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「柊は負けたから一回休み。残念でしたー」


 先ほどまで柊を擁護していたなつみがいたずらっぽく柊に微笑みかけた。柊はそんななつみを愛おしそうに後ろから抱きしめ、顔の上からなつみの手札を覗き見る。「もうあがりじゃん」と柊がつぶやくと、なつみは「言わないでよ!」と頬を膨らませながら抗議する。弦巻さんがそんな二人を父親のようにやさしい微笑みを浮かべなら見つめ、自分のカードを切った。麗香さん、なつみが続いてカードを切る。


「柊と変わってあげる。私ってすごく優しい子だから」


 最後の一枚を切り、最初ににあがったなつみが顔を真上にあげながら言った。


「ね、昭人。カイト君と真菜穂ちゃんを誘って、他の遊びしよ」


 俺はなつみの提案にこっくりと首を縦に振る。弦巻さんは俺たち二人が抜けるならと、麻雀をしようと柊と麗香さんに提案し、二人が快諾した。隣の号室の真鍋さんを呼ぼうと麗香さんがすぐ後ろの壁に顔を向け、大声で麻雀をしようと叫ぶ。鉄筋コンクリートの壁越しに、真鍋さんの間の抜けた返事が聞こえてきた。真鍋さんがいる号室とは逆の部屋からはいつの間にか違う曲が流れ始めていた。


「あ、水をちょっとだけ新藤さんにもっていってあげて」


 302号室を出ていこうとする俺となつみに、柊が椅子に座りながら玄関側へと身体だけを向け、お願いしてきた。俺がいいよと返事をすると、麗華さんが柊を茶化し始める。


「柊は新藤を甘やかしすぎだって。もやしやろうなんだから、運動させなきゃ」

「もやしやろうって言いすぎですよ」


 柊がそう反論すると、麗華さんは驚いたふりをして、大げさに目を見開き、眉をあげた。


「ごめんごめん。私、柊みたいに、ああいうやつがタイプじゃないからさー。どうしても辛口になっちゃうのよ」

「べ、別に新藤さんがタイプってわけじゃありません!」


 柊が麗香さんのからかいに過剰に反応する。麗香さんはそんな柊の態度にさらに機嫌をよくし、何か小さな声で柊をさらにからかい始める。弦巻さんはそんな二人のやりとりを楽し気に見つめたあと、腰に手を当てながら立ち上がり、麻雀卓を収納してる引き出しへと歩いて行った。


 なつみはすでにバケツの中の水を廊下に置かれっぱなしの空の2lペットボトルに移し替えていた。なつみが移し替え切った後、昭人が両手で満杯になったペットボトルを持ち上げる。なつみは先にカイト君たちのところに行ってるねと言い残し、そのまま廊下を出て、左に曲がった。昭人はなつみとは逆の方向、新藤のいる301号室へとよろよろと向かう。入り口を間切りしているベージュのカーテンを開け、新藤の部屋の中に入る。新藤はどこで拾ってきたのかわからない大きな座椅子に目をつぶったままもたれかかり、音楽に身体全身を浸らせていた。


「昭人君かい?」

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