第二十七話 徴兵とゆかいな仲間そのに
さて、人はそろってきたと…
俺は、列になって並ぶボロ布をまとった人々を見て考える。
といっても、奴隷商を駆けずり回ってたったの300人ほどだが、それでもこの町だけで集めた奴隷にしては多いほうに入るのだろう。
なぜここまで奴隷の数が多いのか…それはこの町、ひいてはこの自治州の特産に大きく関連している。
この町、自治州内の首都といってもいい街、名前をタウルスといって、この町から各鉱山に併設された村々に
鉱夫として奴隷を送り込んでいるからだ。
この世界の鉱夫の寿命は短い。
坑道での落盤事故、地下水による水難事故、そして、元の世界にはいなかったモンスターとの縄張り争い。
そんな危険が待ち受けているのに身を守るのは気休め程度の布マスクだけなのだ。
そのため、常に鉱夫は不足し、命は二束三文で売り買いされる。
鉱石...鉄鉱石から魔石、ミスリル原石、アダマンタイトまで、この自治州はそんな希少な原石が採掘できる鉱山が集中しているのだ。
そんな危険やリスクを冒してでも手に入れる価値は十分に存在する。
だからこそ、人と利権があつまってくるのだが。
これからどうするのか考えている俺に、突然後ろから、野太い声がかかった。
「旦那~。待ってたわ~相変わらずの無能っぷりにアチモの心はドッキドキよ~」
筋肉隆々の体躯に見合わない女物の服を着こみ顔には薄く化粧を施した男が立っていた。
「なんだよアチモ、お前には選別を任せたはずだが?」
「それなら、もう終わったわよー
リストは村長宅の机の上に置いてあるわ」
「おいおい、これから奴隷をかき集める村もあるんだぞ?
まだ全然終わっちゃ…」
「違うわよ無能な旦那様。
この自治州全域にいる人間は感じ取ったからもう一々見る必要はないわ」
その答えを聞いて、俺はアチモの顔を見た。
薄化粧をしているがその下の表情は、こちらを見下したようにニヤついている。
まあ、嘘は言ってないが、こちらを試すような視線を感じる。
「はいはい、お前の”加護”はそういうものだったな…
しかし、よく生きていられたな。
人の思考がわかるってのは中々に狙われるものだと思うが…」
「うふふ…もちろん。何のために私が奴隷になったと思ってるの?
自分からに決まってるじゃない。
人の親切や優しさなんて幻想だもの。
だから、私は私の能力を知らない奴隷商に自分を売り込んだの。
まさか買われた先がこれから戦火に巻き込まれるなんて見当もつかなかったけど」
アチモの諦めたような声に俺は大まじめに返答する。
自分もそうだが周りが諦めていたらそれはそれで始まらないのだ。
「戦火に巻き込まれはするが、。
だから、今動いている。
そして、お前も自分の能力を俺に話してくれた。
違うのか?」
「あら、無能な上にお人よしだったわけね。
私の言うことが口から出まかせって可能性もあるんじゃないかしら?
そこまで考えてない時点でお里が知れているわよ」
「いや、大丈夫だ。
この前、お前に見てもらった連中で試した。
その時に、確証は得られた」
「その後で、私が故意にスパイを見逃す可能性は?」
「この状況でそれはあり得ない。
どこかとつながっていたとしても、王国、帝国の両方から攻められているこの状況ではどちらと繋がっていても攻めてきた末端の雑兵に内通者がわかるはずがない。
いくら味方だといっても殺されるのがオチさ」
俺の言葉に、アチモは面白くなさそうにつぶやいた。
「フーン、一応考えてはいるのね。
まあいいわ。
これからよろしくね無能な旦那様~」
「うっせえよオカマ野郎」
「あーら、私のこのイカした服装がわからないのかしら?」
「ああ、わからんね」
新しく仲間となったアチモに軽口を返すと俺は村長宅に向かう。
とりあえず、アチモが調べた内通者の確認が最重要だ。
「どうするつもりなのかしら、あの無能…」
「旦那が抜けてるぞ。
せめて俺の目の前くらいは旦那様くらいはをつけとけ」
「あら、ごめんなさいね」
そんなやりとりをしつつアチモのリストを確認するために村長宅に向かった。




