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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

思いと想い

作者: くぼたあつ

とっても短いです。

百合小説なのでお気を付けください。

 「私はどうして今、会社に居るのだろう?」 

 

 別におかしいことは何もない。部長に仕事を一つどうしてもと頼まれたので断り切れずに受けてしまったから。そしてその仕事が終わってないから誰も居ない暗く静まり返ったオフィスで一人パソコンの画面に向かっているだけ。

 そう、なにもおかしくない。座ったまま全然仕事は進まないだけ。


 今日が私の誕生日という事を除いて。


 どうしてこういう日に限って頼まれちゃうのだろう。そして断り切れない私。

 やっぱり今日は休むべきだった。こういう日は仕事をしないで家の中でじっとするものなの。そうすれば悪いことなんて起こらない。

 別に良いことなんて起こらなくてもいい。悪いことさえ起きなければいいんだし。

 そんなことを考えながら思いっきり椅子にもたれかかって背伸びをする。

 背伸びする度に私の頭の中には同じ顔が浮かぶ。


 誕生日なんだから電話くらいくれてもいいのに。心想(しおん)のバカ。


 私には誕生日を祝ってくれる関係の女の子が居る。あまりオープンにはできない関係なんだけど。

 そういえば私たちってどうしてそんな関係になったのかな? あぁ頭の中でまた思いが脱線した。現実という名の仕事を終わらせないといけないのだけれど、今日はもうどうでもよくなってる。


 私は心想に会いたいのに。心想は私に会いたくないのかな? 私の声を聴きたくないのかな? せめてメールでも元気出るのに。せめて電話で頑張ってって励ましてもらいたい。そうしたら頑張れるかも。


 私は一人で心想のことを想い苦しくなってしまう。


 私たちがこういう関係になるときは心想が苦しんでいたっけ? そんな時クラスメイトで特に仲が良かった結衣(ゆい)が私たちをくっつけてくれたんだよね。なんだかすごく懐かしい。そんなことを思い出してきてなんだかすごく恥ずかしくなってきた。

 学生時代のことを思い出しているとデスクの上に置いていた携帯電話が震え始めた。

 私の体は瞬時に反応して椅子から起き上がり携帯電話を手に取った。ディスプレイに表示される名前を確認する。


『結衣』


 私の心がガッカリしてるのが分かった。

 理由は簡単。心想じゃないから。

 私はひとつ深呼吸をして携帯電話のディスプレイを指でスライドする。


「おっそーい! 心想じゃなくてガッカリした? 残念。私は結衣でしたー」

「急に電話なんてどうしたの?」

 私は精一杯普段通りに喋ることに集中する。結衣は鋭いから私がガッカリしてるのがわかったらおちょくられちゃうし。結衣のこと思い出してるタイミングで結衣から電話でちょっと焦ってるし。

「どしたの? じゃないでしょ。思寧(ことね)今日誕生日じゃん!」

「ありがと」

「あからさまにガッカリしすぎ。もうちょっと嘘でも相手してよー。まぁそれはしょうがないとして、仕事忙しいの?」

「部長からの誕生日プレゼント。まぁ部長は私の誕生日知らないけどね。ははは」

 精一杯強がって笑って見せたけどきっと色々バレてる。


「そっかー。じゃあ仕方ないなぁ」


 結衣がそう言って電話の向こう側で何だかやり取りしてる様子が聞こえる。もう一人誰かいる。

 その声がかすかに聞こえて私の心臓が跳ねた。そして速くなる鼓動。


「何々? 今更恥ずかしがってるの? ってちょっと!」

 

 何が何だかわからないまま結衣との電話が切れてしまった。

 でも間違いない。心想だ。

 でもどうして心想が結衣と一緒に居るの?

 私の頭と心がパニックの状態の中、握りしめていた携帯電話が震えた。慌てて画面を見るとメッセージが届いていた。

 心想からだ。


『コトネは私の声を聴きたかったのかな? 聴きたかったよね? 長年一緒に居るからコトネは多分そう思ってるんじゃないかな? 私もコトネと喋りたいけどね。私は声だけじゃ満足できないから。早くお仕事終わらせてお誕生日パーティしよ。結衣も一緒に準備手伝ってくれたんだよ。0時過ぎて日付が変わってもコトネの誕生日パーティはするから。何時でも待ってるから。私は早くコトネに会いたいの』


 心想にはかなわないな。私だって声だけじゃ満足できないよ。でも声だけでも聴きたかったって思う私も居るわけで。


 そんなことを考えてたらまた握りしめたままの携帯電話が震えている。メッセージと思ってディスプレイを確認すると電話だ。

 ディスプレイの結衣の文字を指でスライドして通話にする。


「もっしもーし。心想からの愛のメッセージ届いた? めっちゃ打つの早かったよ。きゃー」

「何やってんの二人で」

 電話の向こうが騒がしい。

「心想は思寧の声聞いたら我慢できなくなるんだってー! 私は途中で帰るから大丈夫だよー。早く仕事終わらせて帰ってこないと家の中がどんどん恥ずかしいことに、ぎゃーーーー」

「何言ってんのよ結衣ーーーー!」

 早く仕事終わらせて帰んないと! 心想の声も聴けたけど私もやっぱり声だけじゃ満足できない。

 一気に仕事片付けよう! そしてお誕生日を心想と結衣にたっぷり祝ってもらうんだ!

 それに早く帰らないと家が大変なことになっちゃいそうだしね。 

読んでいただいてありがとうございます。

書くという事からかなり間があいてしまったのでリハビリに短い物語を好きなシチュエーションで書いてみました。

本当に短いですが楽しんでいただけていればうれしいです。

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