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03、腐食の沼地

 背の高い少女が青い顔をして沼の間の細い道を走ってくる。

するとそれに釣られたのだろう沼地から複数の人影が立ちあがり、あるモノは緩慢に、またあるモノはギクシャクと少女を追い始めた。その数が10体を数えた頃、背の高い少女ことアーサーが俺たちの元へと戻ってきた。


「ひー、助けてー!」

「よーし、よくやった。後は任せて」


 ほぼ泣いているアーサーを気にせずセリーヌは嬉しそうに杖を構えた。そして詠唱と共にその杖の先から光の線が走り魔法陣を描き出す。


「燃え尽きちゃえ! フレイムストライクッ!」


 火属性貫通攻撃系黒魔術フレイムストライクは魔法陣から現れた一抱えほどもある火炎球を直線状に打ち出して触れるものを焼き尽くす攻撃魔術だ。その威力は使うものにもよるがセリーヌの火炎球は火に弱い下級アンデットであるゾンビやスケルトンをほぼ一撃で仕留めていく。アンデット達はアーサーの後を追ってきていた為にほぼ直線状に並んでおり、生き残りはわずか2体。


「リーン、残りはお願い」

「了解」


 俺はその2体めがけて予め用意しておいた神希魔法による光の弾丸を次々に射ち放つ。


「ディバインブリット!」


 神聖属性誘導攻撃系神希魔法ディバインブリットによって作られた4発の光の弾丸はカーブを描きながら空を裂き、生き残っていた2体のスケルトンの頭部と胸部をそれぞれに砕き、動いているアンデットはいなくなった。

 アーサーの釣ってきた敵はすべて倒したはずだが、念のため周囲を慎重に探り安全を確認してから、3人で手分けして崩れ去ったアンデット達の身体の変わりに残った魔結晶を拾い集めた。


「いやーん、大漁大漁♪」

「もうっ、大漁じゃないよ! 何度やっても怖いんだからね!」

「アーサーなら大丈夫! 私は信じてるよ!」

「嬉しくない!」


 カイラス西門から出発し大森林の淵にそうように走っている馬車に乗ること30分、そこから徒歩で30分ほど森の奥へと入って、この場に到着してからはおよそ1時間。短い休憩挟みながらもすでに3回同じことを繰り返しているので、集めた魔結晶は40個を超える。この程度のアンデットが落とす魔結晶1個が平均3銀貨になるらしいので、合計で120銀貨になるわけだ。俺の感覚からすると1銀貨は千円程度の価値がある。つまりおよそ1時間で12万円、一人頭でも4万円。セリーヌが浮かれるのもわかる話だ。アーサーだって文句は言っているものの、その顔には笑みが浮かんでいる。


「しかし、ここまで安定していると俺がいる必要はあんまりないんじゃないか?」


 俺は現在16歳で2人は18歳、実際の年齢でも冒険者としての経験でも先輩の2人と初めは敬語で話していたのだが、敬語は必要ないという2人に合わせ、今ではため口で話させてもらっている。とはいえ実際、二人の実力はかなりのものに思えた。

 アーサーは足場の悪い沼地でそれを感じさせない軽快な動きを見せ。時折進路上を出てくる敵も一撃を加えつつ上手くかわして俺たちの待つこの場に誘導してくる。その動きに迷いはなく一瞬ごとの判断は素早く的確だ。

 セリーヌは黒魔術の実力があるのは勿論だし、作戦を立てるのが上手い。この辺りは沼地とは言っても地面が湿っている程度の場所とそれなりの深さがある場所が点在しているのだが、予め地形を把握していたのだろう。貫通魔法によって敵を殲滅出来るよう上手く木々が生えている場所へ陣取ると木々に延焼しないように水属性基本黒魔術アクアで生み出した水を掛けて回り、その後は今見た通りだ。

 それぞれの役割をしっかりと果たしている良いコンビに思えた。


「そんなことないよっ、安心力が違うから」

「それを言うなら安心感でしょ。まあ、でもアーサーの言うとおりなの。しっかり下調べはしてるからね、順調にいけばこのぐらいの浅い場所なら2人でもなんとかなる。だけど、万が一を考えるとなかなか腐食の沼地は難しいの」

「グールが出たら麻痺毒に注意しなきゃいけないし、ゴーストとかレイスの非実体系が出たら剣しか使えないアタシは役立たず、セリーヌの黒魔術でも一撃とはいかないしね」

「その点、神希魔法がしっかり使える人がいれば麻痺に毒、呪いにも対応できるし、非実体系の相手は魔術師よりも得意でしょ?」

「まあそうだな。今言ったことには全部対応できる」

「その辺を恐れないですむから私たちものびのびと全力で動けるわけ」

「つまり安心力ってこと」

「だから安心感だってば」


 楽しげに言い合いを続ける二人を眺めつつそんなものかと納得する。実はパーティを組むのは初めてなのでそれなりに緊張していたのだが、事前にしっかりと打ち合わせを行い、作戦を立ててから事に挑む。その中で単純な戦力や技能だけではなく、精神的なつながりや安定はそれなりに重要なものなのかもしれない。俺だけは即席メンバーなわけだが、二人の息の合った動きを見ていると俺自身も安心して動けるのが自覚できているので、なおさらそう思った。

 初めてパーティを組む相手としてかなり恵まれたな、俺は目の前の二人とついでにラージャに感謝する。


「さて、それじゃ一休みしたらそろそろもうちょっと奥に行ってみる?」

「このまま続けないの?」

「初めの2回に比べると今のはだいぶ釣れる数も減ってきたしね、この辺りに潜んでいる奴はだいぶ減ったと思う」

「というか、もう十分狩ったともいえるんじゃないか?」


 すでに40体以上を倒したわけで、ここら一帯にこれだけのアンデットがいたこと自体が驚きだと言うと二人は勿論だと頷いた。


「普段からこんなにいたんじゃあっという間に森から溢れだしてきちゃう」

「最近この辺を狩り場にしてる人たちも減ってたから、いつもに比べてだいぶ数は多かったよ。ま、おかげで稼げたし、後はもうちょっと奥に行ってどうなっているのかを様子見したら帰っても良いんじゃない? リーンはどう思う?」

「俺もそれで構わない。新人冒険者としては先輩の判断に従うよ」

「ありがと。それじゃもうちょっと休んだら行ってみようか」

「おー!」

「ちょっと、こんなとこで大声出すんじゃないわよ、ほんとアホね」

「景気づけでしょ! てか、アホっていうほうがアホなんだからね!」


 そうして楽しそうにじゃれ合う二人と共に休憩をとった後、俺たちは森の奥へと進んでいった。


次回は二日後になるかもしれません。

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