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 児童連続殺害事件について、以前の新聞記事をもう一度調べてみようか。


 昭人はふと高校の帰り道にそのように思い立った。そう思い立った理由はもちろん、新藤からの突然の探偵ごっこのお誘いだった。子供っぽいと茶化した提案に、昭人はどこかそわそわしていた。自分が忘れようとしていた事件を蒸し返されたからでもあったし、何よりこの事件のことを考えるだけでなんだか無性に落ち着かなくなるからだった。


 本気で犯人を突き止めようとか、新藤の遊びに本気で付き合うという心づもりではない。それでも、無意識に閉じ込めていたこの事件に対する興味関心が、新藤の提案をきっかけにしてぶり返し始めたのも事実だった。目をそらし続けてきたこの事件について、改めて自分の中で整理をつけるいい機会なのかもしれない。昭人はまるで誰かに弁明しているかのような調子でそう自分に言い聞かせる。


 高校近くの停留所からバスに乗り、街の中心部にある県立図書館へと向かう。静かな館内へと入り、一直線に目的のPCコーナーへと入る。新聞記事データベースから過去記事のバックナンバーを漁り、事件に関連する情報をざっと読み流していった。


 児童連続殺人事件。6年前の事件を嚆矢に、一、二年ごとに同じような殺人事件が現在進行系で繰り返されていた。殺害方法はいずれも腹部や胸部を鋭利な刃物でめった刺しにされるというもので、濱野太志が殺された事件を除くと、被害者はいずれも二人組の小学生。濱野太志を含めると、被害者は合計7人。警察官の懸命な捜査にもかかわらず、犯人は不明。全国的にも有名な未解決事件となっている。


 犯人が捕まらない。これは新聞記事の情報を鵜呑みにすると、警察官が捜査上でいくつかの重大な戦略ミスを犯しているかららしい。犯行があまりに特殊である以上、犯人は異常な考えの持ち主である可能性が高く、そうである以上、そのような人間をあぶりだすことにはそれほど苦労しないのだろうと高をくくっていたのだと言う。それにまた防犯カメラや目撃者の問題もある。夜でも多くの人間が行き交う大都会ならいざ知らず、少し歩けば田んぼや畑が広がる風景と出会えるこの辺りでは、なかなか犯人の姿を見たという人が現れない。殺人事件解決のセオリーとしては、被害者の関係者から炙り出すことが多いのだが、このような無差別殺人ではあまり効果を発揮しない。


これら諸事情が重なって、未だに犯人が誰かわかっていない。地元の人間ならば誰もが知っているその当り前の事実を昭人は何回も何回も、反芻するかのように見つめなおした。


 昭人はPC画面から目を離し、小さくため息を漏らす。ふと壁にかけられた時計へと目を向けると、すでに閉館間近の時刻だった。昭人は目頭を抑えながら、結局新しい情報は得られなかったなとつぶやく。退館を求めるアナウンスに従い、昭人は図書館の外に出る。陽はまだ沈みきっておらず、辺りはまだ明るい。せっかく街の中心まで来たのだから本屋にで立ち寄ろうと、昭人は歩いて街の大通りへと向かう。

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