菜のは
其処は妖精たちの住むフェアリーアイランド。綺麗な広々とした澄みきった空と湖と、美しい花々に草木が生い茂る緑豊かな楽園。妖精王オベロンと女王ティターニアが統治する平和な国でありました。さてこの国には、4つのエレメントがそれぞれに支配する領域がありました。火の妖精サラマンダー。水の妖精ウンディーネ。風の妖精シーフ。土の妖精ドワーフ。それぞれにエレメントごとの指輪を持っておりました。この指輪があれば、それぞれのエレメントを操ることのできる指輪でした。オベロンには3人の息子がおりました。長男カベロン、次男キベロン、三男クベロンといいました。カベロンは財を扱うことが得意で、ドワーフと仲良しでした。次男は姿形がよくウンディーネに好かれていました。三男は全てに秀でており賢く、サラマンダーが最もひいきにしていました。さて妖精の国の風のエレメントに、それはそれは美しい人間の娘がすんでいました。娘の名は菜のはといい、訳あってシーフが育てておりました。菜のはは魔法でフェアリーサイズになっていました。年に数回エレメント達は、王のすんでいる城へあつまっていました。菜のはも一緒につれていってもらい、王の息子達とは仲良しでした。何年目かの集まりのとき、菜のはの美しさに虜になっていることに、息子達は気づきました。その事に気づいたエレメント達は、それぞれがひいきする王子に幸せになってほしいと思いました。ただ1人のエレメントを除いて…。まずドワーフはカベロン王子に自分達の秘宝とも言うべき、珠を渡すようにしむけました。人間ははこれを非常に喜ぶはずだ。菜のはありがとうございますと言って、ひとまずはうけとりました。次に厄介な次男の番になりました。なぜ厄介なのか?それはウンディーネが嫉妬してしまったからでした。妖精国では美しさの上位にいるウンディーネにとって、娘の美しさも、王子に好意を持たれていることも、納得のいかないことでした。ウンディーネは魔法でキベロンを虜にし、自分の領地につれていき、娘を誰の目にも届かない湖の底の地下深くに閉じ込めてしまいました。さてそれを知ったシーフは真っ先に娘を助け出そうとしました。しかしながらエレメント同士の争いは何よりも禁止されていました。国事態がただではすまないからです。けれどもシーフは娘のことが心配で気が気ではありません。まずオベロン王に相談に行きました。オベロン王も息子のことで、悩んでいました。エレメントに関しては、迂闊には手が出せなかったからです。考えに考えたあげく、仕方なく王妃ティターニアに相談することにしました。女性のことはこの国一番の女性に相談するのが一番だと思ったからです。ティターニアは息子のことに関して、ウンディーネには大層幻滅いたしておりました。国のなかでも、最もよく親しくしており、大変好意をもっていただけに、この度の事件は、王妃の心に深い傷を帯びたものでした。けれども息子は助け出さねばなりません。王妃は意を決して、残った二人の王子に、キベロン救出の命を出しました。勿論ティターニアには、ウンディーネの敷地は自分の庭位に把握しておりました。王子に地図を渡し、何ヵ所かもある抜け道もおしえました。それからあらゆる魔法を無効にする粉薬も渡しました。所変わってこちらはウンディーネのいる湖。中には捕らわれたキベロン王子が城の中にいました。長いまつげに、純粋な褐色の瞳。茶色がかった漆黒の長い髪、背は妖精国の中ではスラッと高く、背中の羽は王族の中でも、特に美しく、多分にティターニアの容姿を受け継いでいるようでした。その姿をそばにいたウンディーネはうっとりとしながら、眺めていました。(ホホホ、とうとうわたくしのものとなった、あの娘さえ現れなければ、こんな強引なことなど、しなかったであろうに。本来であれば、ゆっくり心を通いあわせるはずであった。あの娘さえ現れねば)ー菜のはが来たのは、おおよそ15年位前のことでした。シーフが自分の娘として人間界の何処からか連れてきたのでした。しかし公にはそうなっていますが、実は連れてきたのはオベロン王でした。オベロン王がまだティターニアと結婚する前、あちこちを王国の用事で飛び回っていた頃、人間界にもたちよっていました。少々疲れきっていたその時、ふと目にした明るい笑顔に心奪われてしまいました。笑顔の主は、菜の花といいました。名前の通り春に辺り一面を明るくする菜の花そっくりの笑顔でした。それからというもの、その笑顔を見たいがため度々人間界にやって来ては、疲れをとっていました。菜の花にはすでに婚約者がいました。その人間にしてはあまりにも麗しい婚約者に、王はかなわないものを感じ、二人を密かに見守っていました。やがて子供が生まれ、王自身も結婚することになりました。王はティターニアを心より愛しまた、尊敬しました。それからは菜の花のことも忘れ、妖精国での仕事に専念し、王妃を大事に扱いました。何百年かたったある日のこと 、妖精国を見回っていたとき、ふと一面に咲いていた菜の花が目にとまりました。王は笑顔を思いだし、どんな様子か気になり、いってみることにしました。当然月日は過ぎており、菜の花はいませんでした。菜の花の子孫の菜のよがいました。菜の花とは似てもにつかぬ風貌でした。菜のよは腕に赤ん坊を抱いていました。