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「二年ぶり……ということになるのかな」
弦巻は椅子にもたれかかり、新聞の記事を読みながらそういった。顔を紙に近づけ、目で文字を追っている弦巻の表情は普段の陽気な性格とは真逆の険しいものだった。昭人は「二年前」という言葉に身体を反応させる。それは昭人にとってもまだ色あせることのない強烈な記憶でもあった。
「前回の事件って確か、昭人君の小学校の子が殺されたんだっけ?」
弦巻の反対側の椅子に座っていた柊が問いかけ、昭人はうなずく。二年前、同級生二人が何者かによってめった刺しをされ、殺された。すぐに捕まるだろうという楽観的な予想を覆し、犯人が捕まることなく、今の今までこの凄惨な事件は闇の奥深くへと押し込まれていた。通り魔的な犯罪であり、被害者との関係から犯人の割り出すことができない。また、田舎の通学路であるがゆえに人通りも少なく、犯人らしき不審者を見たと言う目撃者も現れなかった。防犯カメラによって被害児童の足取りをある程度まではつかめたものの、肝心なところで消息を見失い、結局犯人に繋がる証拠をつかむことはできなかった。
「二年前と全く同じ手口だねぇ。鋭利な刃物でめった刺しされ、しかも同時に二人殺されている」
「やっぱり同一犯の仕業なのかなぁ?」
「その可能性が高いだろうね。模倣犯にしては、間が空きすぎているし。それに、この二人同時にっていう点がすごい特殊だよね。普通の通り魔なら一人でいる人間を狙うだろうし」
昭人は弦巻から新聞を借り、じっとその記事を読み込む。後ろに柊が回り込み、昭人の背中越しに事件の内容を確認した。
しかし、記事にはあまり有益な情報は載っていなかった。被害者が他の小学校の児童であり、二年前の事件と同様、体中が刃物でめった刺しにされた状態で発見された。発見現場は狭い用水路。二人の死体はバラバラの場所に放置されるわけでもなく、縦に二人が並べられた状態で見つかった。相も変わらず目撃情報はなし。二年前の事件以降しばらくは犯人への警戒を強めていたのだが、事件の記憶が薄まり、再び穏かな日々を取り戻しつつあったそのタイミングを狙った犯行だった。面子をつぶされた警察は怒り心頭、署を挙げて犯人逮捕に乗り出す、云々。
昭人は新聞を弦巻に返す。外に開かれた窓枠から風が室内に吹き込み、弦巻の薄い頭部にそよぐ。窓から見える公園の木々の葉はすっかり色づき、深い秋の訪れを示唆していた。風に運ばれた数枚の紅葉が窓から室内に迷い込んでいる。
「さすがに今回は捕まるよね」
柊が同意を求めるように弦巻に尋ねる。しかし、弦巻は含んだ笑みを浮かべるだけで何も答えない。次に柊は昭人の方を振り向いたが、昭人は昭人で、柊以上に不安な表情を浮かべていた。高校生である柊とは異なり、昭人はまだ小学六年で、犯人からターゲットにされうる年齢だったからだ。
「一体誰がなんのためにこんなひどいことしてるんだろうね」
「そんなの……サイコキラーに決まってるでしょ。子供を殺すのが好きで好きでしょうがないようなやばいやつ。そうじゃないとこんな殺し方説明が付かないもん。とにかく、昭人も気を付けてよ」