第四話
辺りが霧のようなものに包まれ、やがて はっきりと目の前にレトロな石造りのビルが現れた。
「どうぞ、お入りください。2階に上がった正面の部屋が入り口です」
その声のあと、携帯電話は切れた。
恐る恐るビルに入り、すぐ右手にある階段を上がる。
2階に上がると、正面にドアがある。
ドアノブを回し、ドアを開けてみる。
部屋は奥に続いていて、中年の紳士が出迎えた。
「驚かせて、すみませんでした。」
部屋に通され、ソファーに腰掛ける。
「ここは、あなたが生きておられる世界と、隣り合わせて存在する別の世界なんです。耳にされたことはあると思います。あなたが生きておられる世界は三次元。ここは四次元と呼ばれている世界です。」
この男は 何を言っているんだ?
流行りの 胡散臭い宗教まがいの団体か何かだろう。
関わりたくなかったので席を立ち、帰ろうとした その時だった。
部屋の奥から 一人の少年が現れた。
目を疑った。
それは間違いなく、中学生の時、一緒に遊び 突然、失踪した 当時のままの清だった。
どういうことなんだ?
巧妙に仕組まれた罠で、私を騙そうとしていると思った。
「私の過去を どう調べたのか知らないが、いい加減にしてくれませんか。」
腹立たしい気持ちで中年紳士に訴えた。
「信じてもらえないでしょうね。では、窓の下をご覧になってください」
今度は 何を仕掛けてるんだ?と思いながら、窓に立ち、下を見ると、そこには 携帯電話を耳に当てたまま静止している自分が居る。。。
人形ではない。似た人物でもない。それは間違いなく自分だった。
動揺が走った。
中年紳士は 私をソファーに腰掛けるよう促し、ゆっくりと話し始めた。
「私や清君たちは、何かのタイミングで この世界に入り込んでしまいました。あなたや私たちが生きていた世界、三次元という世界は、キャンパスに描いた絵や写真のような平面でしか表せない二次元に、立体、奥行きを加えた世界なんです。」
子供の頃、聞いたことのある話。
「今、あなたが入り込んでいる この四次元と呼ばれている世界は、時間という流れも、立体キャンパスに包含された世界です。つまり、ここは時間の経過がないんです。私や清君が、ここに来た時から一秒たりとも時間が進んでいないんです。」
私は疑問を覚え、紳士に尋ねた。
「あなたたちは、何故、ここに留まっているんですか?このビルから出れば、戻れるでしょう?」
紳士は 穏やかに答えた。
「この世界と、もとの世界とは隣り合わせで存在していても、行き来できる出入り口は、人それぞれ異なります。ここでは時間の経過が止まっていても、もとの世界では確実に時間が動いています。ウラシマ太郎の話しを思い出してください。私や清君が、偶然に出入り口を見つけたとして、その時、もとの世界が50年後だったらどうでしょう?もとの世界に戻った瞬間、50年のあいだ、食事をせず、老化が進む。死んでしまうんです。」
私は急に自分が心配になった。
「じゃあ、私も ここから出られないのですか?」