ダブリュード・閑話
少女は、花開くように微笑み、小さく青年に話しかけた。
「おいトーヘンボク。ついてくるな」
鈴を鳴らすような声なのに、言葉尻は口の悪い男そのものだ。青年は即座に言い返す。
「……放っておけるか! お前の毒牙にかかる男を減らすんだ俺はっ!」
「きゃあ怖い。すみません、この人がずっとつきまとっているんです、助けてください」
可憐な少女が口にした言葉に、青年は青ざめた。
「人聞きの悪いこというなよっ!? っていうかなんでリィリーのままなんだっ! 月のものは終わったんだろ! さっさとオウマになれよっ!?」
「やだこの人。人前で月のものの話するなんて、変態」
至極冷静に冷めた目で見られて、青年は更に青くなる。自分が口にした言葉がちょっと人前では言えないようなことだと気がついたようだ。
実際、周囲からちらほらと『なんだあいつ』『変態? 強引なナンパか?』と言いたげな視線が感じられる。一緒にいる相手がとんでもない美少女なものだから、余計に。
真人間としては、あわてる状況である。
「ち、違う! お前がさっさとオウマになればそれで済む話だろ!?」
「何のこといってるのか判らないわ。あなた頭大丈夫?」
「……」
とうとう青年は肩を落とした。泣き出しそうな声でつぶやく。
「……判った……昼飯おごるから……頼むから同行させてくださいリィリーさん……」
「えー? これから先の宿代とご飯代もつくなら考えてもいいけど。あ、デザートも」
「鬼かお前はぁっ!!」
「いやーん、この人こわーい」
「……スミマセン、お願いですから同行サセテクダサイ……」
小さく舌を出してから叫ぼうとした彼女に、内心で涙しながら、青年は謝り倒した。
少女はふん、と鼻を鳴らして、青年から視線を逸らした。小さく囁くように宣言する。
「つきまといの変態と叫ばれたくなけりゃ、おとなしくオゴり続けろ。てめえがついてくるせいで馬鹿な男にメシ奢ってもらえなくなるんだからな」
「……ううう」
呻く青年に少女は背中を向けて歩き出した。おとなしくついてくる気配を感じて、内心でため息をつく。気楽な一人旅に戻れる日は当分先になりそうだ。
犠牲者を減らすと言いながら、率先して自ら犠牲になっていると青年が気付く日は来るのだろうか。
続編考え中です。