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弦巻の言葉に柊が驚きの声をあげる。
「珍しいですね。新藤さんが俗世間の出来事に意見を述べるなんて」
そして、少しだけ顔をうつむかせながら言葉を継いだ。
「私とは全然そんな話してくれないのに……」
「いやいや、雑談の流れでそういう話になっただけだよ。なにせあんまり喋り相手が少ないからさ、最近よく新藤くんと退屈しのぎに喋ることが多くてね。柊ちゃんの時間を減らさないようには気を付けてるから許してよ」
弦巻がにやにやと笑い、ぎこちないウィンクをしてみせる。柊は「やめてください」と頬をうっすらと赤らめながら抗議の声をあげる。弦巻は柊のそんな反応を笑いながら、新藤への用事を思い出したと言いながら部屋の外へと出ていった。
「なんで弦巻さんってあんなに人をおちょくるのが好きなんだろうね」
柊は気恥ずかしさをごまかすように昭人に微笑みかける。昭人はどのような表情を浮かべたらよいか少しだけ迷った後、先ほど同じような愛想笑いを浮かべる。柊はすくっと立ち上がり、壁際に置かれた収納棚へと近づいて行った。収納棚の上にはコップなどの小物が乱雑に置かれており、そのさらに端っこに赤いポスト型の貯金箱が立っていた。柊は愛おしそうにその貯金箱を持ち上げ、何気なしに左右に振ってみる。小銭と小銭が擦れあう鈍い音がし、貯金箱には相当数の小銭が蓄えられていることが伺われた。
「貯金ってまだ続いてたんだ」
昭人が感慨深げにつぶやくと、柊も小さく微笑み、胸元のポケットに入れていた財布から百円玉を一枚だけ取り出す。柊はそれをゆっくりと貯金箱の入り口に投入する。
「ほら、昭人も協力しなきゃ」
柊に促され、昭人も立ち上がった。そして、ポケットに入れていた財布を取り出そうとした時、ふと柊が昭人に問いかける。
「そういえばだけどさ」
「なに?」
昭人がきょとんとした表情で柊の方を見る。
「これって、誰が何のために始めたんだっけ?」
柊の質問に昭人は呆れた表情を浮かべながらため息をついた。
「何言ってんだよ、柊」
昭人も財布から五百円玉を取り出し、真一文字に切り抜かれた入り口に硬貨を入れる。硬貨が吸い込まれ、空虚な金属音が寂しげに部屋の中を反響した。
「一万円貯めて盛大な花火をやろうってさ、俺が提案したんじゃん」