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そのまま昭人は黙り込んでしまう。二人は無言のまま歩き続けた。学校から住宅街を抜け、左手に畑が広がる小道に入る。大きな道路から外れた道に歩く人はおろか、トラックや車が通ることもない。いつもはうるさいとさえ感じる虫の声もなぜか今日だけはまったく聞こえてこない。静寂。その表現がぴったりと当てはまるほどに辺りは静まり返ってきた。
気まずい空気のまま、十字路に差し掛かる。昭人の家はそのまま直進したところにあり、羽田の家は確か右折したところにある。昭人も別れの挨拶なしに羽田は右に曲がるだろうと考えていた。しかし、昭人の予想に反し、羽田は曲がる気配すら見せずにぴったりと昭人の横を歩いて行く。
「おい、お前の家ってあっちじゃ……」
「黙って歩いて」
先ほどまでの不機嫌な様子が嘘であるかような切迫した口調だった。昭人はただならぬものを感じ取り、ゆっくりと羽田と並んで歩く。日はすっかり暮れ、月に照らされた紫雲が不気味に漂っている。相変わらず辺りは静けさに包まれた。耳を澄ますと、時折風に吹かれて葉がこすれる音に混じり、隣にいる羽田の荒い息を感じ取ることができるほどだった。しかし、その重たい沈黙の中。昭人の耳に、後方からかすかな足音が聞こえてきた。
「つけられてる」
羽田は小さな声でそうつぶやいた。つけられている? そんな馬鹿な。しかし、いつになく怯えきった羽田の姿を見ると、彼女の不安が感染したかのように昭人の身体中に悪寒が走った。羽田は突然、昭人の腕をつかんだ。柔らかい肌と温もりよりも先に、羽田の震えが昭人に伝わってくる。
「大丈夫だって、自意識過剰になってるだけだって。ほら、ちゃんと家の前まで送ってくからさ」
しかし、羽田の震えは治まらない。見慣れたはずの帰り道は、まるで初めて通る道であるかのように二人には思われる。暗い。そして、静かだ。昭人の額から冷たい汗が噴き出し、頬をなぞるようにして顎へと伝っていく。
「ねえ、田辺」
羽田が昭人に話しかける。昭人には羽田が言おうとしていることがわかった。それでも、羽田は深い沼に昭人を引きずりこもうとするかのような残酷さで、言葉を継いだ。
「私たち今、二人っきりだよ?」