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人狼シリーズ

レジェンド ~あるアンドロイドの伝説~

作者: 霧島雅狼

みずき海斗さんからのリクエストです♪

 ……ザクッ、ザクッ。


 彼は、雪の大地を歩いていた。

 少しボロいが、足にはブーツを履き、完全に防寒具にその身を包んだその頭部は……――……人間では無い。


 ……彼の頭は、藍色と白の獣毛に覆われ、スラッとしたマズル、金色の瞳を持つ――、彼の頭は、狼そのものであった。



 「……吹雪いて来たな……、早めに山を越えないと。」



 その狼はそう呟き、雪の上にまた足跡を作る。


 ――……その時、狼は前方に人影を見た。


 ――病的な程白い肌、短めの吹雪になびく金色の髪、白いワンピースから覗く細い腕―――美少女、彼女を一言で形容するなら正にその言葉に尽きた。


 彼女は感情の無い蒼い色の瞳で狼を見つめる。




 狼は彼女に近づき、



 「……だ、大丈夫ですか?」



 と聞く、すると彼女は、



 「……何が?」



 と聞いてきた。狼は、



 「……いや、寒いでしょ?」



 と言う、すると少女は、



 「……サムイ?、……分からないわ。」



 と言った。





・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・





 「……あ、アンドロイド?」



 狼は口をポカンと開き、少女を見つめていた。


 ……今、狼と少女は先程まで居た雪山の地下にあるかつての国連軍新型兵器研究所に居る。


 電気は発電装置を少女が動かしたのか、二人が居る広い部屋で、所々蛍光灯が付いていた。


 彼女は、



 「……そう、私は正式名称、『ANDOROID UN MODER Gー8ー990-100 PROTO-TI PE』。……戦闘用アンドロイド『Gシリーズ』の実験試作機よ。」



 と、感情の無い声で言った。


 狼は信じられ無かったが……、彼女の左足を見ると、人工皮膚が破けており、そこから中の銀色に輝く骨格が覗いていた。


 ……そして、生き物の匂いが彼女からはしないのだ。






 ――狼は、親が居なかった。


 いや、正確に言うと親は、核汚染により死んだ。


 ――彼の身体は、全身を獣毛に覆われているし、尻尾もある。―――しかし彼は、人間なのだ。


 第四次世界対戦―――、そこで使用された新型の核兵器は世界の99.95%もの人類を滅ぼした。

 そしてそんな中でも生き残った人間から産まれた子供は放射線汚染により遺伝子は破壊され、それにより子供は全て奇形であった。


  奇形も直ぐに死んだが、唯一生き残った奇形がいた。


 ――……それが、狼である。


 


