第三話
1983年 秋
仕事にも慣れ、社内で知り合った彼女と結婚をした。
清と敬一の消息、二人の星のことを忘れたわけではない。忘れたと思うように逃げていた。
1985年 春
妻が妊娠8ヶ月目に入り、休職に入った。
ある日 会社から帰宅した私に、妻が尋ねてきた。
「ねえ、ノブくん、きよしさんていう友達から電話があったんだけど、とても雑音が多くて、声も小さかったから聞きづらかったの。そういう名前の友達っている?」
中学生のとき、行方不明になった清か?生きていたのか?
偶然か?あの清なのか?
また、連絡するからとの伝言だった。
番号非通知のため、折り返し電話をすることができなかった。
翌日、営業先から帰社すると、
「キヨシ様からTELありました。また連絡されるそうです」
という伝言メモが。
昨日、妻は キヨシという人物に私の勤務先は伝えていない。
キヨシと名乗る人物は、私の自宅や勤務先を把握していることになる。
若干の気味悪さを感じ始めるなか、上司から新規取引先のリストを受け取った。
先方からの申し出で、私を名指しでの申し込みだった。
何社も飛び込み営業をしたリストには無い会社だ。
先方担当者に電話アポを入れ、翌日、伺うことになった。
先方の指定された会社の所在地に到着した。
そこは、解体が完了したビルの瓦礫が散らかった場所だった。
イタズラに引っかかったのか。
こちらからアクションしたわけでもない会社から取引の希望なんて、この時代に あるはずないよな。。。
しかし、そいつは私を名指しで連絡してきた。
何故だ?
キヨシという人物からの電話の件もあり、何か嫌な予感が走った。
念のため、その場所で、先方の電話番号に電話をしてみた。
相手が電話に出た。
「判りにくい場所で、すみません。あなたが入口の前で電話をかけておられる姿は、こちらからは拝見出来るのですが、そちらからは私共の会社は見えにくいと思います」
どこから私の姿を伺ってるんだ?
少しイタズラが過ぎないか?
腹が立ち始めた私の目の前に、一瞬、ビルの入り口のようなものが見えた気がした。