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「あの事件?」
新藤が何を言っているのか見当がつかず、昭人は思わず眉を顰める。新藤が自分が中学一年の時に遭遇した連続殺人事件のことを言っているのだと気が付くと、昭人はさらに顔をしかめた。自分でも忘れていたい記憶であるにもかかわらず、どうして今さらその事件を蒸し返すのか、昭人には新藤の神経が理解できなかった。
「結局殺人犯はいまだに捕まっていない。あの事件が連続殺人犯の仕業なのか、それともそれを利用した別の事件なのか。それすらも公表されないまま。これじゃ被害者の子も報われないね」
新藤は感慨深げにそうつぶやく。今まであまり関心を持っているとは思っていなかった新藤の態度が気になり、いきなりどうしたのかと昭人は尋ねる。新藤は「別に理由なんてないさ。ただ不意に気になったというだけで、それ以上でもそれ以下でもないんだよ」と本心をひた隠しにするような笑い声を浮かべた。
「新藤さんがこういう俗っぽい都市伝説なんか気にしてるってのが意外だな」
「僕だって人並みに好奇心を持ってこの事件のことを考えているよ。もちろん、この連続殺人事件に巻き込まれた昭人君ほどではないにしてもね」
昭人は首をふった。
「だから、さっき新藤さんも言ってたじゃん。濱野を殺したのは、本当にあの連続殺人犯だったのかどうかわからないってさ」
「いや、その事件も連続殺人事件の一部だよ」
新藤の断言に昭人は少しだけ驚く。というのも、昭人をはじめ、周りの人間は誰もが、あの事件だけは連続殺人犯の仕業ではないと考えているからだった。この事件は他の事件とは少しばかりケースが異なる。被害者は中学生だし、なにより、連続殺人事件において最も印象的な、二人同時に殺されるという特徴が欠けている。共通点と言えば、被害者が刃物によってめった刺しにされていること。ただし、それも強烈な悪意を抱いていれば、自ずと同じような殺害の仕方になるのではないかと推測されていた。
この事件を皮切りに犯人の手口が変わったのかというとそうでもない。昭人が遭遇した事件の一年半後。今までの事件と全く同じように、下校中の小学生二人が犯人の毒牙にかかり、その可能性に満ちた未来を奪われている。
「やっぱりおかしくないか。濱野の事件だけが他の事件とはやっぱり違うし。違う人間がやったんじゃないかって思うけど」
「ま、僕だって確証があって言っているわけではないさ。でも、ただ昭人君の同級生も、同じ人間に殺されたんじゃないかって感じるのさ」
昭人はなおも自分の意見を変えない新藤に食って掛かる。
「じゃあ、なに? 濱野の時だけ、犯人はいつもとはちょっと違うことをしてみようって考えたってわけ?」
新藤は昭人の挑戦的な態度にただ愉快そうに笑うだけだった。その余裕差が昭人を少しばかり苛立たせた。
「違うよ。犯人はそんなやつじゃない。犯罪者にこう言う言葉を使うのはどうかと思うけど、ちゃんと筋は通しているさ」
「じゃあ、なんで……」
しかし、昭人の言葉を覆いかぶせるようにして、新藤は昭人に提案を持ちかけた。
「今度の土曜日にでもさ、町に出て、犯人が何を考えていたかを一緒に考えてみないかい?」




