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知り合いをたどり、他校に通う羽田の連絡先を入手したのは、昭人が援交現場に遭遇してから二か月後のことだった。羽田からの反応は驚きに満ちていた。なぜこのようなことをしているのか、昭人自身にも理解できていなかったし、羽田にとってはなおさら理解ができないことだった。
「一回会う?」
どういう流れでどちらがそう言ったのかよくわからない。その上、小学校からの腐れ縁ではあったが、こうして学校外でわざわざ会うなんて初めてだった。近くに住んでいるにもかかわらず、どうしてこうも遠い存在のように感じられるのだろう。昭人は待ち合わせ場所のカフェで、ぼんやりと行きかう人々の群れを眺めていた。
別に、元同級生が援助交際をしようが自分には関係のない話だし、それを止めるような正義感あふれる性格でもない。自分でも何がしたいのかわからなかった。ただ、きちんと聞いてみたかった。本当に援助交際をしているのか、そして、なぜそのようなことをしているのか。
後ろからポンポンと肩を叩かれ、昭人はびくっと身体を震わせながら振り返った。目の前には私服姿の羽田香織が立っていた。夏らしい紺色のTシャツに、ベージュ色の七分丈ズボン。別に女の子らしくもなければ、変にボーイッシュを気取っているわけでもない、シンプルな恰好。昭人はそのファッションを見て、なぜか少しだけ安心した。もちろん、なぜ自分が安心したのかはわからなかった。
「早く来すぎでしょ。まだ十分前だよ」
羽田は耳にはめていたイヤフォンを外しながら微笑み、昭人の真向かいのソファに腰かけた。そのまま羽田はちょうど近くを通り過ぎようとした店員を呼び止め、アイスカフェラテを注文した。久しぶりでも、待ったでもないその言葉がどうしようもなく彼女らしくて、昭人は思わず笑ってしまう。
「で、会って何を話すの? 私の援交のこと?」
羽田は注文が来るのも待たずにそう切り出す。昭人はたじろぎながら、本当に援助交際をしているのかと尋ねると、羽田は隠す素振りも見せずにうなづき、力強い眼光で昭人の目を射抜いた。それはまるで、何か文句でもあるかと威圧しているかのようなまなざしだった。
二人の間に沈黙が流れる。昭人が先に頼んでいたアイスコーヒーの氷が解け、からんという音がグラスの中で反響する。店員がアイスカフェラテを持ってきて、そっと羽田の前に置いた。
「なんか言うことあるんじゃないの?」
羽田が飲み物に口をつけた後、そう言った。昭人は羽田の言葉の真意がよくわからずに聞きなおしてしまう。羽田は目を大きく開け、「他に何も言うことないの?」と疑わしげな表情で見つめてきた。昭人が戸惑いながらもうなづくと、羽田はそこで初めて小さく微笑んだ。それを見て、昭人は今の今まで羽田が内心では気を張っていたことに気が付いた。
「援交のことでたかられるのかと思ってた」
「はあ? たかられる?」
羽田は呆れた様子でつぶやいた。昭人がそんなはずがないと若干機嫌を損ねながら非難すると、羽田は「ただ話をするためだけに会おうなんて理解できなかったんだって」と弁解する。