 狼の両親は彼が産まれてすぐに亡くなった。


 そして狼は、親が遺した戦闘用アンドロイドに育てられた。


 そのアンドロイド――、彼女はとても感情的で、狼に様々な事を教え、彼を育てた。


 ……そして八年前、彼女は壊れた。


 狼は彼女の墓を造った、そしてあてもなく放浪の旅を始めた。


 ――……彼は、世界を見たくなったのだ。



 ……そして、今に至る。


 狼は、そのアンドロイドに、



 「……ねぇ、君には名前とかあるの?」



 と聞く、すると彼女は、



 「……名前?。Gー8ー990-100。」



 と言った。狼は溜め息をつく、そして、



 「……いや、識別番号じゃなくて、名前とか……、無いの?」



 と聞く、すると彼女は、



 「……無くても、問題ないもの。」



 ……そう言った。






・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 「……おはよう!」



 狼はそう彼女に声をかける。

 彼女は、



 「おはよう。」



 そう返事をした。

 狼とアンドロイドが二人で暮らし初めて一ヶ月。

 アンドロイドの左足にあった傷は治っていた。


 ――狼が『人工皮膚接合キット』を倉庫から見つけてきて、治したのだ。


 狼は施設の居住区画に寝泊まりしていた。

 食料は『人工皮膚接合キット』と同じ倉庫に保管されていた保存食を食べている。



 ……アンドロイドは、その二つ隣の部屋を使っていた。


 とは言っても、大体はそこに居るだけなのであるが……。




 ある日、狼は大きめの鞄を持って彼女が居る部屋を訪れた。

 ドアをノックする、すると、



 「……何?」



 そんな声が聞こえた。


 狼は、



 「いや、見てもらいたい物があるから、部屋に入れてくれない?」



 と聞くと、部屋からそっけなく、



 「……鍵、開いてるわ。」



 と言った。そこで狼が扉を開けると……―――そこには、裸で、身体中を濡らした彼女が立っていた。



 「う、ウワァァァァッ!?」



 と叫ぶ。彼女は無表情のまま、



 「皮膚が汚れたから、水で流したの。」



 と言った。狼は顔を真っ赤にして、



 「と、とりあえず身体を拭いて服を着て!。後でまた来るから!」



 と叫んで扉を閉めた。



 ……それから十分後、再び彼女の部屋を訪ねると、彼女はいつもと同じ白いワンピースを着て玄関に立っていた。



 「……えっと、おじゃまします。」



 そう言って部屋に入る狼に向かって彼女は、



 「……どうぞ。」



 と言った。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・




 「……これ、着てみてくれないかな?」



 狼が持ってきた鞄の中には、女性物の衣類が入っていた。

 彼女は渡されたスカートとシャツをじっと見つめた後、



 「……命令なら、そうする。」



 と言った、狼は、



 「……君は、それを着たいの?」



 と聞く、すると彼女は、



 「……私は、意思なんて無い。心なんて無い。……全てはプラグラム。」



 と言い、それから、



 「……私には、いくらでも代わりは居るもの。」



 と言い―――服を脱ぎ出した。



 「ちょっ!?、ちょっと!?」



 狼は手で目を覆いながら彼女にそう言う、すると彼女は、



 「……服、着るの。」



 と言ったので狼は、



 「じゃ、じゃあ僕トイレに居るから着終わったなら呼んで!」



 と言い、トイレに駆け込む。

 それを見つめながら、彼女は、



 「……別に、居てもいいのに。」



 と言った。




・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 「……おお、可愛い……。」



 着終わったと言う彼女の報告があってトイレから出てきた狼は、彼女を見て思わず感嘆の声を漏らした。


 ……とても、似合っていたし、可愛かったのだ。

 彼女はキョトンとしながら、



 「……カワイイ?」



 と言う、狼は笑って、



 「……まぁ、似合ってるって事だよ。」



 と言う。すると彼女は、



 「……そう。


 ところで、毛。あなたの毛、暖かそう……。」



 と言いながら狼の着ているTシャツの胸元からはみ出た胸毛を見つめる。


 狼は微笑みながら、



 「……良かったら、触る?」



 と言った―――次の瞬間。



 「……ふわふわ。」



 彼女は狼に抱きつきながらそう言ったのだ。

 彼女は狼の胸毛に顔を埋める。


 狼は顔を真っ赤にしながら、



 「……えっ、ええ!?」



 と言うと、彼女は、



 「……もふもふ。」



 と言った。






 ―――……そんな生活を二人は続けていた。


 ……そして、半年ほど経ったある日。



 「……僕は、明日ここを出るよ。」



 狼はそう彼女に言った、すると彼女は、



 「……何故?」



 と聞く、すると狼は、



 「もう、食料が無いんだ……。」



 と言った。それから狼は彼女を見つめ、



 「……君にも、一緒に来て欲しい。


 ……君が、人間じゃ無くても良い。僕は君のことが好きだ……。


 だから、来て欲しい。」



 と言ったのだ。

 彼女は狼を見つめ、



 「……ごめんなさい。命令だから、ここを離れることは出来ないの……。」



 と言った。

 心なしか、狼は彼女が泣いている様な気がした。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ――ヒュオォォォォォォ……。



 「う~、寒っ。」



 狼はそう呟きながら雪の上を歩く。


 ――狼はアンドロイドに隠れて出ていった。


 雪の上を歩く。



 シャクシャクと、新雪を踏みしめる度にそんな音が聴こえる。




 ―――……その時、狼は一瞬にして雪に埋もれた。





































 「……え?」



 目の前に、彼女が居た。

 突然雪の中から彼女が顔を出し、その為に狼は驚いて雪の中に転んだのだ。


 彼女は、



 「……ごめんなさい。驚かせてしまって……。」



 と言う、狼は、



 「……いや、え!?。何で!?」



 と聞くと、彼女は、 



 「……あなたと一緒に居たいから、命令違反をした。


 ……私は、ダメなアンドロイド。」



 と言い、俯いた。


 ――そんな彼女を、狼は抱き締めた。


 狼は彼女の頭を撫でながら、



 「……それは、君の意思だよ。


 ……ロボットには、意思は無いんだ。


 君は意思を持ってる……、僕と同じだよ。」



 と言うと、彼女は、



 「……でも、私には、代わりが居るわ。」



 と言うと、狼は彼女に、



 「……僕にとっては、君の代わりは居ないよ。」



 と言うと彼女は顔を上げて狼の顔を見つめる。



 「……嬉しい気持ちの時、どうすればいいの?」



 ……そう、彼女は狼に聞いた。

 狼は笑って、



 「……僕は、嬉しいときは笑うかな。」



 と言うと、彼女は少し困った顔をした後―――彼女は、ぎこちなく微笑んだ。


 狼はそんな彼女の頭を優しく撫で、二人はそのまましばらく抱き合っていた―――。








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― 新着の感想 ―
[良い点] この作品の雰囲気いいですね。 荒涼とした世界に存在する、人にに在らざる者たちの暖かさ。 ちゃんとテーマに沿った「色」と云いますか、舞台を演出するための空気感が文面からしっかりと伝わって…
2014/08/10 18:25 退会済み
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