序章 世界の始まり
簡単な話だ。
この世界には神がいて、それがこの世界を創った。
大地も、空も、木々も、人も、魔物も。
それぞれが何らかの神に愛され生まれてくるのだ。
大地や空はそう思っていないかもしれないが、少なくとも人だけはそう信じていた。
彼らには愛されているという自信があった。
人だけが扱える、クリスタルと呼ばれる結晶がその証拠だ。
人はそれを用いれば、普通では起こすことのできない力を発揮することができた。
何もないところから火を起こし、風を吹かせ、清浄な水を沸かせる。
個人よって得手不得手はあるものの、その超常の力を人間は、「愛されている」という証拠にしてきた。
人は神に感謝し、生きた。
故に、人は争わなかった。
魔物や動物との小競り合いはあった。
が、彼らも髪に愛された存在なのだ、と、人は他の種を殲滅することは無かった。
平和だった。
人間は集い、国を作る。
が、決してその領土を争いはしない。
何故なら、大地は他ならぬ神の創ったもので、自分たちはその上に住むことを許されているという認識があった。だからこそ、多くを望まず、只ひたすらに神に感謝をし、日々を過ごしていた。
そんな世界に、異変が生じ始める。
クリスタルを使えない、または使いこなせない人間が生まれ始めたのだ。
危険だった。それを扱えない、という事は、神に愛されていないということだから。この世のすべてが神に愛されているというのに。
人は彼らのことを咎落ちと呼んだ。
生まれながらに罪を持ち、故に神から愛されない人間。
人は彼らを恐れ、それぞれの街から追放した。
彼らには神から愛されない人間がいる、という事が恐ろしかったのだ。いつか、自分も愛されなくなるのではないかと。
だからこそ、彼らを遠ざけた。
すると、咎落ちの人間はぴたりと生まれなくなった。
やはり我々は正しかった。人々は安堵した。
咎落ちした人間と子を成すと、必ず咎落ちが生まれた。
彼らを許容するものは居なくなった。人が差別を覚えた瞬間でもあった。
咎落ち達は住処を追われ、やがては一つの場所にたどり着く。
彼らの内の一人が言った。
ここに我々だけの国を建てよう、と。
誰からも迫害を受けない、誰からも憎悪の視線で見られない、我々だけの国を。
希望を失いかけていた咎落ちに、一斉に希望の光が灯る。
たとえ神に愛されていなくても、我々は生きていくのだ、と、声を高らかに上げて。
その建国の最中に、一人の男子がこの世に生を受ける。
彼も例外なく、咎落ちだった。
たとえ神に愛されなくても、母親と父親、両方の祝福を受け、その子は生まれた。
父親はその子に名前を付ける。
子どもが元気に、丈夫に育つように願って。
数年後、その名前が恐怖と暴力の象徴になることを、彼らは知る由もない。
そして、神に愛された人間も、愛されなかった人間も、一様に神を信じている。
誰も見たことがない。
誰も話したこともない。
それでも人は、神を信じている。