おそらく自分の子供でしょうか。寺院の前にその子を置き、何処へともなく、立ち去っていきました。菜のはをよろしくと文が添えてありました。一体どうした事情があるのか、見過ごせなく思い、赤ん坊を拾い上げ、そのまま妖精国に連れて帰ってしまいました。しかしどうしたものか。自分には家族があり、王妃のてまえ、引き取るわけにはいきません。やむなく王はエレメントに相談することにきめました。四人のなかで秘密を守ってくれそうな妖精といえば、臨機応変なシーフです。すぐ密かにシーフの所へ行き、秘密りに預かってもらえないか、談判しました。勿論シーフとしてみれば、王の頼みといえど煩わしいことにかかわるのは、ごめんこうむりました。どうやって断ろうか思案しながら、赤ん坊の顔をのぞきこみました。赤ん坊はシーフの顔を観たとたん無邪気ににこーと笑ったように感じました。(うーん、この子は賢い子だわ)結局引き取ることにしました。皆には自分が拾ってきたことにして。こうして、菜のはシーフの元に引き取られた訳です。さて、王子たちの様子は、どうなっているでしょうか? カベロン王子とクベロン王子は共にウンディーネの住む湖の近くまでやって来ました。ところが、肝心の入口がわかりません。ウンディーネが霧の魔法で入口を覆っていたのでした。そうとは知らない二人は、ウンディーネの城の入口を必死に探しました。そのうち末のクベロン王子が魔法のせいかもしれないと、ようやく気づきました。そこで早速魔法を無効にする粉薬を少しつかいました。すると湖の表面に、入口らしきものが、現れました。「よーし、やったー。」二人は入っていきました。さて、こちらは囚われの菜のはサイド。地下深くに幽閉された菜のはの目の前の先に、ウンディーネとキベロン王子がいました。二人は菜のはの目に入るように、情熱的なキスをしていました。それを見た途端、菜のはの胸に何とも言えぬ脱落と、別に遠い思い出が甦りました。それは菜のはが10歳位の頃、オベロン王のお城に招かれた時のこと、三人の王子と遊び疲れて、暖かい午後の草むらの中で、眠ってしまった時のことでした。ふと起きる前の、まどろみ状態の時のことです。何とキベロン王子が口づけをしていました。ビックリしましたが、まどろみ状態で力も入らず、ずっとそのままでいました。王子は愛しい者を抱きしめるように、甘く優しく口づけした後、立ち去っていきました。勿論菜のはの目が覚めていたとは、気づかずに。あの日以来、菜のはの心には、キベロン王子の姿が宿り、同時に最近では、何とも言えぬ、炎のようなものを、感じるのでした。菜のはは、キベロン王子に恋をしてしまったのです。なので目の前の出来事は菜のはにとって、とてもつらいことでした。(ウンディーネさんはとても綺麗ですもの。王子が惹かれるのも、無理はないわ)まさか魔法で操られているとは夢にも思わず、二人を心の中で祝福しているのでした。(これを知らせたいがために、私をここまで連れてきたのね)まさか自分が、監禁されているとは、夢にも思っていませんでした。と、ウンディーネは何かしら急用らしく上に上がっていき、キベロン王子1人残りました。王子は誰かいることに気づき、ちかづいていきました。さて、こちらは二人の王子の様子。王子達が入って来たことに気づいたウンディーネは、慌てて上の階に上りました。地下深くでは、魔法が使えなかったからです。二人と対面したウンディーネは、早速幾つかの魔法で二人を困らせました。が、二人には、魔法を無効にする粉薬があったので、一つ一つの魔法に対し、粉を使っては、対処していました。が、粉もきれ、とうとう二人は、水の塔に入れられてしまいました。「ふん、造作もないことじゃ」二人は意識のないまま、永遠の水のなかで、眠ってしまったのでした。さて、菜のはサイド。菜のはの元にキベロン王子が来ていました。「君は菜のはではないかい。また、どうしてこんなところに?」菜のはどうして答えてよいかわからず、ただひとことおめでとう♪と答えるのが精一杯でした。と、同時にとめどもなく、涙が溢れてきました。「菜のは、どうして泣くんだい」王子は妹をあやめるように、菜のはにキスをしました。その途端、王子は全ての真実を思い出し、菜のはに、激しいキスをしました。菜のはも返し、二人は両思いであることを知りました。「さあ、王国へ帰ろう」菜のははシーフより、瞬間移動のできる、羽をもらっていました。その羽を使い、あっという間に、王国に帰ってきました。オベロン王の城では、キベロン王子の帰国に城中の者が皆、悦びいさんでした。と、同時に、探しにいった二人の王子がとても心配でした。「皆さん心配なさらずとも、二人をつれてすぐに戻って参ります」キベロン王子はそう言うと、菜のはと共に羽で、あっという間に二人の王子を連れ帰りました。王子達はしばらくの間、意識がありませんでしたが、やがて王国の自然のもとで、目をさましました。と同時に、菜のはとキベロン王子とが、愛し合う中になったことを知り、落胆すると共に、祝福の言葉をかけました。こうしてオベロン王の片思いは息子キベロン王子の代で、成就することとなりました。めでたし、めでたし。ーウンディーネといえば、傷心のために、数百年の間、自分の城にこもっていました。




