第二十五話 戦闘狂と元お転婆のお話
薄暗い部屋の中、数人が固唾を飲んで見守る中で、それは動き始めようとしていた。
部屋の中央には機器が密集し、外側には幾層にも書き連ねられた魔法陣がほのかに光を発している。
「第一言語に魔力循環を開始します」
「コアの始動を確認」
「続いて第二言語に魔力を循環」
「コアの魔力係数が増大していきます」
「続いて、第三言語に魔力を循環」
「コアの魔力係数さらに増大」
「最終言語に魔力循環を開始します」
中央の計器類のさらに奥、水晶のような球体が光を放ち、やがてゆっくりと人型の物体が起き上がった。
「ゴーレム起動を確認っ!」
その瞬間一つの影が飛び上がった。
「よっしゃあ!!
続いて、総合試験を開始するぞ!」
興奮冷めやらぬ声で、手早く支持を出すと、周りにいる人間もそれに合わせて、動き出した。
「了解しました。
続いて木偶人形の可能性ステージⅡの総合試験に移ります。
想定環境は「コロシアム」、殲滅レベルは「対人級」、ステージⅢへの移行目標は人間と同等の知性と戦闘力そして才能値350以上の可能性の確認になります」
ゴーレムと呼ばれた人型がゆっくりと歩きだし、広い部屋の照明が次々と点灯していく。
歩き出したゴーレムがたどり着いた先は大きな闘技場、その先にはステージに立つ人影が数人見えた。
「それでは…ステージⅡ総合実験を開始します」
アナウンスと共にゴーレムはステージへと飛び上がった。
「ほぉ…流石と言った方がいいのかな?
発足から2年足らずでこれだけの成果を上げるとは…正直驚いている」
起動したばかりのゴーレムが用意した囚人を次々に屠る様子を貴賓席から眺めていたリドウィンは少なくない驚きを隠そうともせずにつぶやいた。
「当然でしょ。
私を誰だと思ってんの?
第四王女ソフィリア様よ!
私がやるといったことは必ずやり遂げるわ」
そう元気に返すのは、大柄で巨体のリドウィンとは正反対の小柄でしかし尊大な態度の第四王女ソフィリアだった。
「それでもだ。
2年前のお前であれば、俺もなんの躊躇いもなく、俺の前に対峙した瞬間に捻り殺しただろう。
それほど腐った存在だったお前が、ここまで変わるとはだれにも想像できまい。
ククク…やはりというかお前にとって大切なお姉さまであるアーメルの存在が大きいということか」
アーメルと言う単語が出た瞬間、ソフィリアは露骨に顔をしかめた。
「あーら、リドウィンお兄様は武術だけの脳筋だと思っていたのですけど、皮肉をおっしゃる頭がおありだったとは知りませんでしたわ。
…あんな奴、お姉様でもなんでもないわ!」
「あはははははは!そうか!そうか!
宮廷で誰もがお前たちを面白い酒の肴と思って視ていた。
それだけお前たちの関係は滑稽だったぞ…だが、それでもだ。
結果としてアーメルはお前を更生させ、ますます王位継承権争いが熾烈を極め、我が父の思惑通りとなっていることは認めざるを得ないであろう?」
その言葉にソフィリアは心底嫌そうに「フン」と鼻を鳴らした。
彼女自身が、アーメルとの関係を言われること自体が不快なのだろう。
「だからいやなのよ。
あいつは私から大切なものを奪っていった。
だから取り戻す。
今度は私が奪う番なの。
ところで、交渉のお時間といきましょう?
私はこのゴーレムを500体用意できるわ。
それで足りそうなのかしら?今回のあなたの闘争は?」
「ふむ、妥当だろう。
だが、250体でよい。
こちらも、それなりに揃えている。
お前のゴーレムを使うのはあくまで我が軍の生還率をあげるための最初の一撃に使用するまでだ」
「ふーん。
まあいいわ。
あんたがそこまで言うんなら別にそれでいいけど…本当にきっちりあの女から奪ってこれるんでしょうね?」
「心配ない。
アーメルは俺に貸しがある。
それと、いい加減お前も騎士をつけた方が良いのではないか?
お前がいくら構成したとしても愚かなことに宮廷内で、依然としてお前を嘲笑する声がなくならないのも事実なのだ。
俺は、この王位形状戦争をますます面白くしたい。
だから、ライバルが増えることは歓迎だが、むざむざ殺されるのは本意ではない
遺産断片を解析し、我が王国に貢献したその手腕はさすがと賞賛に値する。
俺はお前を殺す価値のある存在と認めたのだ。
だから、せいぜい俺を楽しませろ」
うぇーとソフィリアは露骨に嫌そうな顔をした。
リドウィンとはこういう男なのだ。
闘争の権化、知略謀略戦略そのすべてを愛し愛おし、その中に自らを置くことを至上としてる戦闘狂なのだ。
もし、彼がこの国の王となればこの国はますます戦争を続けるのだろう。
それも一切合財すべてをかけた戦争をだ。
それを認識しソフィリアはあらためて目の前の敵に告げる。
「はいはい、わかりました。
せいぜい、生き残りますよ~。
言っておくけど、私は私でほしいものがある。
それこそ、そのためなら…たとえリドウィンお兄様であろうと、父親であろうと皆殺しにしてでも欲する程度に執着できるものが私にもある。
簡単にどうにかできると思ったら大間違いよ?」
ソフィリアの決意表明のような宣戦布告を聞いたリドウィンは、その意思の強さ、意地の強さを確認し、ククっと喉の奥で笑った。
「ああ…いいぞ。
お前をやっと殺しがいのあるものと認識した。
それでこそ、アーメルの謀略から生き延びた王位継承者だ。
よかろう…おまえの欲しているアーメルの持つその“左手”とやらとゴーレム250体…等価交換と行こうではないか」
「契約成立ね。
ゴーレムは10日後にそちらに送るわ。
っと、そうそう…紹介するわ。
私の“騎士”を…そろそろ気配を表していいわよ?」
そういうと、いつの間にそこにいたのか、ソフィリアの後ろに一人の女性がいた。
そのことだけで武に秀でたリドウィンは戦慄する。
自分が気配を感じないほどの手練れと、それを従える我が妹に。
そして、やはり自分の認識は間違っていないことに内心狂喜した。
「私の“騎士”クーノ・フォン・ルバーンよ」
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