第五話
不安がる私に紳士は微笑んで答えた。
「心配ないですよ。さっき窓の外をご覧になったでしょ?あなたの肉体は、もとの世界に置いたままなんです。実感はないでしょうが、今のあなたは精神だけ ここにいるんですよ。」
言われてみて、初めて気がついた。
両手を組もうとしても、すり抜けてしまう。
なんとなく、信じられない現実を受け止め始めたとき、清が近づいてきて、話しかけた。
「信雄には、迷惑かけてゴメンな。僕が消えたのが信雄の万博旅行とは関係なかったのに。こっちの世界で信雄と敬一が、そのことで仲が悪くなって行くのを見てて、なんとかしなくっちゃと思ってたんだ。」
そうだった。
私が家族と万博を見に行くと言ったことで 清が家出して、行方不明になったんだと敬一に言われたことで、残された私と敬一は疎遠になっていった。
「じつはさあ、信雄が万博に行ってる時、敬一に誘われて、天神山の裏にある お化け屋敷って呼ばれてる古い空き家へ遊びに行ったんだ。屋敷に入って しばらく歩いてた時、ガタンと 凄い音がして、びっくりした敬一は逃げ出してしまい、僕は暗闇の中に引っ張られたんだ。そして気がついた時は、このビルにいた。」
じゃあ、清と最後までいたのは、敬一だったのか。
敬一は、自分のせいで清が行方不明になったことを隠そうとして、私の万博旅行を理由にしようとしたというのか。。。
「僕は、敬一が信雄に本当のことを打ち明けて欲しかったんだ。それを伝えようと、敬一の世界とこちらが繋がっている時間を探してた。」
そこまで話した清の顔が悲しみに変わった。
その様子を見ていた紳士が、替わりに話しを続けた。
「私と清君は、やっと接点の時間を見つけたんです。そして、あなたを呼んだように、ここへ敬一君に来てもらったんです。しかし敬一君に いくらこの世界のことを説明しても理解してもらえませんでした。それどころか、彼は 清君や私を幽霊だと思い、怯え、泣き叫び許して下さいと繰り返すばかり。仕方がないので 一旦 精神をもとの世界に戻しました。しかし、その夜、敬一君は、、、取り付かれたかのように自らの命を絶ってしまったのです。」
敬一が自殺した?隠していた真実に、清の亡霊に そのことを責められ?
「私たちが敬一君を ここに呼び、自殺をしたのは、あなたがいる世界で、あさっての出来事なんです。あなたに来てもらったのは、敬一君が ここに来るまでに会って、理解をさせていただきたいのです。そして自殺を止めていただきたいのです。」