第七話
広沢さんは、お隣のドアをノックした。
「いきなりすみません。隣に住んでおられる西田さんは、いつも何時頃にお帰りになられます?」
敬一は、近くの土木会社で働いていて、5時過ぎには帰るとのこと。
私たちは、コーポの前で しばらく待っていた。
やがて作業服を来た男性が2階に上がり、敬一の部屋の鍵をあけた。
手入れされていない長髪に不精ヒゲ。落ち込んだ目は力がなく、ゲッソリこけた頬。学生の頃とは全く異なる風貌だが、間違いなく その男性は敬一だと判った。
私たちは急いで敬一を追いかけ、部屋に入ろうとするところで声をかけた。
「敬一だよね?僕だよ、信雄だよ。覚えてるよね?」
敬一は 一瞬、驚いた表情を見せたが、また力のない目に戻り、つぶやくように答えた。
「何の用だ?まあ、上がれや」
敬一の部屋には、家具も家電品もなく、灰皿がわりのビールの空き缶からあふれるタバコの吸い殻。敷きっぱなしの布団。一目で一人暮らしと判断できた。
「私は信雄の上司です。今から話すことは、信じてもらえないでしょうが、最後まで聞いてください。」
着替えをしながらめんどくさそうに広沢さんの話しを聞いていた敬一の態度が、いきなり変わった。
清を残し、お化け屋敷から敬一が逃げ出した時の話しをした時だ。
「あんたら どこでそのことを聞き出したのか知らねえけど、今更どうしようってつもりで 俺に会いに来たんだ?」
声を震わせ、私たちを睨んだ。
「そうだよ。あんたらの言うとおりだ。親や先生に叱られるのが怖くて、黙ってたんだよ。ついでに信雄のせいにしてな。でもよ、あれからろくな目に合わねえんだよ。バチが当たったんだろうな。幽霊の清が祟ってんだろ。あんたらが 今の俺に何を期待してるか知らないが、借金くらいしか出てこねえさ。帰ってくれ。肉体労働で疲れてんだ。たまの土日前くらい、ノンビリさせろや。」
敬一は、私たちを無理矢理 部屋から追い出し、ドアの内鍵をかけた。
ドアをノックしようとする私を広沢さんは制止し、帰ろうと言った。
最寄駅に向かう途中、広沢さんが話しかけた。
「きょうは これ以上食い下がってもマイナスになるだけだ。明日の朝、もう一度 話しをしに伺うことにしよう。それと、お前に確認したいことが いくつかあるしな。」
電車の中で広沢さんが尋ねた。
「清君や中年の男性と話しをしたビルの部屋だけど、その二人意外に誰かいなかったか?」
「そういえば、奥のほうから別の話し声が聞こえたような気がしました。女性と男性だったと思います。姿を見たわけではないですが。」
「それから、説明をした男性が言っていた、もとの世界に戻るのにパワーが足らないという話しだけど。そのことで他に何か聞いていないか?」
「もとの世界に置いてきてしまった大切な物。そこに戻るためのパワーが眠っているとか、言ってました。」
「お前、記念メダルに付いてる星のこと、言ってたよな。清君と敬一君の星に別々の色が現れたって。実は、俺も持ってるんだ。ペンダントだけど、赤く変色してるんだ。」
「どういうことですか?何故 広沢さんが持ってるんですか?」
「俺の恋人も突然、行方不明になって、未だ消息が判らないんだ。彼女の自宅から忽然と姿を消した。10年前のある日。」