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翌朝。学校の校門は今まで見たことのないほどのお祭り騒ぎだった。校門や通学路にはカメラを持ったマスコミ関係者が押し寄せ、彼らの応対のため、小学校の事務員や教員が四苦八苦していた。集団登校も、普段よりも大世帯であり、その上、教員が付き添っていた。昭人たち学童に対して容赦なくフラッシュがたかれるたびに、正義感にかられた付き添いの教員がマスコミ関係者を大声で怒鳴りつける。生徒たちはまるで護送中の犯人かのように、顔を伏せ、ただ流されるままに校舎内へと入っていった。
「一昨日の夜、うちの生徒二人が、何者かによって殺されるという事件が起きました」
教壇に立った、担任教師が沈痛な面持ちでクラス全員に語り掛けた。いつもは陽気な担任教師の真剣な面持ちに、うちのクラスが一瞬で冬の池のように静まり返った。女子は不安そうにあたりを見渡し、男子は厳粛さと恐怖の奥底から空気を読めない好奇心を隠せずにいた。
殺された? 担任が発表する前からクラスメイトから聞いていたことではあったものの、改めてその非現実的な響きに戸惑いを隠せずにいた。自分はテレビのミステリードラマの世界に入り込んでしまったのだろうか。昭人は詳細を語る担任の言葉を聞きながら、そんな間の抜けたことを考えてしまう。しかし、同じ学校の生徒が誰かに殺されたという事実は、それだけ昭人にとっては現実味のないものだった。
担任の説明によると、昨日の明朝、ここ近辺に住んでいる人なら誰もが知っている自然公園の溜まり池で二人の遺体が発見されたらしい。二人が同時に殺されたこと、そして殺され方が異常だったことがマスコミの興味を掻き立てているらしい。詳しい説明および、今後の登下校に関する事項についてはこれから全校集会で校長からお話があると告げ、今から体育館に移動するとだけ告げた。昭人たちは担任の指示に黙ったまま従い、二列に整列した状態で、教室から体育館へ移動する。途中で合流した他のクラスの雰囲気も、昭人のクラスと同じように緊張が張りつめたものだった。
体育館に到着し、壇上から向かって一番右の最上級生の列に並んだ後、その場で体育座りをして他の学年、クラスの到着を待つ。周囲を見渡すと、全校生徒のうちまだ半数程度しか体育館に集合していなかった。
「おい、昭人」
後ろに座る渋谷太一が小声でちょっかいを出してくる。昭人は少しだけ首を後ろに向けた。体育館の重苦しい空気の中、他の生徒もひそひそ声で話をしており、太一の声もまたかすかに聞こえる程度の音量しかなかった。
「お前、知ってた? 殺人事件のこと?」
「いや、今朝初めて知った。ニュースとか見てないからさ」
昭人は素直に事実を伝えた。それを聞いた太一は少しだけ優越感に浸るかのように鼻腔を膨らませ、さらに顔を昭人の近くまで持っていって、会話を続ける。
「俺はさ、ニュースを見てきたぜ。母ちゃんとか父ちゃんは先に出かけるからよ、邪魔されることなくみれんだこれが。でさ、殺された奴らなんだけど、四年の向井と石田っていう女子二人らしいぞ。知ってる?」
昭人は首を振った。クラブ活動にも入っていない昭人は、委員会を除けば他学年と交流することは滅多にない。太一に小突かれ、もう一度改めて知り合いかどうかを考えてみたが、やはりその二人の名前に覚えはない。太一はつまらないなと不服そうにつぶやいたが、すぐさま調子を取り戻す。
「ま、それは別としてさ。こんなにマスコミが来てる理由って何だと思う?」
「知らねぇよ。早く言えよ」
昭人は自分の知識をひけらかしたくてたまらない太一の卑しさを若干面倒に思いながら急かす。
「それがさ、あくまでテレビで見た情報なんだけど。どうやら、体中をめった刺しにされて殺されたっぽいんだよ。怖くね?」