おーくたんとようじょさん、にがつのみっか
「おーくたん、こちらにいらっしゃい」
「はいはい、今行きますよ。ようじょさん」
「はいはいっかいでいいのよ」
「はいはい」
幼い女の子と豚の顔に似た面を持つ男は一つの樽を挟み向かい合っている。
男の頭には木の枝を紐でくくった物が耳の上にあてられ固定されている。
まるで牡鹿の角のように見えた。
「では参りますか」
「おー」
男の声に女の子は、その体の縦も横も軽く超えた大きさを持つ土筆の先を振り上げた。その顔には輝くような笑みが浮かんでいる。
つま先で立ち背伸びして手を伸ばした女の子は土筆を持たない手で樽の中身を鷲掴む。その手からポロポロと落ちていく粒はそのまま地に転がった。
次の男が樽の中身を鷲掴む。その手から溢れる粒はなかった。
見つめ合う二人。
先に動いたのは、にまにまむにゅむにゅと口元を動かしていた女の子だった。
「えいっ」
掛け声とともに男に手から豆と土筆が放たれた。
バラバラと豆をふくよかな腹に受けながら樽の向こう、女の子の方へと男は歩み寄る。
「きゃぁーきゃははっはっ」
「ほっほっほぉっつ」
きゃーきゃー声を上げながら女の子は逃げ回る。女の子の頭から豆を降らしながら歩みを進めていた男だが、飛び上がるとつま先で歩き出した。
つま先立ちで腰が引けた男は楽しげな声を上げる女の子と追いかけっこを随分長い間続けていた。
時折、
「ふごっ」
と奇声をあげて飛び上がる男の姿に女の子の笑い声は高まった。