入っていっただけだ。
学園から生徒が雪崩でてくる。
近くで泣いていたサキの姿を見て数名の男女が近くにやってくる。
「君たち!早く避難をしなさい!」
それは学園の生徒会役員たちであった。
生徒会長クロード・カネル、副会長バラール、会計ケルメナ、書記ダーリナ、そして一年庶務ルーナ・パジェシであった
「エルフに蟲魔人!?君たちは一体誰なんだ?そんなことは今はいい。早く行くぞ!」
クロードの言葉にそういえばこの人たちは二人を知らなかったな。とサキは考える。
と同時に違和感を覚える。
君たち?
その言葉には完全にサキも入っている。
何故クロードは私を知らないのだろうか?
サキはそう考えるが答えにはすぐにたどり着いた。
ああ、記憶を消したんだろう。
薬を飲んだ私達以外のアスクに関する全ての記憶を。
さっきの魔法陣で私たちに消させたのだろう、と。
「これも勇者ネルと魔王との戦いだというの!?彼女は一体どれだけの力を!」
「それよりも早く避難しましょう!」
生徒会のメンバーに手を引っ張られ避難所に連れて行かれる。
多分今私の手を引いているルーナは私のことを覚えていないのだろうと思いながら。
そして先ほどのダーリナの言葉も妙に引っかかった。
『これも勇者ネルと魔王との戦いだというの!?』
ああ。アスク様は全て一人で背負いこむ気だと今更ながらにわかった。
称号を最初からあったように記憶を改変しネルを救い出し幸せに暮らすために。
それだけ彼女のことを愛しているのだ。
また涙が頬をつたる。
だが彼女は勘違いをしていた。
アスクが記憶を排除したのは周りに神による被害が降りかからないようにする為であることを。
そしてこの世に『アスク』の記憶を持つものは彼ら三人と最上位神以外にいなくなり、魔王と勇者が戦い勇者が負け死んだと言うことになる。




